華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年06月25日(火) 汚れなき少女への伝言。 完結編 |
<前号より続く> 駅につき、□□駅までの切符を買う。 ここから□□駅まで、だいたい25分。 そこから、待ち合わせ場所までどれだけ掛かるのか・・・ 詳しくは知らない土地なので予想もつかない。 ホームに滑り込む電車にそのまま乗る。 待ち合わせ時間まで、あと40分。 25分後、電車は定刻に無人の□□駅に到着した。 あと15分。 言われたとおりの道筋を歩いていく。 指示のとおり、弁当屋とコンビニが見えた。 自然と早足で進む。 2分前にコンビニに到着。 ミナらしき女子高生はまだ辺りに見えない。 何とか間に合った。 俺はコンビニの中に入り、ウィンドに面した雑誌コーナーで立ち読みをする振りをして、 視線を外へ向ける。 夕方の帰宅ラッシュ。家路を急ぐ車で国道1号線は渋滞気味だ。 待ち合わせ時間になる。 俺は再度窓の外に目を向けた。 すらりと背の高い、短めのスカートに軽く化粧を施した女子高生が一人近づいてきた。 ナチュラルブラウンのストレートな髪が風になびく。 すらりと高い身長。 紺のリボンが清々しい、セーラーの夏服。 どこから見てもすれた様子の無い、援助交際など無縁のような雰囲気。 きつく、緊張感溢れる表情。 ずば抜けた美人ではないが、苦しい家庭を支えているからだろう。 どこか優しげで、でも寂しげで疲れの浮かぶ物憂げな瞳が印象に残る。 「私を見つけたら、すぐに車に乗せてね。結構(実家の)近所だから」 電話でもそういっていた。 ミナは誰かに見られないように、時間ギリギリに登場したのだろう。 奇しくも、俺の立つ雑誌コーナーの真前に立ち、 時計やポケベルをチラチラと落ち着かない様子で見比べつつ、待つ。 来るはずの無い、もう一人の俺を。 嘘で塗り固めた「会社経営者」の俺を。 俺は彼女の後ろ姿を眺めている。 実在の俺とミナの距離は、雑誌ラックとウィンドを挟んで、約1m。 興味本位とはいえ、彼女に期待をさせ、騙す俺。 俺の良心がちくちくと痛んだ。 俺はコンビニを出て、脇の公衆電話ボックスに入る。 電話するのだ。 伝言ダイアルのセンターに。 「発信音の後、伝言をどうぞ」 無機質な発信音の後、俺は会社経営者の声でメッセージを吹き込んだ。 「すみません。28の経営者です。 急な会議が入り、今日はいけなくなりました。残念です。また次回宜しく」 溜息をついた後、俺は受話器を下した。 ごめんな、という気持ちがミナにキチンと筋を通すことで少し楽になると思った。 次回など無いのに、次回宜しくとつい言ってしまう。 俺がボックスを出てコンビニに戻る時、ミナをちらりと見た。 ミナは苛立ちながら、ポケベルを見つめている。 俺が雑誌コーナーで立ち読みする振りをして、またミナの様子を伺う。 ミナのポケベルが鳴った。 急いで先ほどの電話ボックスに入り、電話をしている。 きっと伝言ダイアルから転送されたのだろう。 先ほど吹き込んだ、俺の伝言を聞いているのだ。 何故か罪の意識が俺を責める。 受話器を置いたミナは、明らかに落胆した様子でボックスを出て、来た道を歩き出した。 俺はそっと陰から彼女の後ろ姿を見つめた。 ミナは弁当屋の正面を通らず、店の裏から家路につく。 ここの弁当屋でバイトしているからだろうか。 おぼつかない足取りで、がっくりとうなだれて歩いていく。 水田の多い、見通しの良い住宅地。 俺はミナが角を曲がり、見えなくなるまで陰から見送った。 何故か言葉にならない罪悪感を抱えて。 援助交際は明らかな売春であり、違法行為だ。 俺も風俗は利用するが、援助交際には現在でも一度たりとも関わっていない。 多少は自由になる金を持てるようになった、今でも。 援助交際は、誰が最も悪いのだろう。 援助交際を仕掛けた女本人なのか。 金を出して実際に買った男なのか。 その金を貢がせて自分だけ楽に生きている野郎か。 その女の空虚な心を支えてやれない、肉親か。 ミナは次の日、彼に嫌われたのだろうか。 自分に貢いでこない女は、用無しなのか。 愛とは、そんなんじゃないだろう。 こんな話を別の風俗嬢から聞いたことがあった。 独身の風俗嬢には、れっきとした恋人のいる人も少なくない。 「仕事で稼げば稼ぐほど、疲れていても彼に抱いて欲しくなるの」 どんなにハードな仕事の後でも、愛する男に抱かれる事で 傷ついた心を、汚された肉体を、疲れ果てた自分を癒し、浄化するのだそうだ。 ミナは、自分が頑張って稼いだ金を握り締めて、彼に愛を乞うつもりだったのか。 友達がみんなやっているから、自分も不安だったのだろうか。 貢ぐ金で、彼からの愛を買い取っているつもりだったか。 それが愛か? それが愛なのか? 愛がそんなものだったら、俺なら一生縁の無いものでも構わない。 ミナの話が真実ならば。 彼女は父親をはっきりと知らない。 だから実際の父親と同世代のオヤジどもに気持ち悪さを覚えたのだろう。 父親ならこんな時、娘の行為をどう思うだろう。 実はミナも立派な犠牲者だと思う。 身勝手な親の、身勝手な離縁に一番寂しい思いをするのは、誰よりも子どもだ。 どんな理由があるか分からない。 なので一概に親達を責める事は出来ない。 でもどんな理由があるにせよ、子どもからすれば『離婚』でしかないのだ。 子どもの不安定な心と行動は、不安定な家庭も大きな要因である。 許容量以上の寂しさは、全ての歪みの出発点だ。 すでに夕暮れ。 街に帰る車中で、俺はずっとミナの事を考えていた。 車内には、長い一日に草臥れた様子のサラリーマンや学生たち。 緊張から解放されたのか、スーツの若者が口をあけて無様に寝ている。 斜向かいには、英語のノートを開いて復習でもしているのだろう、女子高生。 ミナのと似た制服だ。 やるせない。 援助交際希望者は実際には「金」だけが目的ではない事を、 のちに新聞記事やアンケート資料などで知った。 要は「寂しさ」から逃れるため、なのだ。 寂しさを癒すために、男に身体を売る女。 寂しさを癒すために、女の身体を買う男。 需要と供給、か。 いつからこんな歪な人間関係に、こんな社会になってしまったんだろうか。 嘲笑ってつまらない考えをまとめるしかなかった。 ミナは、少なくとも俺に会う時までは汚れていなかっただろう。 その後、どうなったのかは知る由も無いが。 自分の身体を売ってまで彼に尽くす行為は、決して誉められない。 でも、そこまでして愛情が欲しかったのだ。 友達もやっているから、などという自己弁護を立てて。 ミナは愛情に、いやそれ以前の温もりに飢えていたのだろう。 叱ってくれる男がいないことに。 泣いてくれる人がいないことに。 大丈夫。 君を汚れた娘とは思わない 君を悪い娘だとも思わない ただ大好きな彼に 愛を表す方法を勘違いしていたんだ 愛情はお金じゃない事くらい 本当は分かってるんだよな? 君は優しいから 優しすぎるから 自分の寂しさを抑えてでも 誰かに笑って欲しかったんだ 大丈夫。 君を汚れた娘だとは 思わない。 大丈夫。 ミナに嘘をついてゴメン、との詫びと共に、 そう声を掛けてあげる機会があればよかった。 |
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