華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年07月10日(水)

黄昏のいちご海岸通り。 〜結〜

<前号よりつづく>


俺はバイクをさらに市街地の方面へと走らせた。
多少ホテル探しにてこずるものの、何とか見つけてチェックイン。

1階が駐車場の、ガレージ型の古びたホテル。
バイクを止めてシャッターを閉め、2階へ上がった。



別々にシャワーを浴び、ベッドにもぐった。
何の気なしに点けたテレビには、夕方のローカルワイド番組が流れる。


裸でベッドに入る二人。
俺は美香に関しては、どうも踏み込めなくなっていた。


あの余計な話・・・身体が弱いこと・・・を聞いてしまったがために、
俺は男になりきれない。


 「ねぇ、しないの?堂々と襲ってくりゃいいじゃん」

何もしてこない俺に、美香が焦れる。

俺は美香に抱きつき、唇を首筋から胸元へと這わせる。
一方、指先を膝から内腿へと這わせる。
白く柔らかい肌は敏感で、些細な刺激でも充分に感じ取ってしまう。


美香から熱い吐息が漏れる。
そっと目を閉じて、じっと自分の身体に這う感触を楽しんでいるようだ。


俺は美香自身へと指を伸ばした。
前回、生理になってしまい未遂に終ってしまった、因縁の相手。

ふっくらと肉付きの良い美香自身は、しっとりと潤っている。

俺は右手の中指を舐め、美香の中へ挿入した。
専ら吐息を漏らすばかりだった美香が、あうっ・・・と声をあげた。


「痛いのか?」
 「違う・・・」

「くすぐったいのか?」
 「・・・バカ、あうっ」

指を前後に動かすたびに、徐々に声が大きくなる。
中指の先が、美香のGスポットに当たるのか、
美香は自然と腰を揺すってその部分に当てようとする。

「気持ち良いのか?」
美香は無言で頷く。

「反応してくれないと、俺は分からないからな」
 「ちゃんと、当たってるよ・・・気持ちいい・・・うっ、あうっ・・・」

言葉攻めに反応するのか、ますます愛液がにじみ出てくる。


 「入れてよ・・・」
美香がいつもの調子だったが、せがんでくる。
俺は構わず、指で攻めつづけた。


 「早く・・・」
焦れ続ける俺自身にゴムを被せて、肉を纏う粘膜の中に挿入する。

シーツを掴み、全身に力を込める美香。
歯を食いしばっている。

痛いのか?
痛いのだ。


俺の心が、引き潮になっている。
指や舌では何とでも演じられるが、俺自身は嘘を吐かない。

俺が萎えてきている。



美香は決してSexが好きなのではないという。
気持ち良い、というよりも痛いからだそうだ。

「奴が襲ってきても、私の気分が乗らなきゃ突き放しちゃう」

美香の子宮や膣に例の問題があるのも理由だろう。


彼に対する後ろめたさから逃げ出したいのだろう。
快楽の追究や好奇心ではなく、今の自分からの逃避。

こうやってセクシー・ツーショットで『遊んでいる』美香に対して、
俺は侘しさを禁じえない。


看護婦である立場とその知識から、あまり長くないのだと理解している自分の命。
結婚しても子どもが期待できない事への悲しみ。
人生を共に歩む相手に、自分の生命の期限を宣告された事を言えずにいる罪悪感。
しかし着実に迫る、彼との結婚の日取り。
一緒に住む彼とその家族。


何時しか自棄になって、一夜限りの男と次々、遊びに興ずる。
周囲の状況と自身の不安との、ますます広がるギャップに戸惑っている。


何とも重い、重すぎるマリッジブルー。



 「・・・・平良君、どうしたの?」
「俺?・・・ごめん・・・」

 「舐めようか?」

美香は萎えてきた俺自身を口で含んで、何かと大きくしようと奮闘する。
しかし男は、勃たないときは何をやっても勃たないのだ。


 「ダメだね・・・」
「ごめん、今日は何か調子悪いや・・・・」

 「ちょっと、休もうね」


美香が気を利かせて、俺から離れて座る。
彼女は自分のメントール煙草に火を点け、一服する。


 「いいよ、前戯だけでも満足させてくれたから」
 「私ね、それだけで満足なんだから」
 「これから遠い所へ帰るんだもんね、無理しなくてもいいよ」
 「前回は私が生理になっちゃから・・・これでチャラだよね」
 「今日はバイクでいちご海岸通りを走れただけでも楽しかったよ」
 「平良君、やっぱり上手だよ・・・私の弱いところをキチンと突いてたもん」
 「平良君の彼女、きっと幸せだよ・・・優しいし、H上手だし・・・」


前回俺が帰るときと同様に、何かと気を遣って言葉を掛けてくる。

どこか美香に申し訳ない気持ちだった。
女性の前で初めて勃たなかったことだって、ショックだった。

まともな返事が出来ない俺と、さらに言葉を掛けてくる美香。
重い空気を拭いきれないまま、俺たちはホテルを後にした。



別れるときも、「大丈夫?」「帰れる?」「無理してない?」と声を掛けてくれた。
美香は本当に気を遣ってくれる。

精神的にも、肉体的にも不安定な自分の我が侭に付き合わせた、
罪滅ぼしでもあるのだろう。


美香の横柄さと優しさ。
きっと自分の中で、バランスをとっている。

本当は気の利く、心の優しい女。
横柄な態度は、何もかも不安定な自分自身の化身。

美香の姿が、どこか哀しかった。



「じゃあな」
 「気をつけてよ、帰ったら絶対電話してね」


静岡I.C.へ向けて、帰途に着く時。
バックミラーに映る、美香の姿。

彼女はミラーを見る限り、姿が見えなくなるまで動かなかった。
最後まで俺を見送ってくれたようだ。




「今夜はありがとう。無事に部屋に着きました。」

約2時間半後。
約束通り、無事帰宅を伝えるために電話した。
仕事に出かけたのか、留守番電話だった。
折り返しの電話はなかった。




次の年、世紀末の正月の事だ。
結婚写真が載っている年賀状が届いた。


『 はぁ〜い、ひさしぶり。元気だった?
  とーとー結婚したよ。どう、私キレイでしょ?な〜んてね。
  またTELするよ。それじゃっ!            』


そこには、ウェディングドレスを着た笑顔の美香と彼。
あの当時の複雑な美香を知る俺にとって、ちょっぴり意味深な笑顔だ。


  ちゃんと本当の事を話したか?
  内緒にして、自分ひとりで苦しんでいないか?
  一生を共に生きる相手なら、遠慮はいらないだろう。

  俺なら、全てを話して欲しい。
  一生、一緒に苦しんでやる。
  それも、愛のカタチ。



そのTelするよと書かれた年賀状以降、美香からの連絡は何もない。

きっと、それでいいのだ。







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