華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年07月13日(土)

浪速の聖母の安息日。 〜新人〜



以前よく利用したテレコミ店では、俺は受付にこう言付けていた。

「新しい女性をお願いします」と。



電話にも男にも慣れた女よりも、
馴れていない人のほうが会話をリードしていても楽しい。

その店のテレコミ嬢には各々源氏名がついており、
気に入ったら次回から源氏名で指名ができるシステムだった。

電話版のキャバクラのようなものか。
騙される事を覚悟で出逢いを求める男にとっては、
どちらも同じようなものなのだが。


上手くタイミングが合えば店から新しい女性を紹介してもらえる。
そして指名できれば、それ以上の人間関係も築ける。


今回はそのタイミングが合ったようだ。


 「今先ほど、新しい方が入りました。30歳の主婦の方です」

当時26歳の俺は、年上の女性に憧れを持つ年頃。

「じゃ、その人で」
 「ハイ、でもその人は・・・」

「は?」
 「大阪の人なんですが、よかったでしょうか?」


あまり遠い街の人では通話料が掛かると思っていたが、
たまに違う街の人と話すのも悪くないだろう。
そう思い直した後、快く了解しその新人からの電話を待っていた。



10分後、コレクトコールで掛かってきた。

「もしもし」
 「あ、あの、は、初めまして・・・」

「何だかもの凄く緊張していますね(笑)大丈夫?」
 「あ、ありがとうございます、馴れてなくて・・・・」

「俺が初仕事なんだってね」
 「ええ、ホンマよく分らないんで・・・宜しく教えてください」



彼女の源氏名はチエミ。
先ほど登録したばかりだという。
いきなりの仕事に、動揺と恥ずかしさで戸惑ってしまうという。

ただ普通の会話もおぼつかない程、緊張している様子だ。
馴れていないところは、俺の狙い通りだが。


「でも、見事な関西弁ですね」
 「そうかな、え、でも、普通にしゃべってんねんよ」

「俺、女性の方言って好きだから、いいよ」
 「そう言うてもらえたら・・・・・・」

その時、チエミの背後でキーッ、キャーッと声が聞こえた。
子どもか?


 「ゴメン、ちょ、ちょっと待っててくれる?」



俺が返事をする間もなくオルゴールに切り替わる。
時間にして、数分間。
忘れ去られたのかと思うくらい、長く感じた。



 「すみません、長い時間待たせちゃって・・・・」
「こちらこそ、都合悪ければ掛け直そうか?」

 「え、もうええよ、寝たから・・・・・」
「お子さん?」

 「え、うん、まぁ・・・・」
「本当・・・いくつなの?」

 「4つだけど・・・・」
「可愛い盛りじゃん」

 「まあええやん、子どもの話は・・・」

あまり触れて欲しくない話題だったようだ。
冷たく切り上げる。


「旦那は寝たの?」
 「・・・・・・うん、まあ」

気まずい沈黙が流れる。
やはり触れて欲しくない話題だったのだろう。
家庭の事情というのは、様々あるものだ。

ようやくチエミも落ち着いてきたみたいで、少しずつ俺に話し掛けてくる。


 「なぁ、聞いてもええか?」
「何?いいよ」

 「ここで、女の人とどんな話するん?」
「話かぁ。まあ堅い話もするし、やっぱりHな話も多いかな」

 「Hな話するんやぁ」
「だって、嫌いな人はいないでしょ。Hは嫌い?」

 「いや、嫌いやないよ」
「でしょ?」

 「そっかぁ・・・・しようや、Hな話」
「いや、いきなりしようと言われてもなぁ・・・・」

 「ねぇ、出来へんか?私とやったら・・・・」
「そういうわけじゃないけど・・・」


チエミはきっと先ほどの長い中断を気にしているのだろうか。

先ほどまではまともに呂律が回らないほど緊張していたのに、
強引に、必死に男が喜ぶ方向の話に持っていこうとしている。



「チエミさんは最近、旦那さんとどう?」
 「旦那かぁ?・・・・・・うん、ないよ」
 
「どれくらい?」
 「もう、2年は無いなぁ・・・・・・」

「勿体無い!淋しくない?」
 「・・・・・・」


再び先程の気まずい沈黙だ。
話題を変える。


「でも何にも無しじゃないでしょ?彼氏とかは?」
 「・・・・・・無いよ」

俺は焦った。
電話の向こうのチエミは何とかそう答えたものの、
どうにも隠し切れない涙声だった。


「どうした?何か傷付ける事言ったかな?」
 「・・・・・・そうやない・・・・・」

そう答えるのが精一杯のチエミ。
何か辛い思い出でもあるのか。
俺は再び電話を掛け直すよ・・・といったが、大丈夫と言い張る。


 「ゴメンな、取り乱してしもうて・・・・」
「俺もびっくりしたよ」

 「私な、男居らんでも、一人で満足してんねん」
「一人?オナニー?」

 「うん・・・・・・アレ使ってるから」
「何を?」

 「・・・・・・・」
「小さい声で聞こえないよ、ちゃんと言って?」

 「あのな、あるやん、男の人の、形した奴・・・・バイブ」
「本当?!・・・持ってるんだ」

チエミは雑誌の通信販売で何本かバイブを購入したという。
何人もの女性とここで出逢ったが、こんな人は初めてだ。


<以下次号>






↑エンピツ投票ボタンです。今回は6話構成です(長い!)。宜しくお願いします。



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