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| 2003年01月24日(金) 男は根気、女は色気。 |
| 昨日、鹿児島空港に着いてバスを待っていた。僕の隣にはやけに多い荷物を抱えた20代前半の女性。ボストンバッグと書類のようなものを抱え携帯で何か話している。とにかく彼女の荷物は多くて、両手で抱えるには多少無理があるような、ほら、書類落ちちゃった。 「あっ!」という彼女の声と同時に散乱する数十枚の書類。今日は本当にあったドラマティックな話をしたいと思います。バスの停留所には僕と彼女だけ。この状況で次に生まれるドラマティックな展開。そう、突風が吹くんですね。北風が力を込めて旅人の服を吹き飛ばさんとする如く、数十枚の書類をぴゅぅぅっとね。 「きゃぁ!」彼女の声が小さな悲鳴に変わる。滑走路を走る飛行機の如く、風に乗って飛んでいく書類たち。その時僕は彼女とは全く違う方向を向いていて、バッグは地面に置き、両手はポケットに入れ、ブルブルガクガク震えながら「畜生、鹿児島も寒みぃじゃねぇかよ」と暗に故郷を呪いながらいつまで経っても来ないバスを待っていたが、彼女の悲鳴が耳に入り、我に返って「あっ!」でも「やばい!」でもなく、なぜか「ドラマ!」と頭の中で閃いて、その後「拾わなきゃ!」とか「走らなきゃ!」でもなく、「役者!」とか「俳優!」などと閃いて、遂には「その後食事!」「満を期してホテル!」とか、何がなんだかわからないことを考え出す始末で、とにかく彼女は両手に大きな荷物を抱えていてすぐに書類を拾いに走れるような状況ではなく、僕は名古屋にまで行って、友人にお土産など買わず、唯一買ったお土産といえば「サザエさん八丁味噌煮込みうどんパイ」ぐらいで、バッグの他の荷物はほぼ皆無で、唯一の荷物も地面にだらしなく置いていて、靴はプーマだし、パンツはストレート。ジャケットとシャツはアバハウスのやつで少し高めのやつだけど、すぐにでも走って羽ばたく書類を取りに行くことができるので取りに行った。 あぁ、書類取りに行っている間にバスが来たら嫌だなぁと考えながら草原を闊歩する兎の如く右へ左へ飛んでいく書類を追った。周囲はすでに薄暗く、飛んでいく書類もおぼろげながらにしか見ることができない。しかし、しかしだ。もし僕が書類を全て拾い終えたと思い込んで彼女の元へ帰ったとする。彼女は感謝の笑顔で僕を迎える。うん、ドラマだね。「ありがとうございます。何? 王子様とか? あなたは白馬に乗った私の王子様とか?」なんて今にも抱きつかれんばかりの感謝を表し、拾った書類を確認する。1枚足りない。だけど彼女は1枚足りないながらも、書類1枚不足相応の笑顔でそれなりに感謝するであろう。しかし書類が1枚不足してるからそればかりが気になってこれから食事に行きましょうなんてドラマティックな、悠長な、阿呆のような展開など考えられるワケがない。ここはなんとしてでも書類をコンプリートして彼女の元へ持って返り、白馬の王子様になって阿呆のような展開にしなければならない。あぁ、それにしてもいったい何メートル走ってんだ。彼女の姿まで見えなくなっちまった。彼女の姿も書類も見えねぇ。とうとう僕は独りぼっちだ。あぁ、こんな間にバスが来たら嫌だなぁ。 それでも僕はお爺ちゃんが言っていた「男は根気、女は色気」という言葉を思い出し、噛み締め、気骨を振り絞り、粒々辛苦しながら1枚1枚拾い集め、とうとう自分的にコンプリートを達成した。あとは彼女の元へ駆け戻り、いや、駆け戻っちゃいけねぇ。こう、襟を正して何? 書類? 飛んでたの? 歩いてたんじゃないの? ノロいよ書類。みたいな、余裕を持った表情をして飄々と歩きながら彼女の元へ戻って行くと、バスが来て、まるで突如として舞い降りた辛酸を舐めた僕の存在を無視するがの如く、バスまで、飄々と去っていってしまった。ていうか彼女止めろよ! バスをよ! と叫んでみたかったけど、叫ぶと彼女が恐縮してしまって、白馬の王子様っていうか山賊? なんて思われて、その後の阿呆のような展開は訪れないかもしれない。いや、彼女はあえてバスを見逃して、その後訪れる「有難うお礼に食事行きませんか無論、暗に1泊覚悟を想定して」という場面設定をしているのだ。ありがとう。彼女。僕はさすがに白馬の王子様じゃないけど山賊でもない。森の熊さんくらいが妥当だろう。お礼に歌いましょう。白い貝殻の小さなプレゼントー。ん? 歌詞が違うような気がするけど、まぁ、そんな感じだろう。 「ありがとうございますっ!」 童顔の彼女の声は僕の予想と反してかなりハスキーボイスだったけど、ほら見ろ。僕って王子様? みたいな得意満面な反面、余裕に満ちた笑顔で返す。「いや、いいよ、このくらい。大丈夫。ねぇ、書類全部揃ってる?」全部揃ってないと阿呆のような展開にならないの。 「いや、別にいいんです。捨てようと思ってたやつだから」 もうすごくやるせない。 |
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