華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年05月20日(月)

女が裸になる仕事。 後編


<前号より続く>



麻奈美をもっとじらして、狂わせてやろうと悪魔的になった俺は、
麻奈美をうつ伏せにし、感じる背中や腰の辺りを舌と指で舐めていく。


麻奈美はシーツを掴んで、顔をベッドに押し付けて喘ぎ声をあげる。
腰が思わず小刻みに波打っている。


「どうしたの?」
 「だって・・・ほしいもん・・・・・・勝手に動いちゃって・・・あぁうっ」

「他の客にもこうやってせがんでいるんだ?」
 「こんなの、初めてだもん、みんな勝手なことばっかりで・・・」

「そうか、今まで頑張ってたんだ。今日は楽しもうね」
 「・・・入れて、お願い、絶対(店に)言わないから・・・入れて・・・」


ヘルスはサービスをしていくらの商売だ。

しかしここから先は、俺と麻奈美の自由恋愛。


麻奈美の左手を取って、俺の最高潮に達する俺自身を手に取らせた。

「こんなになっているけど、入れていい?」


・・・・・・


薄暗い部屋。
完全に照明を落としていなかった俺が悪かった。

麻奈美の左腕に刻まれていた、数十本にもなるだろう、痛々しいためらい傷。

生々しい、リストカットの痕だ。
ほとんどが浅い傷のようだったが、中には深く刃を当てたらしき傷痕もある。



リストカットは、本当に死にたい人の取る自殺方法ではないそうだ。

真の目的は、死ぬほど悩み、苦しんでいる自分を身近な誰かに訴えること。
随分姑息だが、見えない圧力に追いつめられた本人にとっては最後の方法。


麻奈美が死ぬほど悩んで苦しんで、いつか死神にそそのかされ、
崖っ淵で、身近な誰かに放っていたSOS。

それだけ過去に苦しんだ麻奈美の消せない過去が手首に残る。


俺は言葉に出さなかったが、一瞬勢いが冷めた。

振り向いた麻奈美は俺の戸惑いに気付いてしまった。


 「あ・・・これ・・・」
「いいよ、ちょっと休もうか・・・」


俺は時間を取る事にした。

無理やり挿入してしまえば、きっと最高の時間となっただろう。
それが、俺の不器用なところ。


汗ばむ麻奈美を腕枕し、抱きかかえる。
麻奈美の肉体はすっかり冷めていた。俺も平静を取り戻している。

 「ごめんね・・・」
「いや・・・麻奈美ちゃん。俺が勝手に冷めちゃっただけだから・・・」


麻奈美の身体に刻まれたいた、切り傷。

傷痕の上からまた切りつけ、幾重にもなった傷痕は幸い遠目には目立たない程だが、
身体を重ね合わせる今の仕事では、致命的なほど存在を示している。


リストカットの理由は聞かなかった。
仕事を始めた理由も聞かなかった。


ただ人当たりの良い振る舞いも、相手に合わせて行為を求める茶目っ気も、
決して彼女の持って生まれた天性の明朗さではないことは、残念ながら見抜けた。


やはり金で自分を買うような客に、心を開く事は無い。


 「でも、感じやすいのは本当なの」
「そうか・・・」


俺は重い雰囲気壊そうと、悪戯っぽく前から手を回して、
指を麻奈美自身に這わせてみた。


 「やんっ」

麻奈美自身はまだ温もりを保った愛液で満たされていた。


 「今からでも入るよ、これだけ濡れてれば・・・」

麻奈美は俺に強がって言ってみせた。
決して俺に目を合わせることなく。

おそらく本意ではない。

高い料金を払った客に何も出来なかった、せめてもの償いのつもりだろう。


「・・・また次にしようよ。もう時間だから、シャワー浴びよう」

俺は格好をつけてみた。
麻奈美もどこか安堵の表情で頷いた。


また次にしよう。

俺にとっては、もう二度と逢わない、とほぼ同義の言葉。


嫌いで吐いた言葉ではない。
でももう素直に俺の欲求をぶつけられない。


麻奈美は最後まで俺に何度も謝って、迎えの車に乗って帰って行った。


俺は冷蔵庫から缶ビールを出し、プルタブを引っ張り、一気に飲み干した。
強烈な炭酸とホップの刺激が、俺の喉の奥まで染み渡り、痛い。


自殺は俺だって考えたことがある。
自らの不甲斐なさに、自らをこの世から消し去りたい衝動に駆られた事が。

しかし・・・幸か不幸か、今もこうして無能ながらも生き延びている。
俺の生命は、まだ自ら幕引き出来るほどの価値すらない。


麻奈美は自ら刻んだ幾重もの手首の傷を、どう感じているだろうか。
でもこれだけは、伝えてあげたかった。


決して誉められないこの風俗の仕事でも、
自ら死を選ぶ事よりもずっとずっとマシだよ、と。

生きていれば、いつかは這い上がる事が出来る。
そして何時の日か、堂々と胸を張って陽の下を歩ける。


俺は酔いながら、麻奈美の事を思い出し続けていた。




あれから半年以上経つ。


風俗誌を買ってみると、麻奈美はその店の看板娘として、
今でも一番大きな写真で載っている。

辛い過去を乗り越えて、何とか自分の仮の居場所を見つけたようだ。




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備考・・・20020921   加筆修正


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