華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年11月22日(金)

晩秋に駆ける。 〜俺の部屋〜


<前号より続く>



「男の部屋って、むさ苦しいでしょ?」
 「まだ綺麗に整頓している方じゃないかな・・・想像していたよりは」

「想像か。ありがとう(笑)」


先程のケーキをつまみつつ、紅茶を味わう。
湯にふやけた茶葉の香りが、心の奥からの緊張をほぐし、緩める。

サトミは本当にお喋りが好きなようで、ずっと色々な話をしていた。
ハスキーな声と豊かな表情で、本当に楽しそうに話をする。

俺も相槌を打ちながら、彼女の話術に引き込まれていく。


 「だって主人は話し相手にならないもの・・・聞いてくれないの(笑)」
「そうかぁ、俺ね、結婚したら『夢』があるんだ」

 「何?改まって(笑)」
「俺ね、奥さんとこうやってお話したいんだ、一日の出来事を」


夕食の後や就寝前のひとときの時間、伴侶とその日の出来事を話す。

お茶やコーヒー、または軽い酒を準備して。
テーブルを挟むのではなく、伴侶の隣りに座って。
体温の伝わる距離で、相手の顔を見て。
ほんの10分程でも構わない。

一日で二人が離れた時間があった時は。


続けるには、きっと相当の忍耐と努力が必要だろう。

しかし会話の無い夫婦関係は、肉体関係の無い関係よりもある意味で寂しい。

夫婦は所詮、他人同士の関係。
他人同士の夫婦がいい形の付き合いを続けるために必要なものとは何か。

それは互いへの過重な甘えや馴れ合いではないだろう。


明るく、温もりのある家族関係とは何か。
俺は『まず会話』だと思う。


「聡美の家じゃどう?」
 「主人との会話かぁ、無いなぁ・・・」

「寂しいねぇ・・・忙しいから?」
 「忙しいって、一緒に住んでいるんだよ?・・・構って貰えないんだよね」

「昨日も一緒にボジョレ・ヌーヴォー飲んでるのに?」
 「主人がお酒に好きだから付き合っているのにね」


一緒に住んでいる夫婦なのに、会話を交わす時間さえ取れないはずが無い。
それはその努力を怠る方にこそ、問題がある。

専業主婦とはいえ、意思を持つ一人の人間だ。
寂しさを紛らわせるために、外へ目を向ける事だって珍しい事じゃない。


大抵の女の浮気は、された男の方にこそ反省すべき問題があるのだ。



男と女が同じ狭い空間に居る。
意識しない訳がない。

俺は聡美ににじり寄り、そっと掌で肩を抱いた。


途端に俯き、緊張する仕草を見せる聡美。

俺は覚えている。
最初に会った時の、ヘルメットを止める顎紐の事。


俺は聡美をさらに抱き寄せる。
抱いていた肩の手を首に軽く巻きつけて聡美の顎に触れた。


 「んっ・・・」


身をすくめて、くすぐったそうな声を漏らす。


「くすぐったい?」
 「・・・」


俺はそっと耳元で囁いた。


「聡美、敏感だもんな・・・分かってるよ」
 「・・・ダメ」

「ダメ?」
 「・・・うん、ダメ・・・お願い・・・」


戸惑い交じりの拒否ではない、しっかりと意思のある否定だ。

俺は手を止めた。


「ゴメンね・・・抵抗ある?」
 「違うの・・・Hしたくないから・・・」

「そうか・・・でも何故?」


聡美は俯きながら理由を述べた。


 「Hしちゃうと・・・男の人って遠くに行っちゃうじゃない・・・」
「どういう事?」


男は女が身体を許すと、それに満足してしまう。
そして女が身体より深い部分にある心を許した頃に、男は去っていく。

その経験が聡美の心に大きな傷をつけていた。

それは別れた彼より、少し前の話だという。


「・・・そうか、この前の彼だけじゃなかったんだ」
 「・・・だってフシダラだと嫌われちゃうもん」


聡美は俺に話さなかったが、まだ過去にも寂しい経験をしていたのだ。


 「平良君とは永く友達でいたいから・・・」


俺は躊躇したが、聡美を強く抱き寄せた。
聡美もなされるがままに、俺に身を任せた。

太めの糸で編まれたクリーム色のハイネックセーターの上からぎゅっと抱く。
柔らかい感触の、聡美の肉体。
顔を背けるが、彼女の呼吸は無意識に深くなっている。
自分の体内の発熱を抑えるために、落ち着こうとしているのか。


そっと部屋のカーペットの上に聡美を横に倒し、唇を奪う。

セーターの上から、胸のふくらみに右手を掛ける。


そしてセーターの下から手を入れ、ブラを上にずらした。

掌で感じた柔肌のふくらみの感触。
その頂にある尖った粘膜の感触。

聡美の表情は戸惑いを隠せない。

俺はふくらみに掛っている掌に力をいれて、揉む。

聡美は脱力し、熱い溜息を漏らす。
俺はさらに揉みしだく。


深い溜息から微かな声になる。

セーターの中で、聡美の乳首を摘む。
微かな声が確かな声になる。

指先で弄ぶ乳首が、確実に充血している。
その姿を見なくても、指先で感じる弾力が違ってきた。

スカートの中に手を入れ、ストッキングの上から聡美の内腿を指でなぞる。
可愛い声を上げながら、腰を退く。


内腿を這う指は、腿の付け根の奥に辿り付いた。

指先にはストッキングと下着に阻まれた、聡美自身がある。

指先をストッキングの股間の縫い目に沿ってなぞると、しがみ付く。
指先に力を込めて突起を押し込むと、聡美は全身をひくつかせる。


聡美は声を震わせて俺に言う。


 「ね、止めよ・・・」
「嫌なの?」


聡美は縦に頷く。

もう一度聞いた。
聡美はさらに強く縦に頷く。

俺はスカートの中から手を出し、聡美を抱き締めた。
安心したのか、きつく身体に力を入れていた聡美が一気に脱力する。


 「ごめんなさい・・・でも、やっぱりダメなの」
「昔を思い出すんだ・・・」

 「うん・・・怖いの、抱かれてから嫌われるのが・・・」
「前の彼のこと?」

 「・・・(頷く)・・・主人もいるし」


聡美は俺の腕の中で攻められながら、複雑な感情を抑えていた。

昔の男から受けたトラウマ。
前の彼への断ち切れぬ恋慕。
自分を求める俺への恐怖心。

そして・・・
何度も裏切る旦那への罪の意識。


俺は自分の欲望に逆らって、聡美から手を引いた。
聡美は乱れた着衣を恥ずかしそうに戻す。

そして、何事も無かったかのように振る舞い、話す。

よく出来た女だ。



「今度、何時逢えるかな?」
 「う〜ん、平日なら空けられるよ」

「じゃ、またお食事デートになるかな」
 「・・・そうだね」


一瞬の嫌な間のあと、聡美は精一杯の笑顔で答えた。
やはり、先程の俺の行為の未遂が引っかかっているのだろう。


俺はトヨタホテル前まで送ってもらい、彼女は家路についた。

彼女が運転する旦那の会社の新型RV車を見送りながら、俺は考えた。

次はどうやって聡美を燃えさせようか、と。
どうやってその熱で彼女の持つバリケードを溶かそうか、と。



<以下次号>







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