華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年01月13日(月)

年下の男の子。 〜涙声〜


<前号より続く>



なにやら真知子の周囲からの雑音がひどい。
車のクラクションなどから、屋外で電話を掛けてきているのが分かった。


 「今ね、公園の公衆電話からなの」
「こんな寒いのに・・・家から掛けられないの?」

 「今、うちに彼がいるから・・・」
「彼がいるって、もう同棲しているの?」

 「違うの、実は彼が転がり込んできちゃって・・・」


真知子は当時まだ実家住まいだった。

泰之がその実家にまで転がり込んできた、という。
まるですでに婚約者気取りで。


「そんなの、追い出せばいいじゃん」
 「出来ないの・・・何しでかすか分からないし・・・」

「何しでかすかって?」
 「・・・・・・」


真知子は黙り込む。
俺は話題を変えた。


「ねぇ、泰之ってどういう男なの?」
 「・・・凄くヤキモチ妬きで、怒ると何しだすか分からないの」

「でも真知子は実家住まいでしょ?そこにまで来ているの?」
 「だって、泰之は私と結婚する気なんだもの・・・」

「真知子の気持ちは?」
 「・・・・・・分からない」

「真知子の両親は何も言わないの?」
 「・・・うちの親が何を言っても、彼は聞かないみたい」

「ちょっとひどいな、別れた方がいいんじゃないか?」
 「でも・・・でもね、彼には私が付いてなきゃいけないの!」


彼に関するヒントを求めて俺のところへ電話を掛けてきているはずなのに、
俺が彼を責める発言を始めた途端に彼を擁護する。

女心とは複雑なものだ。


 「でね、聞いてくれる?実はね・・・」


真知子の話題が本題に入る。


 「来ないの・・・生理が」
「もしかして、彼との子かい?」

 「彼としかそういう関係はないから・・・妊娠したかは、まだ・・・」
「もし出来てたら、どうするの?」

 「・・・だってまだ学生だから、もし産んでも生活できる状態じゃないと思うの」
「じゃ堕ろすの?」

 「・・・・・・」


感情的になっていたとは言え、思わず配慮の無い事を口にしてしまった。
俺は押し黙ってしまう真知子に謝った。


「まだ分からないんだよね、ゴメンよ」
 「それを彼にまだ話せないの・・・どうしよう・・・」

「どうして?相手が泰之なら話さなきゃ」
 「あの子、傷付いちゃうよ・・・そんな事言ったら」

「傷付くって、相手はもう大人の男でしょ?しっかりしなよ!」


なぜか事有ることに泰之を必要以上に庇っている真知子。

妊娠したかという瀬戸際、自分自身の一大事なのに、
彼女はなぜ泰之という大人の男に対して擁護しようとするのだろうか。



 「今ね、コンビニに買い物に行く事になっているから・・・もう切るね」
「ああ、何かあったら遠慮なく俺に言って・・・」


そう言い切る前に、俺の受話器から真知子の存在は消えていた。
ツー、ツー、ツー、・・・と無機質な音だけが、鳴り続けていた。


・・・真知子、また自分一人で何か抱え込んでしまうのかな。


俺は寝転び、天井を見つめながらぼんやりと嫌な予感を感じていた。
真知子とはそういう女だ。



しばらく音沙汰が無かったが、その電話から一ヶ月ほど経った時、
真知子から電話があった。


 「もしもし・・・平良君?」
「真知子?元気か?」

 「うん・・・あのね」


改まって、真知子は前回の話の続きを切り出した。


 「やっぱり出来てたの、赤ちゃん・・・」
「そうか・・・」

 「でね、思い切って・・・泰之に話したよ」
「そうか、どうなったの?」

 「彼、泣きながら大学辞めて働くからって言ってくれた」
「・・・なら良かったね、だったら問題は無いよね・・・」


真知子の胎内にいる生命は自分の子どもだと泰之が理解し、
大学を辞めて生活をしていこうとするのなら、それで何ら問題は無い。

男として決して立派とは言えないが、責任ある大人としての門出であろう。


 「そうじゃないの、聞いて・・・」

俺の言葉を遮るように真知子が話を続ける。


 「でもね、泰之は次の日にまた泣きながら・・・」
「泣きながら?」

 「私の目の前で土下座して・・・そのお腹の子を堕ろしてくれって」


涙声になり、嗚咽交じりになりながらも語る彼女。
俺は憤りで次の言葉が出なかった。


 「だから・・・その後、病院で処置してきたよ」


病院で妊娠が確認された後、機会を見計らって泰之に事実を報告した。

泰之は真知子の妊娠を知り、相当動揺した様子だったという。
一度は前向きに考えた様子だったが、結果的に堕胎を懇願してきた。

真知子もこのまま子どもを産み育てる自信がなかった。
経済的にも、精神的にも。
彼女もすでに一児の母、それもまだまだ手のかかる歳の子だ。
子ども一人を育てる事の大変さも経験している。

しかし自ら堕胎を決めることなど出来ない。
願わくは泰之の気持ちが再び変わる事だ。

その後、泰之の思いは再び覆える事は無かった。


友達と旅行に行って来るから・・・と嘘のアリバイを親に通す。
自宅から離れた、顔見知りのいない病院に向かう。
泰之の付き添いのもと、同意書にサインする。
そして彼女は独りで手術室に入った。


全身麻酔の注射。
開脚台での屈辱的な体勢。
そこに無機質な金具を次々と差し込まれた。
医師の指先だけの感覚で、意識の無い彼女の子宮内で進む処置。


そうして真知子の胎内で一つの生命が消された。

麻酔からの目覚めは、どんな気持ちだったのだろう。
男には、まず分からない心境だろう。



<以下次号>









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