2009年07月17日(金)  一年ぶり!SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

去年、国際長編部門の審査員を務め、とても刺激的な経験をさせてもらった埼玉県川口市のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭。早いもので、あれから一年経ち、ただいま第6回を開催中(今年は7月10日〜20日)。関係者パスを用意していただいているので、できるだけ足を運ぼうと思いつつ、開催一週間目の今日になってようやく行けることになった。

おめあては、去年のクロージングパーティで仲良くなった藤村享平君の短編『アフロにした、暁には』。彼は函館港イルミナシオン映画祭のシナリオコンクールで市長賞300万円をせしめていて、同じコンクールの受賞者という縁で声をかけてくれたのだけど、その後で月刊シナリオに載っていた受賞シナリオ「引きこもる女たち」を読んだら相当面白くて、これからどんな作品を作っていくのか楽しみな青年。

短編の上映は午後だけど、せっかくなので、午前の長編も観ることに。『神の耳』(God's Ears)というアメリカ作品(予告編はこちらで)。ボクシングに打ち込む自閉症の青年ノア(マイケル・ワース監督自ら主演)が、ポールダンサーのアレクシアと恋に落ちるという純愛もの。あらすじを見ただけでは「裸同然で男を誘惑する職業の女が障害を持った男の純真さに惹かれる」ありがちな話という印象を受けたのだけど、二人が惹かれあっていく過程がとても丁寧で、本当に恋の始まりを見守るようなドキドキ感があった。アレクシア役のマーゴット・ファーレイが、ポールダンサーの妖婉さと素顔の優しさと聡明さという両面を実に自然に演じていて、それも作品の魅力になっている。

ダイナーで「卵なんてどこで食べても同じ」とうそぶくアレクシアに、離れたテーブルから鶏の蘊蓄を聞かせるノアという出会いから互いを意識し始める二人。ノアが「母親を迎えに行く」旅行にアレクシアが仕事仲間のキャンディとともに同行したことで、二人の距離はぐっと縮まるが、旅先で会うノアの叔父や祖母のキャラクターやそこで交わされる会話もとてもチャーミングだった。「2秒あれば人生は変えられる。Yes,I willというだけの時間がある」といった説得力のある台詞がちりばめられていて、それでいて語りすぎない。ラストでアレクシアが「LIVE NUDE」(生ヌード)の看板が掲げられた店を後にする場面、振り返ると、「LIVE」だけが目に入り、「生きろ」というメッセージになるのは、とてもすがすがしい。脚本を書いているのも監督で、編集もこなしたとのこと。なんてマルチな才能なんだ! 

終映後のQ&Aで監督は「コミュニケーションの映画を作りたかった」と話していたが、まさに、人と人がつながるというのはどういうことか考えさせられる作品だった。以前、「障害者と性」をテーマにした映画を作ろうとして、結局企画が立ち行かなくなったことがあったが、そのときのテーマもやはりコミュニケーションだった。その映画でやろうとしたことは、わたしが考えた以上にうまく、自然に、この『神の耳』に込められていた。タイトルの由来は劇中のノアの台詞で明かされるが、「誰にも自分の言葉が届いていないと思っても、神様は聞いてくれている」というような意味で、この言葉もとても心に残った。

「ノアを鶏博士にしたのはなぜ?」という質問には、「自身も鳥好きだから」と監督。「鶏は翼があっても飛べないので、その閉塞感の意味も込めた」とか。また、アメリカ映画によくある「貨物電車の通過待ち」の場面は、意図したものかという質問には、「撮影中に偶然貨物電車が通りがかり、監督の直感で使うことにした。通り過ぎて行く人生にたとえられると思った」とのこと。

出口で監督をつかまえ、「ダイアローグがとても良かった」と伝え、「鉄道好きだそうですが、日本の鉄道は楽しんでいますか?」と聞くと、「JR is great」という返事だった。写真に一緒に写っているのが、終映後に合流した藤村君。

藤村君とお昼を食べようと2階のシネマカフェ(映画祭期間中、地元の川口のイタリアンレストランがカフェを開店)へ移動する途中、「これ知ってます? すごいんですよ」と藤村君が映像ミュージアムを指差し、通り抜けていくことに。パンフレットや映像での紹介は見ていて、気合の入った施設だなあと思っていたが、先日訪ねたNHKスタジオパークが広々となったような贅沢な空間に最新の機材がずらり。

「お天気コーナーやってみませんか」と係の人に声をかけられ、挑戦。カメラの前に立つ姿が画面に合成される。「地図を指差しながら話してください」などと、かなり細かい演技指導が入る。わたしはノリノリ、藤村君はカメラには弱いことが判明。「歌のお姉さんもありますが」とすすめられるが、こちらは見本を見せていただき、演技は辞退する。

その隣は「空飛ぶ絨毯」の合成映像コーナー。小学生と思われる女の子二人が世界一周に続けて恐竜時代へタイムスリップ。これまた「パンチとキックで恐竜をやっつけて」などと細かい演技指導があり、大忙し。見ているのは楽しいけど、絨毯の上の二人は恥ずかしそうだった。

他にもムービーカメラの操作を学べるコーナーもあり、いたれりつくせりな映像ミュージアム。夏休みに親子で行ってみても楽しそう。

シネマカフェでお昼を買って、一階のおひさま燦々の下でランチ。藤村君とは去年のパーティで会ったきりだけど、今回の短編の製作話(函館の賞金を映画製作に使っている。えらい!)や脚本の話(商業映画は興行を考えて、若い男女を出す必要がある!というとこで盛り上がる)など、話題はいくらでもある。カレーもなかなかおいしく、去年食べたカレーパンもおいしかったのを思い出した。

さて、いよいよ短編上映。藤村君の『アフロ〜』の前に『ブランコ』『太陽の石』を上映し、合計85分の短編1(予告編もこちらで)というプログラム。

『ブランコ』はフリーのCMディレクター藤田峰人さんの初監督作。小学生の頃「ブランコ」というラジオドラマに衝撃を受けたわたしは、ブランコが出ているだけで心が揺れてしまう。まだかすかに揺れているブランコを見て、「誰かいたんだ」なんて情を描くというところは、ブランコらしくて心憎い。ブランコが物悲しいのは、あのきしみの音と、人が去っても揺れ続けるせいかもしれないと思ったりする。ブランコにかわるがわる座るカップルの会話がオムニバス形式で綴られ、その会話もそれぞれ興味深く、舞台劇のような味わいもある。短編にしては長い48分というある程度の時間をかけているので、もうひとひねりあると、より見応えのあるものになった気がする。それぞれのカップルが実はつながっていた、のような驚きが用意されているのではと期待が膨らんでしまった。わたしも広告業界から脚本の世界に飛び込んだので、広告出身の才能に、大いに共感と期待。今後の作品に注目したい。

『太陽の石』の遠藤潔司監督は75年生まれで、これが初監督作品。「影絵で映画をやろう」と思いつき、人集めを始めたもののなかなか集まらず、少しずつ支援の輪を広げていったそう。「とにかく影絵でやるんだ!」という真っすぐな想いが伝わってくるような作品で、太陽のかけらのような赤い石を拾う主人公の少年の気持ちに寄り添って観た。「デジタルだからできた」という影絵の表現が素晴らしい。あごから滴る滴で、少年が泣いているのだとわかったり、ところどころドキッとしたり、ハッとしたりする場面がある。発見と言ってもいいかもしれない。シルエットにすることで見えることがあるんだなと。音楽も監督がつけたそうで、これもデジタルだからできたという。

少年の横顔の美しさが印象的だったが、Q&Aのときに少年を演じた高岩彩さんが登壇し、女の子だとわかった。監督が脚本を相談していた脚本家さんの姪っ子だそう。男の子のように髪をばっさり切ったことについて、「男の子の気持ちでやりたかった」と答え、役者魂を見せていた。『太陽の石』はロサンゼルス国際短編映画祭(去年「つみきのいえ」が出品された映画祭だそう)にも出品しているとのこと。

『アフロにした、暁には』は、事前に「シュールですよー」と藤村君本人から釘を差されていたのだけど、驚きよりも、「わあ、藤村君らしい」という納得が勝った。彼の作品は去年もこの映画祭の短編部門にノミネート(数百本の応募から2年連続で勝ち抜くとは、強運と実力の証)されているのだけど、わたしは見逃してしまっているので、映像を観るのは初めて。でも、函館のコンクールの受賞脚本と、今日観た映画には同じ匂いを感じた。ぶっ飛んだ設定を、ありそうに思わせてしまうのは、登場人物の存在感のチカラなのか。キャラクターと台詞がうまいというか独特というか、テクニックとは違う光るものがある。カセットコンロがライター代わりとか、泡風呂に入る彼女の脛毛を剃ってあげる男とか、細かいところが面白い。アフロにして映画を観に行ったら後ろの客が困る、怒るという場面、わたしもまわりもかなり受けていたけど、この作品を思いついたのは、「映画を観てて、頭が邪魔なヤツがいる」ということだったとか。

もうひとつ、藤村君の作品は、セックスがとても当たり前な顔して登場する。あるけれどないものとして描く「避ける派」でもなく、描くからには意味を持たせる「掘り下げる派」でもなく、食事の場面のように普通のこととして描いていて、無駄な力が入っていないところが、かえってユニーク。ぜひ、『引きこもる女たち』の脚本も自ら監督して、映像にしてほしい。

アフロになるダメ男役の柄本時生さんは、柄本明さん(『ぼくとママの黄色い自転車』の岡山のシーンで、正太郎じいちゃんを熱演)の次男だそう。なんともいえないとぼけた味わいがあった。去年同じくクロージングパーティで仲良くなった西田薫さん(去年の日記を読み返したら、西田さんがまず声をかけてくれて、藤村君を紹介してくれたのだった)も出演していて、「お元気そう!」をスクリーンで確認し、なんだかうれしかった。

短編映画を観る機会はなかなかないのだけど、短編こそスクリーンで味わうのはいいものだ、と感じる。3監督そろってのQ&Aも三者三様の映画への姿勢がうかがえて、聞きごたえがあった。

映画祭事務局の木村美砂さんとも一年ぶりに再会。映画祭スタッフの方にbukuのエッセイ連載を読まれている方もいたりして、故郷で歓待を受けたような楽しい一日となった。

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