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2002年11月14日(木)

みんなハッピー

朝から、バタバタと数本の電話をこなし、仕事をしている私。
私が、「仕事をしてるなぁ〜っ」ていう実感を一番感じるのは、客先と電話でやり取りをしている時だ。
それ以外の、地道なPCに向ってやる本来の仕事は、私にとっては趣味の延長だ。

通常、OLとして仕事をしていたら、私の仕事には「営業」「制作管理」などの担当が別に存在する。
よって、見積をすることも無いし、進行を管理することも無い。
印刷業者や客先と交渉する事も、上司や営業担当がやるので、殆ど無い。
でも、今の仕事は、雇い主である社長君が、元同僚というのもあって何でもかんでも、こっちに振ってくるのだ。

今朝も私は見積の件で、印刷業者と客先と金額や納期の調整に当たっていたのだ。
まるで、営業マン状態だ。
社長という立場からしたら、当然、見積の値段が気になる。
だったら、そういう銭の交渉は自分でやってくれたらいいようなものだが、自分の仕事以外に全くの無知をかもし出す彼は、全てを私に一任する。
客先にだって、担当のものが連絡しますと言ったからの一言で、私に連絡させる。

私の立場は、雇い主が居てのお客様だ。自分の客じゃないので、無礼があった場合、私の損害ではなく、社長の会社の損害になる。
印刷業者は、私からみたら下請けになり、私は客なのだけれど、私は印刷会社の苦労を知っているので、あまり強くは物を言いたくない。
それに、気持ち良く仕事をしてもらわないと、何かの時に融通を利かしてもらえなくなり、結局その損益は社長の損益になる。
とにかく、私の立場は微妙なのだ。

まるで、私の仕事は「ザ・交渉人」 ネゴシエーターみたいなもんだ。
皆が皆、いいようになる為の仲介役が、私の仕事の一部となっている。
よく、客先の都合で手間が必要以上にかかる仕事がきたりする。
見積った段階で、少々の手間は料金に含めるが、それを越したら追加見積を条件にしているのだ。
でも実際は、社長と私の話し合いで「この程度の料金なんて請求できないっしょ?」という私の一言で社長は良しとしている。
これによって、得をしている客先が、知ってか知らずか結構あるのだ。

今回の印刷は、元々の印刷営業マンくんが転職をしたために、別の会社に移行することになった。
その営業マン君が、前の会社を辞める際にフィルムを引き上げてきてくれてたので、何の支障も無く依頼できる事になった。
営業マン君は、自分の今の会社の仕事のほかに、個人で動いてくれたのだ。
この有り難い状況を社長に伝えると、何か彼にお礼をしなければと言い出した。
別に、仕事だからいいじゃないの?と私が言うと

「俺のポシリーは、皆ハッピーじゃん?」

と社長が言う。
一瞬の沈黙の後、意味を理解した私が「それは、ポリシーね」と冷たくあしらうと

「ポシリー岡田」

とこれまた、おかしな事を口走る社長。仕方が無いので、
「それは、イジリー。っつーか、イジリーだったらパシリの方がまだ近いから」
と投げ捨ててやると、言葉が出なくなったようだ。

そう。
YAZAWA大好き我社長のポリシーは【皆HARRY】だ。
客先の大半は、元同僚の紹介が多いこの仕事。
紹介してくれた人も、紹介された客先も、仕事を受けた自分も社員も皆がHAPPY。
はっきり申せば、皆が儲かるようにということだ。

私は私で、一つの製品ができるまでに関わる全ての担当者が、気分を害さない事が理想だ。
だから、その為に自分の作業時間が増える事については、殆ど目をつぶり、サービスだ。

そんな仕事の仕方をしていると、客先からわざわざお礼のメールを頂く事がある。
そのメールは社長宛にきてはいても、内容は私宛のお礼ばかりで、彼は羨ましがっていた。
そんな社長のところへ、新規の客先からメールが届いたらしく「今、送られたから見るといいよ」と電話の最中に転送されてきた。
どれどれ?と見てやると、女性担当者からのメールで「♪」までついたお礼メールだった。

よほど嬉しかったらしい社長は、私が良かったねと言うとますます絶好調になり、

「あっ!大変だっ!急がなきゃっお昼の時間になっちゃう

とこれまた、訳の分からないことで急に慌て出した。
確かに、時間は昼4分前だ。彼は、昼になると自宅へ戻って昼食を取るのが通常だ。
あまりにも、またもや下らないので
「何言ってんだよ。どうせ1時半までいつも戻ってこないくせに」
とキツく言い返してやると、沈黙された。
そして、わざと受話器を口元から離したのであろう、遠い声で
「もしも〜しっ!もしも〜しっ!あれ?変だなぁ・・・」
と聞こえないフリ猿芝居をかましていた。

私は思う。
社長のポシリーだかである【皆HAPPY】は、彼の力ではなく私の苦労の賜物では無かろうか?と。
ネゴシエーターが私であり、犯人が社長。客先がFBI。
全ての事件の解決の影には、ネゴシエーターの存在があるのである。
なんだか、社長が皆をハッピーにするというよりも、
周りが彼がハッピーなるよう、動いているような気がする今日の頃である。

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