華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年11月21日(木)

晩秋に駆ける。 〜ボジョレ・ヌーヴォー〜




数日後、俺は聡美のPHSに電話した。
旦那が居たりして都合が悪い時は、留守番伝言になっている。

数秒の呼び出しの後、生憎と留守番センターに転送された。


俺は咳払いをして、伝言に吹き込んだ。


「平良です。先日はありがとう。
 またゆっくりとお話したいので都合が良ければ、お電話ください」


30分後に電話が鳴る。聡美からだった。


 「さっきはゴメンね!お風呂に入ってたの・・・」
「そうか、それはそれは(笑)」

 「私こそ先日は、夜遅くにありがとう・・・楽しかったよ」
「俺も!また会いたいよ」

 「私なら、平日の昼間なら大丈夫だよ」
「分かった、何とか都合つけるわ」


この週の金曜日の昼前に、会うことになった。



金曜日。
待ち合わせ場所になった、名鉄トヨタホテル前。
名鉄豊田市駅の目の前にそびえる、当時出来立ての新しいホテルだ。

ホテルの2階と連絡するデッキのエスカレーター下で、俺は待っていた。


 「お待たせぇ!」


声の方向を振り向くと、聡美が満面の笑みで小走りに近づいてきた。
手を振りつつ近寄ってくる彼女に、俺も手を上げて答える。


「いやあ、都合付けてもらってありがとう」
 「こちらこそ!お腹すいたでしょ?」

「ああ、朝食抜いたから(笑)」
 「(笑)ダメだよぉ」

「じゃ早速・・・この近くの店に行くの?」


俺はこの駅近辺の店は大体分かる。
どこかへ連れて行こうかと案内しようと思った瞬間だ。


 「お店は決めてあるの!」
「どこ?」

 「ここ!」


彼女が白く細い指で示した先は、すぐ脇の大きな建物。
ホテルだった。


 「私ね、ここに行きつけのお店があるの」
「・・・」


俺が次の言葉が出なかった。

ホテルでランチとは・・・さすがは将来の重役婦人だ。

今ならホテルのランチバイキングなどが有名だが、
この当時はまだホテルのランチは豪華さが売りだった。


俺は聡美の案内に従って、エレベーターに乗る。

ドアが開いて下りると、そこは落ち着いた雰囲気のロビーだった。
様々な店の入り口が並ぶ中、彼女は迷わず和食の店に向かった。

いかにも高そうな店である。

俺達は奥のテーブルに陣取り、上着やコートを脇に置く。


この店のランチメニューは数種類しかない。
聡美は手馴れた様子で注文し、俺は彼女と同じ物を頼んだ。


 「ここね、友達とよく来るの」
「そうなんだ・・・いいの、俺と一緒で」

 「いけないって言ったら・・・帰る?」
「勘弁してよ、お腹もすいたし(笑)」


海と山の幸、季節の食材を贅沢に使った色彩豊かな御膳が二つ。
独身男には到底縁の無い程の豪華な昼食の登場だ。

物珍しげに箸で探る俺と対照的に、美味しそうに次々と頬張る聡美。


「そういえば、昨日ね・・・主人とボジョレ・ヌーヴォー飲んだの」
 「ボジョレ・ヌーヴォーって、ワイン?」

「そう!平良くんは飲んだ?」
 「・・・・・・いや、まだ(笑)」


昨日。
そういえば・・・

11月の第3木曜日はボジョレ・ヌーヴォーの解禁日だ。
テレビのニュースでも賑やかに言っていた。

俺は当時ワインの事をほとんど知らなかったので、
そのボジョレ・ヌーヴォーがどういうものかを知らなかった。


俺は恥を忍んで、聡美に尋ねた。

聡美は微笑みながら、丁寧に教えてくれた。


ボジョレ・ヌーヴォーの産地、ボジョレ地区はフランス、
ブルゴーニュ地方の一番南に位置する、比較的広い地域のことだ。

その地方の23村で取れたぶどうを使い、
その伝統の製法で造られたワインのみが名乗れる名前だという。

シャンパンはシャンパーニュ地方で作った物のみが名乗れるのと
同じ仕組みだそうだ。


通常数ヶ月以上かかるワインの発酵を、
特殊な方法により1ヶ月半で製品に仕上げられたワインの新種。


 「それがボジョレ・ヌーヴォーなの。分かった?」
「・・・わかりました、先生(笑)」


発酵期間の短さもあり、フランスワイン独特のコクや濃厚さは無いものの、
フルーティーでさっぱりした飲み口が魅力なのだそうだ。


そして、世界でも時差の関係で日本が最も早く解禁される国の一つ。
昨日がその解禁日だったのだ。


日本中のワインファンがお祭り騒ぎで飲んでいる光景しか印象に無いし、
相当の高級品だと思っていた俺には、縁の無い物だと思っていた。


「へぇ、ボジョレ・ヌーヴォーかぁ・・・美味しそうだね」


そこまで話を聞けば、酒好きの俺としても興味が湧くもの。
毎年旦那と飲むという聡美は冷静に解説してくれる。


 「・・・でも、ワインとしてはまだ若いよ、発酵期間も短いし。
  まあ一つのお祭りだし、季節の物として味わうのはいいけどね(笑)」

「そうなんだ・・・飲んだ事無いから分からないけど」
 「でもそんなの高いものではないから(笑)」

「そうかぁ・・・一緒に飲んでくれる人がいれば良いけどね」
 「じゃ、しっかり探さなきゃね」

「なんだ、聡美さんは一緒に飲んでくれないの?(笑)」
 「私?嫌だぁ・・・もっとふさわしい人を探して(笑)」


豪華な昼食を終えた後だが、もう少し時間がある。
俺は聡美に提案した。


「これから俺の部屋に来ない?」
 「今から?いいの?」

「お茶くらいしか出せないけど、それで良ければ」
 「恥ずかしいな・・・でもお邪魔しようかな」


好奇心旺盛な聡美は、そういって興味を示した。


しかしお茶だけでは寂しいと思った俺は、
ホテル横のサティ店内のケーキ屋でショートケーキを2つ買った。

サトミが運転するRV車で俺の家まで移動し、近所の路上に駐車する。

そして俺は彼女を部屋に招き入れた。


 「私ね・・・男の子の部屋に来るの、あまり経験無いんだ・・・」


緊張した様子のサトミはそう言いながら、物珍しそうに俺の部屋を見回す。
物が多い、六畳一間の狭い部屋だ。
一応整理整頓をしていたおかげで、散らかってはいないが。



<以下次号>








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