華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年12月03日(火) 203号室のフィリピーナ。 〜狂乱の現場〜 |
<前号より続く> それからしばらくの間、特に動きは無かった。 彼女は部屋の奥に隠れ、姿を現さない。 俺は一度部屋に帰ることにした。 味噌煮込みうどんが気になっていたからだ。 部屋に帰った俺はうどんにもう一度火を点ける。 グツグツと煮えたところで玉子を落とし、七味を振って急いで食べた。 食べている最中のことだ。 今度は壁の向こうの部屋から次々と物を叩き壊す音が聞こえる。 ガラスの思い切り打ち破る音。 壁をバットのような鈍器で打ち鳴らす音。 何かを道路の方へと投げ落とす音。 時を経る毎に聞こえる音がひどくなる。 その時、俺の部屋のドアのチャイムがなった。 そして外からドアを拳で何度も打ち鳴らす。 「平良さん、平良さん!車移動しましょう!危ないですよ!」 呼びかけてくれたのは、102号室の住人の男性だ。 彼の駐車スペースは203号室のベランダの真下にある。 俺の車はその隣りだ。 見境なく部屋から物を投げつける女だ。 車にぶつからない保証は無い。 俺は部屋を飛び出し、203号室下の自分の車に飛び込んだ。 キーを差し込み、一気にイグニッションへとまわす。 勢い良く吹き上がる俺の愛車。 マニュアルのギアをバックに叩き込み、俺はアクセルを踏み込んだ。 前輪タイヤが鳴きながら煙を上げ、車が逆方向へ急発進する。 その瞬間、目の前にガーデニングの植木鉢が降ってきた。 バンパーの目前で砕け散った鉢。 鉢の土が放射状に飛び散る。 一瞬の判断で、俺の愛車は難を逃れた。 102号室の男性の車には、時すでに遅く屋根に傷がついていた。 その傷の脇には割れた花瓶が落ちていた。 彼女に躊躇は無い。 安全な場所へ車を移動して、俺達は遠くから様子を伺う。 「さっきあの女を取り押さえた男はどうしたの?」 「連絡を取ってるんですが・・・電源を切っているようです」 「中には居ないみたいだし・・・職場は?」 「さすがにそこまでは分からないんで・・・」 「・・・どういう関係だ?」 「さぁ?奥さんにしては若いしなぁ・・・」 「夫婦喧嘩じゃないのかね?」 「でも、いくらなんでもここまでやらないでしょう」 「でもさっき、裸で飛び出して来たんだろう?」 「もしかして・・・怪しい薬でもやってたんじゃねぇ?」 騒動に気付いた近所の住民が三々五々集まり出し、余計な詮索を始める。 203号室を契約している熟年男に連絡を取ろうとしているが、 相手側の携帯電話の電源を切っているようで繋がらない。 騒動に気付いた他の住人たちも外に出て来た。 対応を話し合うのだが、どうにも打開策は見えない。 「○○住建に聞いてみればどうですか?」 「・・・そうだね、電話番号分かる?」 俺はそのアパートを管轄する不動産会社に、男性の職場へ連絡を取って もらおうと提案した。 しかし個人情報の保護のためなのか、不動産会社は取次ぎに応じてくれない。 そうこう相談する間も、203号室からは派手な音が響く。 部屋の中で相変わらず女性が暴れているのだ。 何か聞いたことの無い言葉でわめき散らす。 外へありとあらゆる食器や鉢の割れ物を外の我々に投げつける。 これは住人の安全を左右する非常事態でもある。 一台の赤色灯を焚いた車が近付いてきた。 愛知県警のパトカーだ。 住人が警察に連絡を取り、その指令を受けて到着した。 「またこりゃ派手だな・・・」 警察官は苦笑いを浮かべながら、様子を同じように観察する。 エキサイトし続ける彼女は、今度はベランダのサッシを外した。 何をしでかすのか、見物人たちは彼女を凝視していた。 その直後、彼女は信じられない腕力でサッシを振り上げて、 ベランダから下に投げ落した。 その下には、俺のバイクが繋いで停めてある。 バイクに当たる?! しかし危険過ぎて近づけない。 俺は思わず祈った。 バイクの真横に落下したサッシ。 重い音を立て、ギロチンのように鋭く落ちてきた。 針金の入った分厚いガラスは派手に割れなかったものの、 アルミ枠のサッシは醜い形に変形して壊れた。 凄まじい破壊力である。 俺達は思わず息を飲んだ。 その後も彼女は203号室の破壊活動を止めなかった。 派手な破壊音が鳴り響き、時々中から割れ物を投げてくる。 電信柱の常夜灯が点灯する。 夕暮れ時も過ぎて、アパートの周囲も随分薄暗くなる。 部屋の灯りを付けず、真っ暗な中から顔を覗かせる彼女。 すでに表情もわからなかったが、明らかに俺達住人を見つめていた。 大声で何やら喚いている。 しかしよく聞き取れない。 日本語でも英語でもないようだ。 俺達の足元で不意にガラスコップが炸裂する。 また部屋から投げつけてきたのだ。 暗いので何が飛んでくるか見えない。 警察官はアパートの住人に、部屋に戻って出ないようにと忠告した。 そして無線で応援を呼んだ。 それから、およそ2時間後。 部屋の中や外から、あらゆる凄まじい音が聞こえた。 続けざまに物を壊す音が響く。 発狂する彼女の絶叫する声がこだまする。 数名の男性の怒号が聞こえる。 パトカーがサイレンを鳴らして発進する。 そして、玄関のチャイムが鳴った。 「もういいですよ、大丈夫ですって」 102号の男性が再び声を掛けてくれた。 俺はドアを開け、外の様子を見た。 <以下次号> |
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