あちこちに打ち合わせに行くたびに「あれはいい!」「スポ根で成功している珍しいケース」などと試写を観た映画関係者が絶賛していた『風が強く吹いている』をマスコミ試写の最終上映でつかまえることができた。期待以上にわたし好み、ど真ん中の青春映画!
監督は、朝ドラ「てるてる家族」やNHK「クライマーズハイ」をはじめ、うまいなあと感心することしきりの脚本を書く大森寿美男さん。プレスシートによると、初稿が決定稿のような完成度で、これをぜひ形にしたい!と読んだ人たちが盛り上がり、でも監督どうするとなったとき、「脚本をいちばん理解している大森さんにやって欲しい! イメージを伝えてくれたら、僕たちが、俺たちが、やる!」とスタッフが推し、初監督を務めることになったのだとか。
箱根駅伝を映画で描くなんて、それこそ途方もなく大変なことだけど、脚本が皆を乗せてしまい、それぞれが力を目一杯発揮した結果、実現させてしまった。まるで、劇中でハイジ(小出恵介)の熱意に青竹荘の面々が突き動かされ、ありえない箱根駅伝出場を決めてしまったように。プレスシートを読んでいるだけで目頭が熱くなってしまった。
「なぜ走るのか」は、「なぜ生きるのか」に通じる。これもプレスシートに書かれていることだけど、学生時代、応援団という「なんのためにやってるの?」の疑問渦巻くところで汗したわたしには、「自分の力を引き出す情熱」なんて言葉がビシビシと響いた、学生生活の映画でありながら、一切授業が描かれていない潔さもなんだかかえってリアリティがある。応援団漬けだった四年間を振り返り、あの頃の自分も何かに向かって突っ走ってたなあと懐かしさと眩しさがこみ上げた。予選会や箱根の応援で応援団もしっかり登場していて、これまた血が騒いだ。
何かに一心に打ち込む人を見ていると、目が離せなくて、そのうち涙が出てくる。それが映画で描かれると、作りものっぽさが出てしまったりするのだけど、この映画は、「走る人は美しい」としみじみと思わせてくれた。とくにカケル(林遣都)が走るシーンはどれも絵になって、それだけでもスクリーンで観る価値があると思えるほど。朝焼けに向かって走るシルエットも、流れる景色の中を跳ぶように疾走する姿も。人間ってこんなにきれいに走るんだなあと見惚れて、ずっと見ていたかった。クライマックスの箱根のシーンのあの見応えは、彼をはじめ出演者の走りに宿る本物の迫力の賜物だと思う。
好きなところを挙げるときりがないけど、公開されたら劇場でもう一度観たい!と思える作品だった。次の人に「おすすめ!」タスキを渡したくなること請け合いだから、興行もロングランを記録!? 間もなく10月31日公開。
試写室を出た人が「原作とだいぶ違ってるとこもあったよねー」「そうそう、原作だったら、こう来るのにって思いながら観てた」などと話していて、映画にないお楽しみもあるのか、と未読の原作がますます楽しみになった。その二人が「凝縮し過ぎだよね」と話していたのだが、「詰め込み過ぎ」ではなく「凝縮し過ぎ」というのは脚本への褒め言葉だよなあと思う。原作のエッセンスを削るのではなく濃密なまま映画サイズに納めたということ。
ところで、大学駅伝といえば、学生時代につきあっていた人は、関西の大学の陸上部で長距離をやっていて、駅伝にも出ていた。でも、一度も応援に行かなかったのは、なぜなんだろう。応援団でありながら。その疑問を今はダンナとなった彼にぶつけてみると、「どこでやってるかわからないし。来ても迷うと思って誘わなかった」と言う、「他の人も応援に来なかったの?」「関係者しかいなかったなあ」。そんな……箱根駅伝は沿道に何万人も集まるというのに(映画のエキストラ動員だけでも3万人!らしい)、同じ学生駅伝でもまるで別な競技みたいだ。
「駅伝やってた人なら、絶対面白いよ」とダンナにすすめてみたが、「素人十人で、たった一年で箱根に出るなんて、ありえないよ」とさめた反応。4年かけてやっと5千メートルを15分台で走れるようになった彼は、「そんな甘い世界じゃない」と言う。現実はそうなのかもしれないけれど、作品は、こういうことは起こりえるかもしれないという説得力が十分にあった。ぜひ劇場で観ての感想を聞いてみたい。
2008年10月15日(水) 朝ドラ『つばさ』に参加しています
2006年10月15日(日) マタニティオレンジ19 おでかけが楽しくなるだっこひも
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