16時半から保育園のクラスの保護者会。仕事先から一時間ほど遅れて到着すると、心なしか先生方も保護者も目が潤んでいる。いよいよ卒園、そして4月からはそれぞれの小学校……という話が続き、来し方行く末に想いを馳せて涙腺が緩んでいるようだった。
「では出席された保護者の方から一言ずつ」と先生に促され、日曜日に保育園父母の会の役員会があった後に「やることありすぎ。できるんだろか」と漏らしたわたしに、たまが「やってみなくちゃわからないよ。たまちゃんだって、うんでみなくちゃ、どんなかおかわからなかったでしょ」と励ましてくれた話をした。
何事も案ずるより生むが易し。
そういうわけで、役員会のその場の勢いで「これがいい!」と決めたものの入稿まで時間のないお祝い会記念品の「寄せ書き似顔絵絵皿」もやればなんとかなる、皆さんも似顔絵の提出ご協力お願いします、と頭を下げた。
月曜日以来、わたしの頭の中は「似顔絵の回収」のことでいっぱいになっている。
他の方々の話を聞くと、先生方への日頃の指導への感謝の言葉が忘れずに添えられていて、あ、しまったと反省。たまは、今の保育園に移ってきて、ずいぶんたくましく、たのもしくなった。それは、たくさんのお友だちにもまれ、先生方にあたたかく見守られ、導かれたからで、先生も含めて、クラスのみんなに感謝。
保護者会の後、常連組と、その人たちが連れてきた人で、どやどやっとわが家に流れて晩ごはんを食べた。子どもたちを食べさせる間に買い出し組がおかずを買いに出かけ、子どもたちが遊び出したら、お母さんたちでテーブルを囲んだ。
「そうだ、DVDの申込、目標枚数行きました!」と役員会の会計兼お祝い会担当さん。
「ええっ、行った?行ったの!」と思わず万歳。
よし、飲もう飲もう、乾杯しよう、と声が弾んだ。
DVDというのは、3月に行われる進級お祝い会を撮影するもので、例年業者さんにお願いし、父母の会が購入窓口になっている。昨年は申込枚数が多かったので、後から交渉したら値下げされ、差額が返金されたのだが、今年は最初から「昨年の実績を上回ると想定した価格」で募集をかけることにした。返金も手間がかかるし、毎年それぐらいの申込はあるからという見切り発車。もちろん、価格をおさえたほうが申込枚数もふえるのではという思いもあった。
ところが蓋を開けてみると、申込がなかなかふえず、やきもきさせられた。予定枚数に達しなかった場合の赤字は父母の会で補填するのか。皆様からお預かりした会費をそんなことに使うわけにはいかない。
会長(わたし)の読みが甘かったか。やはり面倒がらずに返金制のほうがよかったか、あるいは申込枚数をまず把握してから価格設定したほうがよかったか……。
目標に届くことを祈るしかなく、たまと二人で掲示用のPOPを作ったりした。
しかし、締切前日に目標をクリアし、結果オーライ。喉元過ぎれば何とやらで、めでたしめでたしと会計さんや他の役員さんとグラスを合わせ、泡を喉に流し込んだ。
あー、お酒がおいしい。
お酒でゆるんで、緊張していたんだな、と気づく。
今年からは申込方法を変え、紙からメールに切り替えた。紙だと集計が大変だし、メールでクラス毎に案内を送信し返信を集計してもらうほうが効率的だという会長判断。紙時代は「紙で申込を表明」+「振込をもって申込成立」だったのだけど、振込情報をあわせて知らせてもらえたほうが確実ということで、「申込の返信は、振込を終えてから」とした。
この方法が混乱と手間を招き、「まず申込表明をしたほうがいいのでは?」と何人もに指摘されてしまった。取りまとめの役員さんがメールを受け取る手間を省くつもりで「申込表明」と「振込情報」メールを一度にしたのだけど、「先に申込の返信だけしちゃダメ?」の問合せに答えたり、「まず申込の有無を知らせてください」と案内をし直したり、と結果的には皆さんの仕事をふやしてしまった。
よかれと思ってやったことが裏目に出るというのは、辛い。ごめんなさい、でも今さらどうしようもないのでこの反省を次年度につなげますと胸の内でつぶやくしかなかった。
予定枚数に達しなかったら、申込方法を変えたせいかも……と責任を感じて縮こまっていた胃が、ほっとゆるんで、お酒がやわらかくしみこむ。
慣れないことをあたふたとやり、かけた労力の割には不手際が目立ち、それでも、結果は報われてよかった。本当に良かった。
こんなにドキドキハラハラしたり、その反動で万歳してしまうのって、いつ以来だろう。
仕事で、うれしいことはもちろんある。企画が通ったとき。あて書きしたキャストが出演を引き受けてくれたとき。生みの苦しみを経て、ようやく脱稿したとき。でも、緊張から解き放たれるような解放感を味わったのは、ほんとに久しぶりだ。
それは、普段は「責任」を誰かが負ってくれているからなのだ、と気づく。たいていは、プロデューサー。皺寄せも突き上げも予算や時間の制約も結果責任も他の人が負ってくれているから、ドキドキハラハラしつつも、全力を尽くしているつもりでも、どこか気楽でいられたのだ。
プロデューサーの苦労と孤独を幾分理解できた、気がする。
同じように、見えないところで熱い汗や冷や汗をかいている人の苦労と孤独も。
そういう人達が、どんなときに傷つき、どんなときにやりがいを感じるか、も。
父母の会の役員を絶対やりたくない人もいれば何度も引き受ける人もいて、そこは人それぞれだけど、やったからこそ得られるものはある。そのいちばん大きなものは「やった人の気持ちがわかる」ことじゃなかろうかという気がする。
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