華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2004年10月05日(火)

遠くで私を叱って。 〜密室の悲劇〜


<前号より続く>



一週間ほど経ったある日。
給料日の後、懐が温もった俺は再びミカに会いたくなっていた。

再来月まで・・・といわれていたが、彼女の旅費の足しになるのだから、
会いに行き、先日と同じように遊ぶ分には構わないだろう。


ミカを指名するために、俺はスマイルに電話した。


「こんばんは。ミカさんを指名したいのですが」
 「今週は休暇を戴いております。来週辺りにもう一度お電話下さい」


あのよく喋る男ではない、聞き覚えのない声の店員がそう断ってきた。
半ば残念に思い、受話器を置いた。


その次の週の火曜日。
もう一度スマイルに電話した。


 「ハイ、ありがとうございます、スマイルでございます!」


あのよく喋る男が、威勢良く電話を取った。


「すみません、ミカさんをお願いしたいのですが・・・」
 「あの、会員様でしょうか?」

「はい、2週間ほど前にミカさんと遊んだ者なんですが」
 「・・・あ、はぁ」


男が急に口篭もった。

 
「どうしました?」
 「ミカさん、ですね。もう辞められました」

「そうですかぁ・・・残念ですねぇ」
 「ええ。私どももこんな事になっちゃって・・・」


店を辞める事は容易に想像できるものの、受付の男の言葉に引っかかった。


「こんな事?どうされたんです?」
 「ええっと、お客様はあの夜延長された方ですよね?」

「はい」
 「あの後ですねぇ、実は・・・」


その後の話に、俺は耳を疑った。



ミカを気に入った俺は確かに一度延長し、心癒される時間を過ごさせてもらった。

しかしその裏には、その延長に気分を害していた男がいた。
俺の後に予約を入れていたという、酒に酔った客だった。

その客は、俺が延長した事で相当立腹したという。
店の待合室で店員や他の待合の客に因縁を付けては絡んでいたそうだ。


そしてその酔漢とのプレイ中にミカは暴行され、ついに強姦されたと言うではないか。


プレイ時間が終わっても部屋に戻らないミカを不審に思った店員が迎えに行ったところ、
顔や身体の隅々に痣を作り、ベッドの上で泣き崩れる彼女を発見したという。


現場は雑居マンションの一室。
店舗の風俗店とは違い、悲鳴も漏れない。
中に入って鍵を掛けてしまえば、何が部屋の中で起こっていても、
もう外からは助けられない構造である。

ラブホテルで情婦や密会で仲違いした女が男で殺されたりする事件もあったりする。
性欲が暴走した男を相手にする危険を思い知らされる。


身境の無くなった男は、力任せに女を手篭めにした。
金で買われたとは言え、理不尽に暴行され、ついに強姦されたミカ。

恋人にもまだ許さなかった操を、一見の酔漢に理不尽にも奪われた屈辱と痛み。
ミカの受けた心の傷は、どれだけ深いものだっただろうか。


俺は過去にもレイプを受けた女の心身の苦しみを身近に見てきた。

男の腕力で暴行を受けた身体の痛み。
男の力に屈して身体を開かされた屈辱。
汚された身体を自らの非と負い目に感じる女心。
自らの意思とは何ら関係ない妊娠や性病への不安。
無論、まだまだある。

お互いが理解しあった上でのじゃれ合いなら「ままごと」で済む。
しかしどういう状況であれ、俺は手前の欲情のために女性を乱暴する男は許せない。

形にならない、矛先を見出せない、しかし抑えきれない怒りが湧き立つ。

しかしその遠因を作ったのは、他でもない俺だった。


「そうだったんですか・・・」
 「ミカもお客さんの事はまた会いたい、と言ってましたからねぇ」


俺とのプレイの直後、彼女は今まで見せた事がない微笑みを浮かべていたそうだ。

どうしたの?と受付の男が聞いたところ、
『初めてまた会いたいお客さんだったの』と俺の事を話したという。

あの夜、別れ際のはにかんだ微笑みを思い出した。
俺は無意識に下唇をきつく噛み締めていた。








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 「いやね、私も初めてだったんですよ。あの娘が笑うなんて。
  よっぽどお客さんの事が気にいってたんでしょうね」

「僕もそのつもりだったんですが・・・」
 「あの娘がそんな事を言ったのは初めてだったので、私どもも良かったねって」
  声を掛けた直後だったものでして・・・すみません」

「もう二度と出勤されないですよね?」
 「ええ、しばらくお休みを与えて考えるよう言ったんですが、もう嫌だ、と」

「そうですか・・・」
 「こちらもそれなりに手を打ったので、その男ももう店には来ないでしょうけど」

「・・・それなりに手を打った?」
 「え、まぁ、普通にご利用される分には関係ない事なんですが」


口を滑らせた男は、そう言って白々しく笑い出す。
俺もそれ以上言及はしなかった。
おそらく、物騒な意味での発言であろうと予測できたからだ。

こういう裏の業界は、堅気の人間だけでは仕切りきれない。
背後にある、関わりたくない業界の人間が蠢いている世界だと分かる。


その後もこの店を利用したが、ミカを越える時間を過ごせた女はいない。
間もなく、俺はその店の会員証を捨てた。

ミカに会いたかった俺。
ミカに会えないことを知り、その店に通う意味を見出せなかった。

心身ともに傷付いたミカはどういう気持ちで異国の恋人と再会したのだろうか。
いや、再会するところまでこぎつけたのだろうか・・・



俺には、もう知る余地も無い。



☆ 半年以上ぶりの更新となりました。
  毎度のご訪問&ご高覧ありがとうございます。
  
  本業が多忙なため、エレヂィを紡ぎ出す時間がありませんでした。

  次回作がいつ掲載できるかは未定ですが、
  今後とも「華のエレヂィ。」のご愛顧を宜しくお願いします。





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