華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年11月20日(水) 晩秋に駆ける。 〜早朝の街〜 |
<前号より続く> 俺はサトミを後部に乗せ、住宅街を発進した。 248号線に戻り豊田市内に入った俺たちは、道沿いのファミレスに入った。 駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いで店内に入る。 そして席に座り二人で上着を脱いだ後、改めて挨拶をしてサトミを見た。 ソフトソバージュの髪が良く似合う、可愛い女性だった。 「寒かったでしょ(笑)・・・ゴメンね」 「初めてバイクに乗ったけど、楽しかったな」 「でもこの時期はやっぱり辛いよね・・・」 「本当は私が車を出せれば良かったんだけど・・・」 サトミは自分用に新型のRV車を持っていた。 しかし深夜に車を出すと、子どもや近所に気付かれる。 なので、この時間は敢えて自分からは動かない。 彼女はそこまで計算済みだった。 「でも、改めて明るい所に来ると・・・変な感じだね(笑)」 「うふふ、恥ずかしいよ・・・」 「まさか初めて電話で話した数時間後に会ってるとはね」 「・・・無茶言うオバサンでゴメンね」 「俺もこういうハプニングは大歓迎だから(笑)」 「でもあまり長く居られないと思うの、子どもも寝てるし・・・」 やはり家の事が気になる様子のサトミ。 母親としては当然か。 ドリンクバーで熱い飲み物で暖を取りつつ、色んな話をした。 本名も「聡美(仮名)」と読む彼女は、電話よりも緊張をしているようだった。 他愛もない話から、彼女の愚痴になる。 「私ね・・・あの街、好きじゃないんだ・・・」 「そう?いい住宅街じゃん。閑静だし」 「でも、すごく窮屈なの。何をやっても全て見られている感じで」 あの住宅街・・・・聡美の家族が住む町。 主に自動車企業の役員達が住んでいるのだそうだ。 いわば近所が全て会社関係なのだ。 会社の上下関係は、その住宅街に住む家族の上下関係でもある。 何かあれば、すぐに暇な主婦どもが噂や悪口を垂れ流す。 それが会社での評判や家族の評判に間接的に響いてくる。 聡美の旦那は実力者なので直接的に風評を受ける事はなかったのだが。 それでも地位の低い家庭への心無い風評や悪口を聞かされ、 正義感の強い聡美は幾度も気分を害していた。 主婦団の「女の付き合い」に辟易していた。 窮屈な街から引っ越そうと何度も旦那に相談した。 どうせなら我が侭を言うな、と叱られても良かった。 辛いだろうけど頑張れ、と同情されただけでも嬉しかった。 その時旦那は聡美に目を合わせる事もなく、生返事で聞き流したのだ。 彼は聡美の内なる苦しみを理解しようとしなかった。 その話題以外でも、聡美からの会話に乗ろうとしない。 結婚して一つ屋根の下に住むのに、孤独だった。 「私ね、働きたかった・・・女に生まれた事を後悔ばかりしてたの」 「難しいんだねぇ、女同士の人間関係って」 「仕事している時の方が、どれだけ楽だったか・・・」 のちに働くようになった職場で、偶然芽生えた不倫の恋。 10歳以上年下の彼は、若さからか熱心に聡美へ近づく。 「結婚していても構わないから、僕と付き合って!」と言い続ける。 非常識な告白に、聡美は何度も考え直すように言った。 しかし、彼は退き下がならかった。 そして彼の自分を思う熱い心に打たれ、交際を始めた。 ようやく心の寄り所を見つけた聡美。 その年下の彼の存在に我を忘れていった。 「だから会う時は大変だったの・・・誰かに絶対に見られないように」 「どうしてたの?」 「旦那が出張で居ない時なんかに・・・深夜に会ってた」 聞き慣れない車の排気音一つで近所同士が窓の外を覗き合う程、 話題作りに余念の無い住宅街の主婦たち。 例の中学校の正門は住宅街の外に向いているので、 まだ音がして覗かれても見えないのだという。 「どういうデートしてたの、そんな窮屈な時間で?」 「・・・すぐにホテルに行ってたよ」 「そうかぁ・・・でも目的が一つなら手っ取り早いよね(笑)」 「違うの。すぐに・・・始める訳じゃないの」 誰の目も届かない密室。 そこで彼と彼女は肉体を重ねる以外に、様々な事を話し合ったという。 彼の情熱は、聡美の忘れていた女の部分を呼び覚ました。 「それでね、初めて思った・・・女に生まれて良かったんだって・・・」 照れて俯き加減だったが、彼女の実感から出たその言葉が印象的だった。 元々キャリア志向の強かった彼女。 バブル景気の勢いもあり、さらに法律も整備されて、 女性が社会に進出する絶好の時期だった。 しかし家族と周囲の強力な勧めを断り切れずに、 当時企業の有望株だった旦那と見合い結婚する。 社会で働き、自分の存在をしっかり示していた聡美にとっては、 専業主婦として家庭で過ごす日々は物足りないものだった。 女に生まれなければ味わう事の無かった、空虚感。 そして旦那が役員に出世して引っ越した住宅街での顛末。 徐々に聡美に感心を無くしつつあった、旦那。 成長し、少しずつ自分の手を離れていく、息子。 消化不良の苛立ちが雪原を転がり落ちる雪玉のように成長する。 そんな時に仕事を始めた。 収入など二の次の、自分の暇つぶしのための事務仕事。 そんな時に出会ったのが、10歳年下の彼。 何度目かのデートの時に誘われたホテル。 戸惑うままに抱かれた最初のSex。 情熱的に自分の身体を求め、愛してくれる彼の全てに、 旦那では感じた事の無かった女の悦びを知ってしまう。 女に生まれなければ味わう事の無かった、性の快楽。 聡美は自分でも気付かなかった内なる全てを彼にさらけ出し、 自分が何を求めていたのかが見えてきた。 「女の幸せって、色々あるだろうけど・・・こういう形もあったんだって」 「気付いたんだ?」 「・・・うん」 「でも、その彼とは終わっちゃったんだ」 「・・・だからっていう訳じゃないけど・・・すごく寂しくて」 「いいよ、分かるよ・・・」 サトミは他にも色々な話をしてくれた。 時間があっけない程早く経つ。 「もう時間も経ったし・・・送っていくよ」 「ありがとう・・・」 俺は聡美を住宅街まで送って行った。 待ち合わせた中学校に到着し、彼女はヘルメットを脱いだ。 「また会ってくれる?」 「私で良いの?」 「俺、私が良いの(笑)」 「分かったよ・・・ありがとう」 彼女のPHSの番号を教えてもらって、俺は聡美と別れた。 午前3時過ぎの住宅街。 凛と冷えた静寂に、深く眠る。 まだこの街が目覚める時間ではない。 俺は待ち合わせ場所に彼女を送り届けた。 ここから彼女の家まで、およそ100m。 白い息を吐きながら、彼女は歩いて自分の家へと帰った。 その距離を歩く間に、自分を女から母へと切り替えるのだ。 <以下次号> |
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