2003年03月17日(月)  社会勉強。
後輩が仕事帰りに釣具店に行くと言ったのでついて行った。
 
「先輩も釣り始めるんスか?」
「いや、釣りするんだったらまだ千葉ロッテのキャッチャーになった方がましだよ」
「比較の仕方がよくわからないんスけど」
「今日は、何を買うんだ」
「先輩に言ってもわかんないと思うんスけど、ガン玉とか……」
「ほぅ、ガン玉か。知っている」
「じゃあどんなやつか言ってみて下さいよ」
「なんだその見下した言い方は」
「言ってみて下さいよ」
「千葉ロッテのキャッチャーになった方がましだよまったく」
 
と全く噛み合わない会話をしながらやってきました釣具店「海遊館」うん。海遊館。もし僕が釣具店を開店することになっても「海遊館」と名付けると思う。そのくらい普遍的なネーミング。海遊館。
 
「なんかベタな名前だなぁ」
「先輩声大きいっスよ」
 
そう言われて気付いたのだけど、釣具店はうちの近所の図書館より静けさに溢れている。波の音すら聞こえない。当然だけど。波の音はともかく、店員の威勢の良い声とか、客同士の情報交換とか、そういったものが皆無なのだ。皆、釣具を目の前にして、なんだかウンウン唸っているようだ。
 
「ほら、見てみろ。全て孤独の中で解決される趣味なんだ。釣りなんてのは」
「先輩意味わかんないスよ。そんなイヤだったら帰って下さいよ」
 
後輩もなかなか孤独の世界へ入っていけないのでイライラしている。そのうち別行動を始めて、後輩は孤独の世界へ入っていって、僕は釣りの時に着るウェアーやキャップ、サングラスなどを見ながら「これはダメ。これもダメ。これは百歩譲って着れる。これは案外お洒落。これなど言語道断」などと街で歩いて着ることのできる服が何種類あるか考えていた。サングラスはすごい前時代的な形をしてたのでどれもダメだった。
 
後輩が何やらエサが山積みされたコーナーで考え込んでいる。
 
「どれ買おうかなぁ」
「これなんてどうだ」
「わぁ。なんスかそのサングラス。早く返してきて下さいよ」
「どうだ」
「似合わないっスよ」
 
―――
 
「返してきた」
「いったい何しに来たんですか」
「ファッショナブルに釣りなどできないものかと考えていた」
「余計なお世話ですよ」
「それを、買うのか」
「そうですよ。チヌのエサです」
「キミの家の犬の名前か」
「どうして釣具店で飼い犬のエサなんて買わなきゃいけないんですか。黒鯛ですよ」
「黒鯛のことをチヌと言うのか」
「そうです。常識ですよ。僕は明日チヌ釣りに行ってくるんです」
「勝手に行けよ」
「なんかさっきからすごいムカつくんスけど!」
 
後輩はチヌのエサと、その他もろもろ(あとは忘れた)を物静かな店員に差し出し、沈黙の中、購入した。海遊館。沈黙の海遊館。やっぱり僕が釣具店を開店するのならばもっと賑やかなお店にしたい。釣具店「竜宮城」ポイントが溜まったら玉手箱贈呈! なんてね。
 
「このエサには何が入ってるんだ」
「えっと、おし麦とか入ってます」
「おし麦?」
「そうです。チヌはおし麦が好きなんです」
「どうして海の中の生き物が麦なんてものが好きなんだ」
「知らないっスよ。好きなものは好きなんス」
「おいおいおい。問題をあやふやにするなよ。これは結構重要な問題だと、思うんだけどなぁ」
「じゃあ先輩が考えればいいじゃないスか」
「え、僕が? 釣りなんてしないのに?」
「考えればいいじゃないですか」
「え、麦が? チヌなんて知らないのに?」
「ワケわかんないっスよ」
 
という社会勉強を仕事帰りにしてきました。

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