華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年07月09日(火) 黄昏のいちご海岸通り。 〜転〜 |
<前号よりつづく> 後日、美香から電話があった。 「先日はあんな事になっちゃって、ゴメンネ」 「気にしなくても良いよ、ああいうこともあるさ」 律儀な女だ。 「実はね、(生理が)時期的にやばいなぁと思ってたんだけど」 「まあ、健康な女性の証拠じゃない?」 「私?健康じゃないよ・・・だって私、早死するんだから」 「は・・・何だって?」 あまりに美香の言葉が意外だったので、一瞬聞き逃しそうだった。 「まあ、平良君ならいいかな・・・」 あっさりと美香は秘密を告白してくれた。 美香は確かに小太りな体型だった。 あれは女性器系の病気への薬の副作用だという。 昔から身体の弱かった美香は、 体育の授業でも見学ばかりだったそうだ。 ある日、体調を崩し医者に診てもらった際に、 重い内臓疾患の宣告とともに、こう言われたという。 『まず子どもを産める確率は半分、35歳まで生きられる確立も少ない』と。 それだけ身体が弱っていたそうだ。 確かに、今までの会話の中でもスポーツはしない、面倒臭いからと言っていた。 彼のサッカーの世話や見物に付き合うこともほとんどないそうだ。 「しない」「面倒臭い」のではなく、 本当は「できない」「付き合えない」のだ、と。 自分の弱さを隠すためにも、横柄で生意気な言い方をする女だという事に、 俺はそこで気付いた。 「彼は病気の事を知ってるの?」 「言ってない。言えるわけないじゃん。言ったら破談だよ」 「そうか・・・でも黙っているのも問題じゃないか?」 「仕方ないじゃん」 「仕方ないって・・・」 「私のことは私にしか解らないんだから」 「でも結婚するんだろう?! 内緒にしていい事じゃないだろうよっ」 「でもいいの、放っとけよ」 彼は幼馴染みの自動車修理工。 子どもっぽいところがあり、あまり精神的に強いタイプではなく、 すぐに傷つき、落ち込むのでこんな相談も出来ないそうだ。 俺もあまり踏み込んだ意見を言う立場でもないのだろうが、 つい熱くなってしまい、下手な言い方を繰り返す美香と口論になってしまった。 「私だって看護婦だよ?! 自分の身体の事も分かってるよ!」 そう言われて、俺は次の言葉が出なかった。 数日の空白があったが、また美香から電話があった。 また会いたい、先日の続きがしたい、という。 「だって平良君の愛撫、結構良かったよ」 俺は正直躊躇していた。 あんな話を聞かされては、抱く気も失せてしまう。 「私ね、体調がこんなんだからさ、いつ死んでも後悔したくないんだ・・・」 誰にも話せず、女の最も大切な部分に爆弾を抱える女。 その女の宿命に必要以上に同情するつもりはないが、 やはり美香と出逢ったのも何かの縁だ、と考えていた。 俺はもう一度美香に会うことにした。 しかし休みが合わず、あまり会う機会がない。 「もう少し考えさせてくれよ、俺も都合があるから」 「早めに言ってね、シフト変えてもらうから」 およそ2ヶ月半後の水曜日にまでずれ込んだ。 俺の仕事もたまたま休みで、美香のシフトもいじらずに済む休日だった。 俺は当時乗っていた400ccのHONDA Super fourで静岡を目指した。 一度くらいはバイクに乗ってみたいね、という美香の望みを叶えてやる為に。 ヘルメットを後部座席にくくりつけて、東名高速道路を東へぶっ飛ばす。 午後3時過ぎ。 静岡大学の近所で、美香に再会した。 先日よりは体調が良いのか、にこやかだ。 「お疲れだったね・・・遠かった?」 「バイクで高速を2時間以上もぶっ飛ばしゃあ、草臥れるよ」 俺は早速美香を後部座席に乗せ、通り道にあった喫茶店で一休み。 「いいねぇ、この赤のバイク。どこ走ろうか?」 「俺は静岡は分からんから、任せるわ」 「じゃあ・・・季節はずれだけど・・・」 美香が案内すると行った場所は、清水市の方面。 「いちご海岸通りって、知ってる?」 「俺、一度だけ来た事あるなぁ、友達と一緒に車で走ったよ」 「そこに行こうよ」 一度だけ、清水に住む友人達と共に走ったことがある道。 静岡市から清水市の海岸線にかけて走る、国道150号線。 山手には、いちご畑のビニールハウスが立ち並び、 いちごの時期には、観光客やバスでごった返す。 向かいには海岸線がすぐ道路の脇まできている。 波がテトラポットにあたり、砕けていく。 通称『いちご海岸通り』。 季節はずれだったせいで、道路も通行量が少ない。 俺は美香を後ろに乗せ、時速70キロ近くで走る。 黄昏の遠州灘。 俺たちに吹き付ける、黄金色に染まった潮風。 遠くでタンカーらしき大型船がのどかに航行している。 俺はシフトを4速に落とし、アクセルを吹かした。 400cc直列4気筒が唸る。 グイッと上がるスピード。 直線の続く道路。 俺たちは少しだけワインレッド色の突風になってみた。 エンジンが心地よさげに歌う。 美香が嬌声を上げて、俺の背中にしがみつく。 そんな可愛いところもあるのだ。 「そろそろ・・・・行きますかぁ?」 いちご海岸から外れ、市街地へ向かう信号待ちのとき、 美香がヘルメット越しに誘う。 俺たちの最大の目的は、前回のリベンジ。 時間は早くも夕暮れ。 海岸方面も、街並みも夕闇に染まりつつある。 <以下次号> |
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