朝ドラ「つばさ」の打ち上げに、ちょうどそのとき放送中の第20週で竹雄を「過去からの刺客では」と怯えさせる谷村鉄次役を好演した及川いぞうさんがいらしていた。特長のある渋い声とあまたま似の丸い頭ですぐにわかり、話しかけたところ、「今度芝居やるんですよ」とチラシを渡されたのが、昭和芸能舎公演の『長ぐつのロミオ』。作・演出を見て、「羽原大介さんじゃないですか!」。わたしの大好きな『パッチギ!』や『フラガール』を書かれた羽原さんの舞台を一度見たいと思っていたので、ぜひ行きます!と社交辞令ではなく即答した(>>>8月14日の日記)。
お芝居好きの元同僚アサミちゃんと、アサミちゃんに輪をかけたお芝居通で演劇フリーペーパー「プチクリ」の発行人の一人(そしてアサミちゃんはプチクリのデザイナーでもある)の広告マン、ヤマシタさんも誘い、三人で新宿スペース107へ向かった。一名分を招待にしていただく。及川さんとマネージャーの柏谷さんに感謝!
補助椅子も出て満席。初めて観た昭和芸能舎のお芝居、まずはコント仕立てで鑑賞マナーの注意があり、早くも劇団のサービス精神をうかがわせる。発泡スチロールの箱を抱えた魚河岸ルック集団のダンスの決めのポーズで箱を合わせると、蛍光塗料で書かれたタイトルが浮かび上がる。
劇団名を新宿芸能舎から昭和芸能舎にあらためたそうだが、まさに昭和の匂いプンプン。出てくる歌謡曲や洋楽が、ヤマシタさんやアサミちゃんの中高生時代、わたしの小中学生時代の懐メロで、どの曲も口ずさめる。劇団名のもうひとつの柱である「芸能」をこれでもかと見せてくれるのも特長で、物語の端々で歌やダンスが披露されるのだけど、それぞれがちゃんとエンターテイメントとして楽しませてくれる。突然歌い出す、踊り出す芝居では、その唐突さと中途半端さに観客が椅子に張りついて硬直してしまう場合も多い。でも、「笑いを取りに行く物真似ダンス」「キレを見せるダンス」とそれぞれの立ち位置がはっきりしていて、笑えるものは笑い、見惚れるものは見惚れ(ディスコシーンでのダンスの振付けは、ダンス単体として観ても十分見応えがあった)ることができた。
ショーで遊べるのは、ストーリーの幹がしっかりしているためで、そこはさすが羽原さんの脚本。築地市場の移転問題という題材を膨らませ、移転推進派と反対派の対立に恋と祭りを絡めて起伏をつけた物語で、観客をぐいぐい引き込む。数多い登場人物それぞれにもしっかり光を当て、見せ場を作るという見事な目配り、筋運び。理想と現実、本音と建前、強がりと心細さ……誰もが持ち合わせる強さと弱さ、その間にある揺れが丁寧に描かれていて、どの登場人物にもじわじわと感情移入してしまう。
物語の運びも歌と踊りもラストの祭り神輿も、最初から最後まで息をつかせず、舞台の上は常に全力投球。暗転がなく、場面の切り替えが実に鮮やかで、2時間を超える長尺なのに退屈する暇はなかった。出演者一同そろってのにぎにぎしい挨拶の後「続いて、次回公演『モスクワ』の予告を行います」の告知。「モスクワオリンピックの幻の種目、男子シンクロ」がモチーフであるらしく、いきなり男性陣が海パン姿で再登場して踊り出したのに面食らいつつ、大いに受けた。これでもかのサービス精神、あっぱれ!アサミちゃんとヤマシタさんも大いに気に入り、「モスクワ」もすっかり観に行く気になっていた。
出演者は皆さん威勢がよく、気になる人が続々。贔屓目もあり、及川さん演じる吉野屋のオヤジはダントツに光ってた。もちろん、頭のてっぺんだけではなく……とネタにしていいのやら。でも、「禿げ散らかす」というセリフでしっかり笑いを取っていた。「そこまで禿げ散らかしても、わからないのか?」のようなひどい言われようをされ、「ぐずぐずしてたら髪がなくなって禿げ散らかせなくなる」と言い返す喧嘩に、妙なおかしみを誘われた。禿げ散らかす、なんともインパクトのある言葉だ。
及川さんの息子役を演じたゆかわたかしさんは、森岡利行さん(監督・脚本の『女の子ものがたり』を公開中)主宰のストレイドッグの公演でおなじみだった湯川崇さん。はじけた役どころがよく合っていた。主役のロミオこと博己を演じた佐野大樹さんは、見たことあると思って過去の日記を検索したら、『やわらかい脚立』に出演。日記内検索機能のついた日記をつけていると、自分が忘れていたことを思い出してくれるので、便利便利。まさに脳みその出張所。脳内ハードディスクの検索はできないけれど、日記に書き出しておくと、記憶を掘り出せる。
というわけで、今日の公演の出演者を後々のために記しておきましょう。ロミオの姉役の藤田美歌子さん、オカマのヨッチャン役の渡邊慶人さんが印象に残った。
長ぐつのロミオ
【出演】
★築地市場
魚勝グループ 博己:佐野大樹(*pnish*) 波子:藤田美歌子 勝男:松林慎司 社員 哲也:高橋稔 鮎子:康実紗
★場外市場
吉野家グループ 吾郎:及川いぞう 樹里:福下恵美 修仁:ゆかわたかし
チーム月島軍団 トシオ:浦島三太朗 マッチ:アフロ後藤 ヨシオ:渡邊慶人
★六本木ゴージャス
成田真佐江:中川絵美 小根村:笠原紳司
ゴージャスガールズ ルミネ:神谷奈々江 パルコ:鹿島由香 リカ:高橋梨佳 マユ:藤森麻由 メグメグ:若原めぐみ
黒服1:佐々木恵太郎 黒服2:熊谷淳司 黒服3:藤沼豊 黒服4:池田恵美
伝説の振付師 ヨーコ:ちかみれい 常連客 亜矢:涌澤未来
【スタッフ】 照明:太田安宣(ロンブル) 音響:山本能久(SEシステム) 舞台監督:赤坂有紀子 振付:井上陽平(ILKスタジオ) 宣伝美術:田久保宗稔(mt-w design works) 企画協力:星久美子(ラ・セッテ) 制作:奥井美樹 制作補:鄭光誠 協力 シバイエンジン 企画製作:昭和芸能舎
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