2003年02月05日(水)  静と動。
昨日の日記に書いた一昨日の夜に立体駐車場の3階から飛び降りた左膝出血打撲事件で職場の僕の辞職でしんみりムードが一転して、罵倒の嵐。しんみりムードの1日天下。悲しいのと痛いので泣きたい。ていうか左膝がすごいことになっている。野球ボールが誤って僕の膝に当たってそのまま皮下に埋まってしまったようになっている。洒落にならない。全然洒落にならない。怖い。骨折とか。入院とか。入院でもしてそのまま辞職の日を迎えるなんて辛い恥かしいもう生きていけない。だから頑張る。折れてても頑張る。頑張って悲愴感なんて漂わせちゃって。ね。傷を負った男は勇ましいのだ。たとえ酔って立体駐車場の3階から飛び降りたとしても。
 
でもどうして飛び降りたの? 勿論その質問が多いわけね。みんなバカだのアホだのサルだの罵倒するだけ罵倒して、一段落してから、同情してくれるのかと思いきや、どうして飛び降りたの? いや、理由を訊ねられる前に僕は痛いんです。どのくらい痛いの? とか大丈夫? 今夜夕食作ろっか? 今夜添い寝しなくていいの? とか訊ねて欲しいんです。訊ねてくれたら僕はあらんばかりの悲痛な表情を駆使してこの不幸を演出するというのに!
 
でもどうして飛び降りたの? いや、ね、酔ってたんです。ただ酔ってたんです。「酔っ払って立体駐車場の3階から飛び降りた人ってあなたが初めてよ」然り! その通り! 反論のしようがないね。参った。酔ってたのは建前です。ホントはね、2次会に行きたくなかったんです。でね、後輩が立体駐車場の1階に車を停めた瞬間、後部座席に座っていた僕は右手にホットの爽健美茶を握りしめたまま颯爽とドアを開け、逃げたいのならば道路の方へ、繁華街の人波の中に紛れ込めばいいものの、なぜか僕は、サルだから、ね、みんなが言うようにバカだからね、煙なんです。高い方へ高い方へ。
 
カンカンカンカンと甲高い音を立ててアルミ製の階段を昇り、2階へ上がり、見回して、なんかカップルがいかがわしいことをしていたので、お幸せに! って叫んで3階に上がって、やはり見回して、隠れられそうなところがなかったので、柵を乗り越えて、冷たいアルミの手すりを掴みながら息を殺してしゃがんでいたんです。階下では「先輩が逃げたっ!」って怒号が響いて、ね、夜の立体駐車場って必要以上に声が響くんです。「階段昇ってった!」エコーなんかしちゃって。怖くなってくるんです。本当に僕は悪者から逃げているみたいだ。って思えてくるんです。なんかすごい罪悪感と恐怖感。カンカンカンカンッ! ってね。やっぱり甲高い音を立てて後輩が追って来る音が聞こえてくるんです。もはや悪魔の足音ですよ。死神が大鎌を持って僕の首を刈ろうとしてるんです。ね。酔ってるから、そんなことばっかり考えてるんです。
 
で、後輩がどんどん近付いてくるんです。2階辺りで「お幸せに!」っていかがわしい行為に耽るカップルに向かって僕と同じこと言ってるんです。そして3階到着ですよ。後輩の息が切れる音。僕が息を殺す沈黙。動と静の闘いですね。僕の方からは後輩がよく見えるんです。しきりに辺りを見回してるけど、僕は冷たい手すりの外。見つかるわけもなく。このままやり過ごして早く帰りたい。なんかもう、今日は家に帰ってすごく泣きたい。冗談とか、下ネタとか言ってるのが悲しい。まだあと2ヶ月も職場にいるっていうのに、もう、後輩たちと何かの繋がりが切れてしまったような気がして、とても辛い。すまん後輩。僕は最低な先輩だった。あ、携帯鳴ってる。
 
「いたっ!!」
僕の負けですよ。後輩頭いいですよ。つーかその程度の知恵、思い付けよ僕。酔ってなければ携帯をマナーモードにして息を殺し続けていた。最後の最後にしくじった。ん? 僕には足がある。酔ってるから、多分、翼だってある。えっとここは、何回階段昇ったっけ? うん。確か3階。すごく高いような気がするけど確か3階。後輩! こっちだ! ブルルンブルルン! エンジン! エンジンとか! さっきまで翼があるとか言ってたくせに! どうしてエンジンの形態模写なんか!
 
「コケコッコ!」
 
そして僕は深夜の立体駐車場から飛び立った。
僕が心から望んでいることは、立つ鳥、跡を濁さず。ってこと。ね。バイバイ。

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