華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年08月05日(月) サユリと早智子の狭間で。 『天使』 |
<前号より続く> サユリは旦那ではなく、規則違反していることで、店に負い目を感じているようだ。 「何故?きちんと働いているじゃん」 「でも、約束破ってるんだよね・・・本番は」 「そうだけど・・・」 「平良さん、私ね・・・平良さんだけでないの。身体を許したの」 サユリは他の客とも『自由恋愛』をしている、という。 そのきっかけは、先日の俺との行為だった。 本番はあくまで店の勧めではなく、自分の意志で始めた。 俺との本番で一線を突破してしまい、どこかに張っていた糸が切れた。 「やっぱり、売れないとお金にならないじゃない・・・」 サユリは寂しそうに、半ば嘲笑しながら話してくれた。 俺との行為以後、開き直って本番に及ぶ事で、 彼女は予約の必要な程の売れっ子になっていった。 それ以来、彼女の指名は増え、売り上げも格段に伸びた。 しかし客はみんな『本番』が目当てだ。 彼女がどれだけそれに代わるテクニックを身に付けようとも、 一度行為に及んだ客には、その努力に見向きもされない。 年齢的にも若い娘にはかなわない。 実力があっても、若さや初々しさの方が勝る、特殊な世界。 若さがなければ、『賢い方法』で客を引くしかこの業界では生き残れない。 俺もこういう遊びでは経験を重ねた。 そんな事・・・俺以外の客との本番行為・・・で気分を悪くするほど、 俺はもう子供(ガキ)ではない。 「サユリさん、今はサユリじゃないね」 「え?」 「今は完全に早智子だよね」 「・・・」 「本当の姿を見せてくれて、俺、嬉しいよ・・・」 俺が好きなのは、建前や役割ではなく、 本当の『人間』として俺に接してくれる事だ。 特にこういう仕事の女性に本当の女性としての一面を見せてくれるのが、 何よりも嬉しい。 サユリ・・・いや、一人の女性としての早智子は俺を驚きの表情で見つめてくる。 「早智子さん、ありがとう」 「・・・・・・何でよ、もっと怒ってよ・・・」 すでに早智子となっている彼女は、俺の首に腕を廻し、力強く抱きついてくる。 さすがに看護婦。 見た目より強力な腕力で、俺も苦しいほどだ。 俺の胸の中で、じっとしている早智子は時折鼻をすすっている。 俺はショートカットの髪を何度も撫でた。 「これも看護婦もさ、人と接する仕事って疲れるよな」 「でもお店には感謝しているよ・・・こんなオバサンを雇ってくれたんだから」 「感謝ねぇ」 「私ね、実はずっと考えてたの・・・私、何やってんだろうって」 「この仕事のこと?」 「ううん。でね、何であの人は何も気付いてくれないんだろうって」 「あの人・・・旦那さん?」 「だって、自分の奥さんがこんなことやってんだよ?」 「・・・うん」 「何で叱ってくれないの、何で力づくでも連れて帰ってくれないのって」 「旦那さんはこの仕事は?」 「知らないと思う・・・でも勘ぐって、心配して欲しかったの・・・」 「気付いて欲しかったんだね・・・」 「でもすごく不安・・・ばれるのも、嫌われるのも」 本当はローンや小金を稼ぐのが彼女がデリヘルを始めた理由ではないという。 彼の妻として、家族として心配して欲しかったのだ。 そして女として、気に掛けて欲しかったのだ。 でも彼女の本音とは裏腹に、表立って何も訴えられない自己嫌悪に揺れていた。 彼女が訴えるために起こした行動は、風俗デビュー。 誉められた行動ではない。 女性の最も大事な部分を賭けてまで訴えたい事とは何だったのか。 彼女の旦那は医療現場とは関係ない仕事をしている。 看護婦である早智子の仕事にはあまり深い関心がないらしい。 旦那との夫婦関係は子供が生まれた後から冷えており、Sexはほとんど無い。 なので、病院のシフトだといえば簡単に外出も外泊も出来る。 その態度に不安を覚えた早智子は、このデリヘルのバイトを始めた。 最初は反抗と小遣い稼ぎ程度の軽い気持ちだったが、 彼女の人柄と真剣な仕事振りに、少しずつ店でも人気が上がる。 他の客たちはサユリの肉体を求めてくる。 店との約束で最初は本番を受け付けなかったのだが、それを打ち破ったのは俺だった。 それからは何人もの店の客と本番行為を行った。 生身の女の欲望を、ようやく分かりかけた女の悦びを晴らす相手は、 旦那ではなく、自分の存在を金で買った愚客たち。 それも決して愛情のこもった態度で接してくれるわけではない。 辛い事も、苦痛な事も多いだろう。 小金を儲ける『サユリ』の陰で、 徐々に自身の存在に疑問を持ち始める『早智子』。 夕方、すました顔をしてバイトから帰る。 旦那は何も気付いていない。 ほっと胸を撫で下ろす『サユリ』の陰で、 彼の妻としての価値に悩む『早智子』。 デリヘルの客からは身体を求められ、一方で旦那からは一向に女扱いされない。 そのサユリと早智子との狭間の見えない溝が、 彼女自身の努力では埋められないほど広がっていく。 そして自分自身は何なのか・・・ 本名と源氏名の間で揺れ動く女の心境。 「そうか、その狭間で苦しんでたんだね・・・」 彼女の話を聞き、俺はその不安を悟った。 早智子は強く抱きついたまま、俺の顔の後ろで首を僅かに振った。 それが縦なのか、横だったのかは分からなかった。 「この前、早智子って呼んでくれたでしょ?」 「ああ、ホテルで・・・」 「・・・怒っちゃった事もあったけど、本当は嬉しかった」 「本当?」 「だって本当の私を抱いてくれたんだ、って思えて」 「恥ずかしかった?」 「恥ずかしかったけど・・・すごく感じたの」 「・・・うん」 「私・・・早智子のことを求めて、抱いてくれる男の人がいるって」 「・・・」 「あの人、私をもう名前で呼んでくれないし・・・」 暗い寝室には、静かに俺と早智子の声だけが響く。 「俺から見れば、早智子さんはよく出来た女性だと思う」 「どこが?」 「仕事も、家庭もしっかりこなしているし、バイトだって・・・」 「身体を売ってるような女なのに?」 「いい事ではないだろうけど、でも本当はお金じゃないんでしょ?」 「・・・」 「本当にお金が欲しい人は、もっとその役になりきるよ」 「・・・役?」 「淫乱な女を演じて、客を満足させて指名を勝ち取るよ」 「・・・」 「早智子さんはそんな器用な女性じゃないよ・・・分かるよ」 「・・・」 早智子を抱き締めながら、髪を撫でながら、 俺の気持ちをまとまらない言葉で一生懸命伝えた。 「俺、早智子さんの事が好きだから・・・あの時も求めちゃったかも」 「私も好きだからね、優しい平良さんが・・・」 早智子が乱れた髪のまま、顔を上げる。 どちらからともなく、俺と早智子はkissをし始める。 唇からより深く、舌を絡ませる。 早智子のkissは、軽い涙の塩味だった。 しかし電子音のタイマーが鳴る。 終了10分前だ。 「もう時間がないよ・・・」 「平良さん、勃ってるよ・・・いいから入れて」 俺は先程の濃厚なkissで、しっかり勃っている。 「サユリ?早智子?どっちが俺を求めてるんだ?」 「・・・早智子ぉ!」 「じゃ、早智子の中に入れるよ」 「来てっ、お願い・・・抱いて」 まだ少し濡れ方の足りない様子の早智子自身に、俺自身を割り入れる。 奥まで突くと、早智子は声を上げてしがみ付いて来た。 早智子自身はすぐに潤いを増し、充分過ぎるほど濡れる。 「凄くいい、早智子・・・」 「私も・・・凄くいいの・・・信じて、本当に、好き・・・よ!」 「俺も・・・俺の目を見て、思い切り感じて!」 「いやぁ、い、イッくぅ・・・・ううう〜〜〜」 程なく、俺達はイッた。 またしても早智子の腹の上に出す。 勢いの良い精子が顎のあたりまで飛び、引っかかった。 俺と早智子はそのまま強く抱き合い、密着感を楽しむ。 このまま眠れたら最高の一時だが、とっくに終了時間を迎えている。 早智子は時間的に俺がラスト。 腹の精子をそのまま拭き取り、服を着替えた。 「この仕事、続けるの?」 「本当は病院だけで何とかやっていける。寂しかっただけかも知れない」 「辞めちゃうんだ?」 「でも、もうしばらく続けてみるわ・・・」 早智子はサユリに戻り、そういい残して俺の部屋の玄関を出た。 「すみません、遅くなっちゃって・・・」 下でそう運転手に言いながら、迎えのワゴンに飛び乗る。 エンジンを吹かしながら、勢い良く発進して行った。 その後、俺の仕事の配置が変わり多忙になった。 サユリの出勤に合わせた時間も取れなくなる。 俺とサユリのすれ違いは致命的だった。 店に問い合わせると、サユリは完全予約制になったそうだ。 しかしその後しばらくして、店から姿を消した。 無断で消えた風俗嬢に、店もつれない態度を取る。 「自然消滅ですねー。うちも出て来ない人をお勧め出来ませんから」 消息不明となったサユリとは、もう逢う事は無かった。 愛を与える立場の人が 実は愛に飢えている 他人の世話をもこなす人が 自分の寂しさにつぶれている あまりにも理不尽 報われない時に 自棄をおこしてしまう人がいる 叱咤激励できるほど 俺はそんなに強くない 甘えたい時に甘えられることが そういうパートナーに恵まれることが 一番幸せなのだと 数々の失敗から学んだ いま あなたに そんな人がいますか? その大切な人を 大事にしていますか? 恵まれた時ほど ありがたみを忘れてしまう 去られた後に 痛烈に存在の大きさに気付く なぜもっと大事にしてやれなかったのか いままでの 取り返しのつかない過去を悔やむ いつまでも 取り返しのつかない過去を悔やむ 平 良 |
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