華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年10月12日(土)

18歳。 『親子二代』

<前号より続く>



 「私は5回だった」
「そんなに出来が悪かったの?」

 「そうじゃなくてね、運転手が5人全員名乗り出てきたの」


その店はデリヘルの運転手が講習を受け持つ事になっているようで、
風俗で働いた経験の少ない娘には、最低1回の通し稽古である
『講習』を行って接客方法を教えるのだ。

普通なら割り当て制なのだろうが、
自分から手を上げて申し出る事も出来るという。


そんな彼女は5回も講習を受けたという。
話を聞いていくと、彼女の出来が悪かったからでは無さそうだ。


 「それもみんなホテルに連れ込んでも、何も教えてくれないんだよ」
「じゃ何のためなんだろ?」

 「分かんない・・・でもタダで出来るからって言ってたかな」
「ひどいねぇ、それ。タダ食いじゃん」

 「それで、何人かはお小遣いやるからって最後までって・・・」
「・・・講習で本番かぁ、ひでぇなぁ」


ユキエはすでに無垢な娘を食い物にする連中の犠牲になっていた。
『役得』というにはあまりに背信的な行為がその店では『講習』として、
日頃から行われている。


18歳の彼女はその店最年少の嬢。
そう滅多にこういう業界に飛び込んでくる年齢でもない。

理由あって飛び込んできた彼女の若い肉体を、
自分たちの立場を悪用して貪った運転手ども。


彼女は申し出てきた数人の運転手と
「店には内緒でいいだろう?」と口説かれ身体を売ったという。


 「でもタダでしかなったんだから、えらいでしょ?」
「・・・そういう問題じゃないと思うんだけどね」

 「お兄さん、デリヘルの運転手に転職しなよ。タダで出来るんだよ」
「・・・そういう問題でもないと思うんだけどさ・・・」


俺は明るい風呂場で、改めてユキエの肢体を眺める。
18歳の肉体は、まだ未熟さの残る危険な色気を放っていた。

大人の女性からは消え失せた、熟す前の「青さ」。


俺はユキエにまず身体を洗ってくれと頼んだが、あまり要領を分かっていないらしい。
仕方がないので、俺が彼女に手本を示す事にした。

ユキエを椅子に座らせて、ボディソープを洗面器に採った湯に溶き、
その泡を掌にとって全身に塗るように洗っていく。

女性の身体を洗うのは嫌いではないので、俺にとっては案外楽しい時間だった。

背中から脇腹、細い首筋や肩に泡を塗り、今度は背後から胸や前面を洗う。


薄っすらと産毛の生え揃う背中の柔肌。
成長し切っていないCカップの乳房。
薄く生える逆三角形のヘア。
今時の若い小娘には珍しい、たおやかな黒髪。
俯いた時に浮かぶ、陰のある表情。


俺は彼女の身体を流しながら聞いてみた。


「ねぇ、どうしてこの仕事始めたの?」
 「・・・大した理由は無いよ、でも・・・」

「色々あったんだ?」
 「・・・うん、つい最近なんだけど・・・」


両親が別れたの、と寂しそうな声で漏らした。



18年前。
ユキエを宿した母親と、その父親は婚姻届に判をついた。


 「母さん、私を17で産んだの」
「そりゃ若いねぇ!・・・お父さんは?」

 「母さんの2コ上・・・」
「どっちも若かったんだねぇ・・・」


若い夫婦の元に生を享けた一人娘。
それがユキエだ。

しかし若い夫婦の『出来ちゃった結婚』では生活も安定するはずがない。
二人を結んだ若気の至りは、何時からか互いを傷付け合う方向へと向けられた。


母親やユキエに対し、常日頃から暴力を振るう父親。
せめて娘を守るためにと時には身を呈して耐える母親。


いくら大人だけの問題、夫婦の問題とはいえ、
全てを目の当たりにさせられる幼い娘が心穏やかでいられるはずがない。

甘えたい盛りの頃から見続けた両親の身勝手な姿に、受けた心の痛みは計り知れない。
こんな大人の間に生まれた自分の存在すら、きっと疎ましく思えた時もあっただろう。


両親やその他の揉め事が長らく続く中、「今は家に帰りたくない」という
ユキエは、友達の家を次々と泊まり歩いているという。

携帯電話だけが頼りの『住所不定』状態。


しかし、まだ18歳。

一人暮らしの同性の友達がそんな多いはずがない。
かといって、実家に住む友達には頼みにくい。

先日まで年上の男友達の部屋を泊まり歩いた時は、その家賃を身体で清算していた。
そしてこの仕事を始めた一昨日からは、その事務所で寝泊りしている。



両親は不仲から長らく別居状態にあったが、先日ようやく離婚が成立したという。

彼女はその間も母と二人で生活していたというが、
その生活は本当に苦しかったそうだ。


 「本当に貧乏だったの・・・お金に苦労した」


未熟な大人だった両親に、不安定で貧しい暮らし。
思春期を過ぎる頃、ユキエは心の底まで卑しい女になっていた。


 「愛人になりたかった。お金持ちに囲って貰って生活するの」 


実際、ユキエは当地のヤクザの若頭に誘われた事があったという。
クールで大人びた風貌の彼女は、歳よりも大人びて見えたことだろう。


 「でもまだ中学生だったし、母さんを独りにしたくなかったから・・・」
「中学生?それなのにヤクザが?」

 「うん。向こうにはこっちが何であろうと関係ないもんね」


中学生を愛人にしようとしたロリコン趣味の腐れヤクザにも呆れたものだ。

その街は実際に暴力団の抗争が相次いだところ。
実は現在でも暴力団事務所が点在し、
沈静化したもののその頃の名残りがあると言われる。



ユキエの冷めた言動と冷淡な顔立ちは、決して生まれつきのものだけではなかった。


そんな話の途中でも時折絶句するユキエ。
彼女の脳裏にはきっと色々な忘れ難い場面が巡っていたことだろう。


辛い話が一段落し、二人で温かい湯の中に浸っていた時。
ふとユキエは俺に顔を向けた。


「うちの母さんもね、実は風俗なの」
 「そうなの?」

「うん、母さんもね、こういう出張の仕事しているよ」


彼女の母親は、こういう仕事がまだ非合法だった頃から手を染めていた。


ユキエを育てるために身体を売り続けた母。
そして家出しつつも母を気遣い続ける娘。


「お母さんがこういう仕事しているって、何時知ったの?」
 「最近かな。でもお母さんは何も知らない」


母親は、同じ街の違う店に今も在籍しているそうだ。
親子二代の風俗嬢である。


ユキエがその事実を知ったのは、母が告白したからではない。
母の知られたくない秘密をユキエに教えたのは、母と別れる実父だという。

関係がこじれた腹いせなのか、親権の交渉を有利に進めるためなのか、
母親の最も娘に隠したい現実を陰で打ち明けたのだ。


つくづく情けない男だ。


自分の裏の顔を娘が知っている事を、母はまだ知らない。
そして母と同じ日陰の道を歩んでいる娘の事実も、母はまだ知らない。


娘のユキエは、母の秘密を知ったときにどう思ったのだろうか。
そしてどういう思いで同じ道を歩んでいく決意をしたのだろう。

俺には想像もつかない。


 「母さんね、外見はタレントのRIKAKOなの」
「美人じゃん!それじゃ結構モテるだろうねぇ」

 「でも・・・病弱だし、おっぱい小さいけどね」
「いいよ。俺は微乳が好きだし」

 「でもね、私から見ても若いし、綺麗。お兄さんもきっと惚れるよぉ」
「35だったら充分いけるよ!よし今度はお母さんも呼んで3Pするかなぁ」


ユキエは苦笑する。
やはり母を引き合いに出され、複雑な心境だったのだろうか。

我ながら心無い事を言ったものだ。



<以下次号>








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