2003年04月17日(木)  3分の1の不条理。
受け付けに弁当が届くのです。午前10時くらいに弁当を注文するのです。昼休み前に弁当を注文した看護婦さん達がナースステーションに集まって一斉にジャンケンポンッ! やった勝ったよ。一発で勝ったよ。僕1人グー。みんなチョキ。1人勝ちだよ。弁当取りに行かなくて済むよ。早く休憩室行って一服しよ。
 
「ちょっと待ってよ。アナタなに1人で勝ってんのよ。馬鹿。空気読みなさいよ」
「は?」
「読みなさいよ」
「え?」
「ほら、婦長さんも負けちゃったじゃない」
 
今日の弁当ジャンケンには婦長さんも混ざっていた。しかしこれはジャンケン。グーかチョキかパー。このたった3種類の手段を駆使して自らの運を細い右腕に託さなければいけない。結果、僕の1人勝ち。何も悪いことはしていない。弁当取りに行かなくて済むよ。早く休憩室行って一服しよ。
 
「私も負けちゃったじゃない」
 
えー! 婦長さんまで! 大人げないじゃないですか。全然潔くない。たかがジャンケンで。そんなに未練がましいこと言っちゃって。大人げないなぁ。早く休憩室行って一服しよ。
 
「私負けちゃったわ」
 
婦長さん2回も言わなくていいじゃないですか! 何みんな深刻そうに肯いてるんだよ! 畜生。みんな大人げないなぁ。
 
「それじゃあジャンケンで勝った人が弁当取りに行くことにしましょ」
 
でた。でたよ。ゲームの途中で平気でルールを変える奴。自分の都合じゃないか。世の中そんなに上手くいくもんか。
 
「そうしましょうそうしましょう」
 
ちっ! みんな敵かよ! 集団悪だくみかよ。多勢に無勢。辛い。悲しい。泣きたくなってきた。
 
「いいわよ。どうせアナタ辞めちゃうんだから」
 
でた。でたよ。「どうせ辞めちゃうんだから」辞める奴にはどんな仕打ちをしてもいいのか。
 
「ホントですよねぇ。寂しくなっちゃうわ」
 
って婦長さん! 弁当取りに行けよ! 感慨に耽っている場合じゃねぇよ! 看護婦さん7人に囲まれて、丸出しのエゴイズムを押しつけられて、弁当取りに行きなさいと、辞めるんだからと、寂しくなっちゃうわと。不条理じゃん。やってらんねぇよ。不条理じゃん。痴漢冤罪の人の気持ちってこういうのだろうなぁ。
 
「昼休み短くなっちゃうから早く取りに行ってきてください」
「あっ、はっ、はい。すいません」
 
って、えー! なんか僕謝ってるし。すでに足は受け付けの方角に向かってるし。あーアホらし。やってらんねっス。あー。事務のお姉さんだー。こんちわー。
 
「またアナタが弁当取りに来たの?」
 
これに関する詳しい事情は話さないよー。アホらしいから。不条理だから。どうせ僕はあと10日もすれば辞めちゃうんで平気なんです。はーい。みんなから預かった弁当代4230円。どうぞー。
 
「はい。ご苦労様」
 
と、事務のお姉さんから受け取った8つの弁当が入ったビニール袋。看護婦さんたちはナースステーションから顔を覗かせ弁当の到着を今か今かと待っている。へっ。
 
「あー! こらー! やめなさーい!」
 
僕はナースステーションに向かいながら弁当が入ったビニール袋を遠心力にものをいわせブルンブルン振りまわす。看護婦さんたちの悲鳴。ざまぁみろってんだ。僕はね、ジャンケンで勝ったんです。しかも1人勝ち。弁当取りに行く筋合いなんてないんです。すると、どちらかというと武闘派の看護婦さん2人が掛けよってきて、僕の頭を小突く。
 
「あんた何やってんのよ!」
「あー、すんませーん」
 
と、また小突かれる。
 
「どうしたのですか」と、婦長さん。
「ヨシミ君が弁当振りまわしてたんです!」と、武闘派。
「まぁ、そんな乱暴な」と、婦長さん。
「そうですよそうですよ」と、同意する武闘派。てめぇさっき小突きやがったくせに。
 
「わぁー!」
「あぁっ!」
「まぁ」
 
婦長さんは給料いっぱい貰うからお昼に うな丼なんて食べることが可能なわけですよ。僕は小市民なのでノリ弁ですよ。婦長さんは うな丼ですよ。タレだく。振りまわすと、タレがこぼれる程のタレだく。ビニール袋の中はうな丼のタレだらけ。ノリ弁からも唐揚弁当からも漂うほのかなウナギのタレの香り。
 
「あぁ、すいません。ジャンケンで、勝たなければよかった」
 
これが精一杯の抵抗でした。

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