華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年06月24日(月)

汚れなき少女への伝言。 その2


<前号より続く>



ミナから入った電話番号に電話をかけてみた。

4回ほど呼び出し音が鳴り、受話器が上げられた。
しかし無言だ。


「もしもし?」
 「・・・・・・もしもし」


先ほどの伝言から流れた、ミナの生声だ。


「あ、分かりますか?28の・・・」
 「・・・・・・はい」

「番号、教えてもらって、ごめんね・・・」
 「・・・・・・はい」


緊張からか、たどたどしい会話から始まった。


「こういうこと、よくやるの?」
 「どうだろう・・・3回目くらい?」

「初めてって言ってなかった?」
 「そう言ったほうが、オヤジが喜ぶよって友達が・・・」

「でも、高いね・・・普通3万円っていうのに、5万円だもん」
 「ちょっと、お金欲しいんだ・・・」

「何に使うの?」
 「うん・・・あのね、彼に・・・」

「彼氏、いるんだ」
 「いるよ。いなきゃこんなこと出来ない」


即答で彼がいることを認める。

彼氏がいなきゃ、出来ない事。
売春は、いや援助交際はそういう行為なのだろうか?


「その彼氏は、何やっている人なの?」
 「プーだよ」

「お金、どうするの?」
 「だから・・・彼とご飯食べたり、服買ってあげたり・・・」

「ホテル代にしたり・・・するんだ」
 「・・・・・・うん」

「そっかぁ、貢いでるんだ」
 「・・・・・・だって、みんなやってることだもん」

「彼、その事知ってるの?」
 「だって、みんなやってるから」


俺は次の言葉を失った。
友達がみんなやっているから、私もやる。

売春だぜ、やってることは。

流行の遊びやコギャルメイク、ルーズソックスではない、立派な犯罪だ。


異を唱えれば、すぐに仲間外れ。
下手したらいじめの標的になる。
みんながやることは、私だってやる。

狭く淀んだ女の世界は、この頃からすでにしっかりと存在する。

ミナが俺の複雑な感情を知らないのか、話を続けた。  


 「そうしないと、嫌われちゃうもん・・・」

「聞いてもいい?」
 「何?」

「彼には悪いと思わない?」
 「・・・・・・」

「彼とは上手くいってる?」
 「・・・うん。優しいよ、彼」


まだ恋愛とはどういうことか、分からないほど若い女が、
顔も素性も知らない男に自分自身を売り込む。

そして自分の身体で稼いだ金は、自分の男に流れていくのだ。


その後の話をまとめて書こう。

ミナは自称県立の進学校に通う。
幼い頃に両親が離婚し、母親に引き取られたミナは母、弟と3人暮らし。

実家の近所にある持ち帰り弁当屋でアルバイトをしながら、家計の一端を支える。
たまたま今日はバイトが休み。

明日彼に会うので、彼にプレゼントの時計を買ってあげたい。
彼には、特別な日でなくても、何かしら買ってプレゼントする。
理由は「喜んでくれるから」。

そんな調子で食事代、ホテル代などと出費がかさむ。
バイト代や小遣いも到底足りないので、以前から友達に勧められていた
援助交際を始めようと思った。


「友達が、ミナなら絶対高く売れるよ、っていうの」


自称身長167cm。
自称Dカップ。


ここ数日で2人に会うものの、2人とも生理的に受け付けないタイプのオヤジ。
気持ちが悪くなったので、その場で逃げてきた。
だから一度も稼いでいない。

でもここままじゃ、彼に嫌われそうで恐い。


高校生なので門限もあり、明日まで時間が無いので、
代金を引き上げて信頼できそうな人にだけ返事した。

それが、嘘をついた俺だったのだ。


・・・

運の悪い女だ。
いや彼女の運を踏みにじるのは、俺だ。


自分の享楽のために大金を稼ぐ援助交際なら、平気で罵倒できるだろう。
俺はそんなクズ女どもと、それを買うもっとクズなオヤジどもの世界だと思っていた。

ミナは話を聞く限り、少々考えが足りないとはいえ、取り巻く状況が俺の想像と違う。


彼のために、稼ぐ。
彼と過ごす時間のために、伝言に入れる。
彼を格好良く仕立てるために、彼女が金を出す。

彼への愛のために、身体を売る。


俺は様々な感情が入り混じり、もう次の言葉が出ない。


 「いい?合計で7万円だよ?!」


ミナの焦り交じりの声で我にかえった。
身体を売った5万円と、自宅の電話番号を売った2万円。


「あ、ああ、いいよ。じゃ、どこで会おうか」
 「□□駅の通りを1号線のほうへ行くと、弁当屋とコンビニがあるの。
  そこのコンビニの駐車場で。車は何で来る?」


当時の俺は車を持っていなかった。とっさに嘘をつく。


「クラウン・・・白の」
 「分かった。目印は?」

「ナンバーは・・・71−45」
 「71−45ね、メモった」


俺はまたとっさに実家の車のナンバーを口走った。


 「どんな格好で来る?」
「俺は・・・今、スーツだから」

 「私、学校の制服着ていくから・・・その方がいいでしょ?」


きっとその方がオヤジ喜ぶよ・・・・といった、無責任なアドバイスなのだろう。


「じゃ、今から一時間後に会おう」
 「わかった、絶対来てね!!」


金策にホッとしたのか、にわかに元気になったミナは電話を切った。


俺は電話を切ったあと、部屋に横になり天井をぼーっと見つめていた。


ミナは自分の身体を売ってまで、なぜ彼に尽くすのか。
先ほどの話を聞く限り、ろくな男ではない。
仕事をしないし、女に貢がせる。それも売春で稼いだ金だと知っている。

顔形が変わるまで、殴りちぎってやりたい野郎だ。

俺なら絶対にそんなことさせないし、していれば身体を張ってでも辞めさせる。


それが男ではないだろうか。
それが彼氏ではないだろうか。
それが本当の愛情ではないだろうか。


それも自分の女に身体を売らせておいて、自分はその金で怠惰な生活をのうのうと
過ごす。
それが優しさだろうか。



俺は起き上がり、着替えをはじめた。
TシャツにGパン。
先ほどの指定した格好とは全く違う。それで良い。


嘘で塗り固めた俺は、今更ミナにまともに会えない。
だけどどんな娘なのか、無性に見てみたい。

俺は指定された待ち合わせ場所に向かう事にした。
□□駅は俺の住む街から、電車一本で行ける。
ただ時間が無い。


部屋を飛び出し、自転車にまたがった俺は一路、駅を目指した。
夕方前。


待ち合わせ時間まで、あと50分。



<以下次号>






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