華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年11月24日(日)

晩秋に駆ける。 〜俺と聡美の聖夜〜


<前号より続く>


数日後の平日の夜。
街中の至る所が電飾きらめくクリスマス前だ。

俺は聡美と約束し、食事に出かけた。
今日はクラス会なの、と家族に言い残して俺の元へ来たのだ。


前からチェックしてた中華料理屋に入り、ちょっとしたコース料理で舌鼓を打つ。
値段の割にはいいランクの料理が次々と並び、俺達はご機嫌で頬張る。

いつになく楽しい食事だった。


俺は、聡美としばらく逢わない決意を固めていた。

彼の存在を断ち切れない彼女から見れば、俺は彼の代わりでしかない。
男としては、あまり気持ちのいいものではない。

何も「別れる」というのではない。
聡美と少し冷静になれる距離を取ろうと思ったのだ。


そんな俺の思惑を知らない聡美は楽しげに食べ、飲み、話す。
テンション高く、はしゃぐ様子がいつになく可愛い。

俺も決意を見抜かれないように明るく振舞った。



帰り際。
店の駐車場から車を出し、俺を家まで送ってくれる。


車が家の前に到着した。

聡美にお礼を言って車を降りようとしたとき、彼女に呼び止められる。


俺が振り向いた瞬間。


聡美は俺に抱きつき、無言で唇を押し付けてきた。
突然のkissだった。

それも唇を割り、舌を絡ませて来るほどの深く濃厚なkiss。
俺は思わず聡美を抱き締めた。


聡美は初めて俺の胸元に飛び込んできた。

こんなに積極的な彼女は初めてだ。

驚きを隠せない俺。
聡美は微笑んで、静かに言った。


 「驚いた?」
「・・・あ、ああ」

 「だって・・・」


一瞬つまった後、メガネの奥の瞳が潤み出す。


 「平良くんと、逢える・・・最後の夜だから・・・」
「どういう事?」

 「・・・え、うん、だって・・・もうすぐお正月でしょ?」
「・・・まあね」

 「主婦って年末年始は大変なんだから!」


聡美は何か言葉を飲み込んで、とっさに茶化した。

そしてもう一度、戸惑うに固く閉じる俺の唇にkissしてくれた。
俺の唇を軽く咥えるような感じの、名残の接吻。

軽い塩味がした。
聡美の涙の味だろうか。

俺を降ろし、彼女は家族の待つ自宅に向かって走り去った。







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年明けに年始の挨拶をしようと思い、聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「あけましておめでとう。去年は突然の出逢いだったけど・・・・
 本当に楽しい付き合いが出来ました。今年も宜しくね」



しばらく経った1月中旬。俺は聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「お久しぶりです。平良です。元気ですか?
 最近電話が掛って来ないのでチョッピリ寂しいです。電話待ってます」



さらに時を経た2月。春の兆しが見えてきた頃。
もう一度俺は聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「ご無沙汰です、平良です。もうすぐ春だね!温かくなりますね。
 また時間を見つけて、デートしましょうね・・・絶対連絡してよ!」



いずれも聡美からの連絡は無かった。


俺は年末に逢った時、しばらく距離を置こうと決めていたはず。
しかし俺から何かと連絡を取っている、この矛盾。

俺が考えていたのは、冷静になるために距離を取る事。

伝言が届いていないはずがない。
聡美は自分の決断に従っているのだ・・・


聡美の残した言葉・・・俺と逢える、最後の夜だから・・・

彼女が決めていたのは、俺との最後の密会。

彼女の方が俺よりずっと上手だったと悟ったのは、
恥ずかしながら、この2月の電話の後だった。


俺との最後の密会と決めていたから、
あれ夜はあれだけはしゃいで大胆に振舞ったのだ。


なぜ最後の夜だと決めたのか、分からない。

前の彼とよりが戻ったからか?
俺との関係が進むのが怖くなったのか?
それとも・・・旦那をもっと大事にしようと心に決めたのか?


いい風に考えていこうと思うのだが、
取り残された立場だと、どうにも前向きな発想が出来ない。


俺は自分の携帯から聡美のPHSの番号を消したのは、その3ヵ月後。
5月になってからだった。

連絡があるかもしれないから待っていようと思ったから、消せなかった。
女々しい気持ちから、消せないでいた。


結局、いつまで待っても聡美からは何の音沙汰も無かった。




俺は毎年クリスマス前になると、聡美が教えてくれた場所へ向かう。
一人で車に乗って、毎年趣向を凝らす各家庭の電飾を堪能している。


その景色を眺めていると、俺は今でも思い出す。


未だ見ぬ女を信じ、寒い夜凍えながら突っ走った夜の国道。
ホテルでの昼食後に連れてきた俺の部屋での出来事。
この夜景を見ながら、複雑な思いで交わした口付け。

そして、聡美の最後の言葉。


恋はより強く好きになったほうが負けだ、と言う。
だとすれば、俺の完敗。

それも連絡が取れなくなってから思いがより強くなった。
だからこそ、俺の完敗。


距離を置くつもりが、それ以上の力で突き放された現実に思わず嘲笑する。



奥殿陣屋周辺の集落でのイルミネーションは、
各家庭の飾り付けの域を越えた完成度と美しさを持つ。

年に一度、ほんの半月ほどの儚い夜景。

その季節が、今年ももうすぐ巡って来る。



☆ 毎度のご訪問&ご高覧ありがとうございます。
  今回は具体的な地名が数多く登場するので、地元の方は驚かれたと思います。

  ご心配とご指摘のメール&掲示板の書き込み、ありがとうございます。

  「華のエレヂィ。」は暴露日記ではないので、
  ある程度の脚色と個人の特定が出来ない配慮をしてあります。

  その臨場感をも含めて、「華」の世界を楽しんでいただければ幸いです。


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