2003年03月14日(金)  ボランティア。
「何度言えばわかるんですか!」
 
ナースステーションにこだまする怒声。2週間前に入ってきたばかりの新人と、足掛け8年で主任の僕。肩をすくめて泣きそうな顔をしているのは、なぜか僕。今日は新人さんに、怒られました。
 
「ねぇこの点滴、202号室の患者さんだよね」
僕は新人さんに確認を委ねる。医療ミスを犯さないためにも、この「確認」が重要なのだ。
「そうです」
新人さんはカルテを開きそう応える。とても綺麗でけなげなので、もっと話がしたくなる。
「ホントに?」
「そうです」
新人さんは再びカルテを開き先程よりも確信を込めた口調で応える。けなげだ。
「じゃあ点滴行ってくるね。20……」
「2号室です」
「あぁ、そうだった。202号室。この点滴は、202号室の患者さんだよね」
「そうですって」
「ふむ。点滴に行ってくるよ。それからタバコを吸ってくるよ」
「吸わないで下さいよ。忙しいんだから」
「じゃあタバコは吸わない。点滴に行ってくるよ。えっと、20」
「2号室です!」
「そうかい。へへ。お尻が、痒いや。点滴に行ってきてよ」
「主任さんが行ってくるって言ったじゃないですか」
「言ったかなぁ。あぁ、言ったような気がする。じゃあ行ってくる。お尻も、痒い。で、何号室だ?」
「何度言えばわかるんですか!」
 
とまぁ、いつものように僕は故意に人を怒らすことが好きというか、もはや趣味の範疇に入るのだが、勿論本当に怒るような人にはこのようなことは言わない。こういう会話は、お互い楽しんでこそ成り立つのだ。「へへ、へへへ」「んもう!」このやりとりが醍醐味なのだ。お尻を掻きながら、へへ、へへへ。ヤベ! 婦長さんだ。「いったいどうしたって言うのよ」婦長さんが威厳を込めた口調で話し掛ける。僕は恐縮して、お尻を掻くこともやめて、もっとも最初からお尻なんて痒くもなかったのだけど「あぁ、婦長さん、ご機嫌用。天気が良いじゃないですか。あれ? 口紅、変えたんですね。僕にはわかります。春が来たようだ。コスモス畑のようだ。いけねぇ、コスモスは秋の花だった。僕は、今から点滴に行くんです。新人さんにも、教育してたんですよ。へへ」僕はのらりくらりとした口調で話す。婦長さんは、婦長さんなので、僕のことは何でも知っている。親知らずの残りの本数まで知っているんだから! 「ハイハイハイ。わかりました。で、どうしたの?」と僕の話を適当に捌いて新人さんに話し掛ける。「もう! この主任さん、同じことばっかり話し掛けてくるんです!」と、もう小学校の教室状態。僕は逃げるようにナースステーションをあとにしようとしたその時、
 
「しょうがないですねぇ、あの主任さんはいらないストレスばっかり抱えていて、少し可愛そうな子なんだから、ね、ボランティアだと思って、相手してやって下さい」
 
さすが婦長さん。僕が一番傷付く方法を知っている。

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