華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年09月06日(金)

過ぎし夏のmemories。 『長く深いkiss』

<前号より続く>




俺は藤崎のおでこに口付けた。
衝動が押さえきれなくなり、次に鼻の頭に口付ける。

腕の中の藤崎の体温と肌の柔らかさが、俺の理性を徐々に壊し始める。


藤崎の右頬に口付けた所で、彼女は目を覚ました。


 「何したの?」
「・・・分からんかったか?」

 「・・・分かってたよ・・・髭が痛い」


俺の頬や顎の、伸びかけた髭が痛かったようだ。

俺は半ば開き直って、藤崎の顔のあちらこちらに口付けた。
腕の中の彼女はくすぐったがっている。
でも決して抵抗しない。



俺は思い切って、藤崎の唇を奪った。



一瞬きつく身をすくめた藤崎。
調子に乗りすぎたか?


しかし俺も男。
湧き立つ欲望と苦い教訓との対決では、欲望に歩がある。

藤崎の唇を再び奪おうと俺の腕で抱きすくめた。


 「待って・・・」


うめくように藤崎は言った。
怒ったのか?嫌だったのか?


藤崎は俺の腕から抜け出た。
そこから俺を下から仰向けに押しのけ、今度は彼女から覆い被さって来た。


 「平良・・・」


藤崎は仰向けになった俺の顔に、自分の顔を寄せた。
そして俺の唇を奪った。


藤崎の舌が俺の唇を割り、入ってくる。
そして俺の舌に絡ませてくる。

ねっとりと粘液と粘膜、舌を絡ませ合うDeep kiss。



数秒、数十秒・・・まだ終わらない。


kissで全身の力が抜ける・・・とは聞いたことがあるが、俺は初めて経験した。

彼女の腰に廻していた俺の手は、いつしか添えているだけになり、
足腰の力が抜け、正しく藤崎に身を任せるような格好になる。

俺の方が思わず声を上げそうになった。


1分、2分・・・藤崎はまだねっとりと俺に舌を絡ませ続ける。
息が出来ないほど俺の鼓動が高まる。


どれだけの時間、藤崎と舌を絡めあっていただろう。
東向きのベランダに掛けたカーテンの隙間からは、朝日が差し込む。

ようやく藤崎は俺から唇を離した。

混ざり合った唾液の一筋の糸が、朝日に照らされ錦糸のように輝く。


 「平良・・・友情を込めて・・・だよ」


藤崎は俺を見つめて、そう言った。

 「でも、今日はここまでだから・・・」



何故だろうか。

これだけ濃厚な接吻の後なのに、不思議と互いにその先へ行く気持ちはない。
少なくとも俺には確実に無かった。
その証拠に俺自身は全く勃っていない。

言葉を交わさなくても、彼女の気持ちまで伝わるような気がした。


「ああ、分かってる・・・分かってるよ」


その後、藤崎と抱き合いながら朝を過ごし、ファミレスで朝食を摂った。
あまり会話の無い、照れ臭い時間が過ぎる。


そして朝7時過ぎの電車に乗り、彼女は家路に着いた。



駅まで彼女を送った後の帰り道。
濃厚なkissの余韻がごく軽い痺れのように、まだ唇に残る。

大学の連中には誰にも話せない、一線の突破。
俺と藤崎だけの秘密。



kissが好きな女性は多い。
kissを嫌う風俗嬢も多い。

理由は全く同じ。
kissは人の心を最も強く揺さぶる行為だからだ。


愛する相手とのkissなら、自分の肉体が溶け落ちるほど交わしたいだろうし、
風俗嬢にとっては『身体は売っても心までは売らない』意地の防波堤でもある。


唇を重ねる行為がどれほど大切なものなのか、分かった。


俺はこの日を境に、kissという行為を大切にするようになった。

それは今でも変わらない。



その後も藤崎とは奇跡的に良い友人関係を保つ事が出来た。

彼女から暇な夜に電話が掛かってきて、馬鹿話で盛り上がることもあったし、
海外などの旅行先から絵葉書を送ってくることもあった。
サークルの飲み会にも参加し、いつものようにじゃれ合う。
秋の大学祭でも、交流会の模擬店にも遊びに来てくれた。


あの一夜の出来事が、まるで俺が勝手に見た夢のように。




大学祭も終わった11月中旬。
三度、藤崎から誘いを受けて二人で飲みに行く。

藤崎は長く付き合う彼への不満と、彼との結婚を含めた将来設計に対して
強い不安を抱えていた。

その相談を俺に持ちかけてきた。
相談とは言えど、俺は何も意見できる立場ではない。
彼女の話を聞き、頷いて自分の意見を述べるしかなかった。


その後、藤崎は前回と同様に俺の部屋に来る。

夜も更け、ベランダを横切る北風の音しか聞こえない時間。
藤崎は唐突に言った。


 「平良、私がこの前失礼な事言ったの、覚えてるかな?」
「お前、いつも失礼だから・・・どのことか分からんなぁ」

 「いつか平良の事を『口説き下手』だって言ったこと」
「そんなこともあったっけ?まぁいろんな女に言われてるからね・・・」

 「口説き下手だけど、聞き上手。だから安心して何でも話せるの」
「俺は口説きも上手くなりたいんだけどな」

 「じゃ、私を口説いてみてよ・・・」
「・・・?」

 「私を口説いてよ」
「・・・お前、酔ってる?」

 「うん、少しね・・・」


そう言うと藤崎は俺の左肩に頭をちょこんと乗せ、少しうな垂れてみせた。



<以下次号>








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