『パコダテ人』のプロデューサー、ビデオプランニングの三木和史さんの最新作『しあわせのかおり』を試写で観た。中華鍋を熱する炎がボワッという大きな音とともに青く揺らめいて立ち上がるオープニングにつかまれる。このボワッ!がけっこうな音量で、劇中で火が点くたびにわたしは座席で飛び上がることになった。よく熱した中華鍋を卵液が踊るように滑りながら固まりかけていく様も、画面いっぱいに映るとすごい迫力。包丁さばきも大胆なジャーッと炒める手つきも豪快で、中華を作るってアクションだったんだなあと気づかされる。
とにかく出てくる料理がひとつひとつ実においしそう。中谷美紀演じる百貨店の出店交渉担当がお昼目当てに一週間通い、一日交替で「山定食」「海定食」を注文するモンタージュは、あれも食べたいこれも食べたいと目が迷い箸状態になった。しっかりとカメラにとらえらえた湯気の中に、タイトルにある「しあわせのかおり」が本当に見えるような気がしてくる。
今作と同じく三原光尋監督、藤竜也主演、三木和史プロデューサーが組んで上海国際映画祭で最優秀作品賞を射止めた『村の写真集』同様、悪い人は出て来ず、写真の代わりに料理を通して登場人物が心を通い合わせる過程をじっくりと描いている。食事を作ることは「好き」を伝えることで、嫌いな人のために料理を作るのは苦痛なのはもちろん、まず自分が自分を好きという精神状態でいることがとても大切。わたしはそう考えるので、料理の腕を上げるうちにヒロインの顔つきが変わり、藤竜也演じる師匠の王(ワン)さんに認められていく過程を面白く観た。
説明をしすぎないというか、あえて空白を残しているように感じられる場面もあって、ここは食い足りないのではと思ったりもしたけれど、料理の満腹感とのバランスを考えるとちょうどよかったのかもしれない。体にやさしくおいしいものを食べた後のように、あたたかなもので満たされたような「しあわせ」がしみじみと広がる作品だった。
出口近くで「今井さん」と呼び止められて振り返ると、『パコダテ人』でご一緒した石田和義さん。CM制作会社から映画の世界に飛び込み、パコでアソシエイトプロデューサーとしてスタートを切り、今はヒットメーカーのROBOTにいる。そういえば、『村の写真集』にも関わっていたはず。石田さんに紹介してもらって縁ができたROBOTで何度かすれ違ったことはあったのだけど、やっと今日お茶する時間を持てた。お互いやパコ関係者たちの近況を話す。石田さんにとってもわたしにとっても初めての映画だった『パコダテ人』は、格別に思い入れ深い故郷のような作品。石田さんは、『死神の精度』に続き、超大作『K−20 怪人二十面相・伝』を手がけていて、金城武づいている。
2004年09月17日(金) 『浅草染太郎』のお好み焼き
2003年09月17日(水) Virginie Dedieu(ビルジニー・デデュー)
2002年09月17日(火) 宮崎映画祭『パコダテ人』上映と手話