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| 2003年03月20日(木) メガネの女の子。その他もろもろの不毛なお話。 |
| 何かネタになる事態が起きてこそ、日記を書く文章も進む、もといキーボードを叩く速度も上がるってものです。今日の空港の出来事だけで、ちょっとした短編小説だって書くことができます。あぁこの世には実にいろんな人がいるものです。 まず、メガネの女の子のことから書こう。鹿児島空港発羽田行きエアマークスカイライン302便 E−19番。窓際の席に僕は座りました。シートベルトを締めて、って。この飛行機のシートベルト。不測の事態に備えて締めるのでありますが、不測の事態が起きたらまず死ぬと思います。この頼り気ないたった1本のベルトで人の命なんて救えることはないと思います。が、ベルトを閉めないとスッチーに注意されるので、もとい、シートベルト? やってらんねぇよ。ほら、オレ締めてないし。どう? スゴイ? オレって悪い? なんて修学旅行のヤンキーのような意味のないところで体制に反抗する年頃でもないので締めろと言われれば素直に締めるわけであります。と、まずメガネの女の子のことから書こうと言ったのにすでに脱線。脱輪。失墜。墜落。文章は起承転結。これを忘れてはいけない。メガネの女の子のことを書くと言ったらメガネの女の子のことを書く! 肝に命じて、メガネの女の子のことを、この池袋の薄汚いビジネスホテルの一室で思い出しながら、って、さっきからここは何故か風鈴のような音が聞こえる。気のせいで、ありたい。 さて、僕の座席の横に座ったメガネの女の子。非常に落ち着きがありません。僕は文庫本を読んでいるのだけど、さっきからコソコソコソコソ何かやっているので、本の内容がちっとも頭に入らない。メガネの女の子といっても、多分、僕とそんなに歳は変わらないと思う。いよいよ飛行機が動き出すと、その落ち着きの無さが一層増して、身を乗り出して窓から見える景色を覗こうとする。窓際には文庫本を読んでいる僕が座っているわけで、そこに彼女が身を乗り出すものだから、文庫本の文章の少し上あたりに彼女の鼻や口、ならびにメガネが僕の視界に入るわけであります。純情可憐な女性の鼻や口、ならびにメガネが視界に入りつつ、文庫本の世界に没頭しようなど、どだい無理な話で御座います。離陸した今、「座席変わりましょうか」なんて言えないし、言える状況だとしても別に言おうとは思わないけど、まぁ、とにかく困ってしまう状況なのであります。 そして機内アナウンス。「救命胴衣の着用方法を説明します」などとうそぶきながらスッチーがフゥー。フゥー。って上品な仕草で救命胴衣を膨らますジェスチャーを始めるわけであります。これが私達の仕事なのよ。と誇りある決意を胸に小指を立てながらエレガンスに救命胴衣の紐を引いたりしてるわけであります。馬鹿馬鹿しい。死ぬよ。もう、そういう事態が来たら死ぬんだから。そんな往生際の悪いことはよしなさい。と思っているわけですよ僕は。そしてメガネの彼女。スッチーの一挙手一投足を見逃さぬよう食い入るように眺めているわけではありませんか。僕の分まで生きてくれと思いました。 さて、この彼女、窓から見える景色が青い空と白い雲ばかりになってからようやく落ち着きを取り戻して自分の座席の然る場所に然る姿勢で座ったのでありますが、それでも時折、チラ、チラ、と、いや、グイッ、グイッっと、おもむろに首を動かして窓から見える景色が気になるようであります。もうね、窓の外には空と、雲しか広がっていないんですよ。至極無機質な景色なんですよ。UFOでも飛んでいないかぎりそこには事件も、ロマンスも生まれないんですよ。だけど彼女は窓を見る。時折彼女の鼻や口、ならびにメガネが僕の視界に入ってくる。あぁウザい。これが男ならばひっぱたいて「男が空など眺めてどうする!」などと罵倒してやるのだが、相手は女性。しかも若い。メガネをとると、いや、メガネをつけていてもなかなか可愛い。彼女が身を乗り出すと同時に栗色の髪の毛がなびいて、とてもいい匂いがする。情状酌量の余地がすごくある。だから許す。僕は我慢する。 って思いながらしばらく我慢していたのでありますが、次第にそれも我慢できなくなって、いや、その状況が僕の忍耐を削ぐような結果になってしまったのです。「機体は只今上空何千メートルを飛行しております」なんてだからどうしたんだ的な機内アナウンスが流れるわけであります。例えば山の手線の電車の機内アナウンスで「えー。只今時速70キロで走行しております。次はシンジュクー、シンジュクー。お出口は右側でございます」って言うのも、だからどうした的なんですよ。だからどうした的の無意味さを知っているから山手線は時速何キロで走っておりますなんていう不毛なアナウンスは流さないのであります。だけど飛行機は不毛といいますか、オレすげぇ高いとこ飛んでるんダゼ! みたいなことを伝えたい出しゃばりなところがありますので、いちいち不毛なアナウンスを流すのであります。 と。窓の外。上空数千メートル。どこまでも青い空が広がって、太陽を遮る雲でさえ、僕たちの目前に広がっている。雲の上はいつだって晴天なんだ! ヤホォ! 洗濯物とか布団とか、干し放題! なんて僕は馬鹿じゃないから喜ばないわけですよ。しかし窓からは望んでもいない太陽の光が絶え間なく差し込んでくる。まぶしい。暑い。遮光カーテンを閉めたい。しかしメガネの彼女がしきりに窓の外を気にするものだから閉めるに閉められない。この遮光カーテンを閉めたと同時に、彼女の夢をも閉ざしてしまうことになりかねない。なんて尊大なことまで考える始末で、僕は顔いっぱいに太陽の恵みを授かりながら目を細めて文庫本を読んでいたのであります。 と、まだ続きがあるのだけど、もうメガネの女の子の話はおしまい。早く次の事件、手荷物のオヤジの話を書きたくてしょうがない。しょうがないけど、こんなに長く書いてしまったし、実はさっきから、さっきからというのは3段落目の機内アナウンスの話を書くあたりから小便に行きたくてしょうがなかったので、今日はもう終わりにします。、しかしさっきからこの池袋の薄汚いビジネスホテルの一室は何故か風鈴のような音が聞こえる。気のせいで、ありたい。壁に掛かっている絵画の裏を覗かないで、そもそもそんなものなかったかのような心意気で、小便に行って、寝てしまおう。 |
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