華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
MAIL  PROFILE & GUEST BOOK  


 本文が読みづらい場合、
 Windowを最大にして
 お楽しみください。

 +お知らせ+
 表紙にミニ伝言版開設!ご覧下さい。




-past- +elegy INDEX+-will-
2002年05月14日(火)

ランの嫁入り道具。 後編


<前号より続く>


ベルの鳴る時間が迫ってきたようだ。

 「最後、口でしよっか?」ランが切り出す。

「出来たら他のがいいな」俺は何となくはぐらかす。

 「何が良い?本番以外で」いきなりのカウンターパンチ。

「・・・だめなのぉ?」ちょっと悪戯っぽく答えて見せた。

 「だめ。『嫁入り道具』なんだから」

ランは大きな瞳が無くなるほどの満面の笑みで答える。こんな会話が楽しい。

「じゃ、素股がいいな」
 「じゃ、待っててね」


ランはローションを股間に塗り、脚を閉じて仰向けになった。

 「ここに、入れて」


股間と両腿の付け根の辺りに俺を導く。丁度隙間が出来ていた。

「入れるよ」

俺は上から、俺自身を突き入れた。

上下のピストン運動だ。本当に中に入れているような錯覚を覚える。
ランも徐々に喘ぎ声が漏れ出す。

「気持ちいいの?」
 「うん、ちょうどいいところに擦れるのぉ・・・」

彼女自身の突起に擦れて気持ちいいらしい。
漏れるような声を押さえきれなくなってきたランは、俺の首に腕を回してきた。
気分が盛り上がってきたのだろう。


そして、フィニッシュ。

まるで膣の中で出すような錯覚だった。

ランも仰向けで両腿をギュッと閉じたまま、動かない。
余韻を感じている。

俺はランの左頬にKissをした。
我がままへのお礼と、熟練のテクニックと素股への感服の意味を込めて。



思ったより時間が余り、二人で添い寝しつつ、聞いてみた。

「なぜ、こういう仕事しているの?」


俺の首に抱き付いて添い寝するランの口からは、意外な言葉が吐き出された。

 「・・・拓銀がつぶれなきゃね」

俺は息を呑んだ。



北海道拓殖銀行。

この銀行が破綻し、北海道の経済が一気に崩れたのは記憶に新しい。
今や沖縄に続いて、失業率国内ワースト2の都道府県。


経営陣どもは今もぬくぬくと責任をたらい回ししているのだろうが、
本当に今、辛く苦しい思いをしているのは「弱い立場」の人たち。


男のストレスのはけ口として、心の拠り所として草臥れた客に酒を注ぎ、
一緒に飲んでみせ、聞きたくも無い他人の愚痴を聞いてくれた・・・
そんな陽の当たらぬ「水商売」の人たちもその犠牲者だ。



彼女は若い時からススキノでスナックを共同経営していたそうだ。

しかし折からの不況から、拓銀の倒産のあおりをもろに受け、
客の激減したそのスナックも、間もなくご破算となる。

取立て屋から借金返済を迫られた彼女は仕方なく誰も知人のいない土地、
この名古屋で風俗嬢として再スタートを切ったのだ。


「ラン」となった彼女は孤独な土地で、たった一人で、身体一つで頑張っているのだ。

しかし名古屋も予想以上に景気が悪く、閑古鳥の無く既存のスナックや風俗店が
次々と倒産している。

様々な店を渡り歩いて、ここの店にたどり着いたそうだ。


 「(いろんな意味で)アイディア勝負でないと、もう客は来ないの。
  以前は詐欺まがいに強気な経営をしてたヘルスも無くなってるよね・・・」


裸の俺の隣りで添い寝する、裸のランは誰にでもなく呟く。

 「結局・・・お客に去られたら、もうやっていけないもの・・・」


ランの言葉には、辛い経験に裏打ちされた重みがあった。


ランの『嫁入り道具』は、客からの(本番など含めた)無謀な要求をかわし、
たった一人で自分の身と心を守る『護身具』でもあったのだ。

冗談とはいえ「本番」を切り出してみた俺は、自分の浅はかさを恥じた。



 「今度、札幌行くんなら△△△って居酒屋が良かったよ」

最後に彼女のお勧めの店を教えてくれた。
それも過去形で。

もしかしたら、ランはまだ北海道へ帰れないのかもしれない。


「そうだな、一緒に行けたらいいね」

俺はそう返事した。
ランは嬉しそうに満面の笑みで俺に名刺を差し出した。


 「この前ね、私の名刺がエレベーターで丸めて捨ててあったの。
  お願いだから・・・私たちから見えるところでは、悲しくなるから捨てないでね」

ちょっぴり寂しげな眼で俺を見て、また微笑んだ。


「ありがとう。今度も宜しく」
 「うん、またね」


別れ際、何回もこういう会話を交わした。

社交辞令。
一期一会。


ランは最後まで笑顔で見送ってくれた。
そして振り返り、青いカーテンの奥へ消えた。



俺はエレベーターの中で、先ほどの名刺を取り出して読んだ。

「きょうはいろいろなお話ができてすっごくたのしかったよ。
 またあそんでね」


俺も楽しかったよ。
あの娘で正解だったんだ・・・心から、そう思った。


エレベーターが1階に着き、ドアが開いた。
ドアの前には次の客らしき細身の中年男が待っていた。


ドアが開いた途端、にやけている大男の俺が立ってたから驚いただろうな。




☆毎度のご訪問、ありがとうございます。
 今後も刺激的で、ちょっぴり切なくなる
 「華のエレヂィ。」をお届けします。
 投票&My登録を、どうぞ宜しくお願いします。



備考・・・20020921   加筆修正


My追加



Directed by TAIRA
©2002 TAIRA
All Rights Reserved.

ここに登場する女性・出来事は実話です。
Web上で公開するために脚色・演出してあります。

このサイトの全てにおける無断複製・転写を一切禁止します。
また、このサイトに掲載されている文章の全てにおける著作権は放棄しておりません。
商業誌、商用サイト等への転載および引用につきましては、
「華のエレヂィ。」メールフォームより
お問い合わせ下さい。

+ very special thanks +
Design by shie*DeliEro
thanks for Photo→Cinnamon







エンピツ