おしゃべりなわたしの娘の割には、たまは言葉はあまり早いほうではないようだ。「パパ、かいしゃ」「そっちいっちゃダメ」などと意味のある言葉をどんどん発している保育園のお友だちと比べると、ゆっくりのんびりしている印象がある。いずれは肩を並べるのであれば、言葉を獲得する道のりは、寄り道や遠回りをしながら景色を楽しみつつ進めばいいかなと思っている。
言葉はおぼつかないけれど、何かを表現したいという気持ちがすごくあるときにどういう手段を取るか、観察するのは面白い。バイリンガルの帰国子女が「日本語が先に出る単語」と「英語が出る単語」を組み合わせてしゃべるのでチャンポンになるように、たまも単語によって「手が出る単語」と「口が出る単語」がある。このところしめじを気に入ってよく食べるので、「これは、きのこ」と教え、「きーのこのこのこ」と人差し指を立てて上下させるダンスを即興で作ってみせると、早速真似た。以来、売り場で、食卓で、きのこを見ると踊る。さらに、「おいしー」とほっぺたをたたく振付も加わった。「きのこ」は発音できないけれど、「オイチー」は言葉もついてくる。見たいは「ミ!」、聴きたいは「キ!」。これは言葉が出る。
「ママ」は言えるのに「たま」は言えないので、自分のことは「ココ」と呼んで鼻を指差す。「コ」は発音しやすいのか、「コッチコッチ」と手招きする。わたしが寝巻代わりに着ているトレーナーについているラコステのワニがどうも気になるらしく指差すので、「これはワニ」と教えたら、「ワァ二」。「タ」は言えないのに「ワ」は言えるのが不思議。わたしがわかりやすく発音するのをそのまま真似するので、「ワニ」は「ワァニ」、「バナナ」は「バァナァニャ」と間延びする。
「ワニ」という語感は、どこか間が抜けていてとぼけていて、1歳児でなくとも口にするのが楽しい響きがある。手当たり次第出会いに食らいつこうと大口を開けている男友達のことを、仲間うちでは「ワニる」という動詞で形容している。ひさしぶりの子守話は、「ワニ」という言葉がたくさん出てくる話。
子守話14 わになったワニ
ワニのかぞくが つまらないことでケンカをしました。 いもうとワニはおにいさんワニのしっぽをかみ、 おにいさんワニはおかあさんワニのしっぽをかみ、 おかあさんワニはおとうさんワニのしっぽをかみ、 「こらこらケンカはいけないよ」と おとうさんワニがいもうとワニをおいかけ、 ぐるぐるまわって わになりました。
わになったワニのうわさをききつけて なかまのワニが ぞろぞろやってきました。 「ぐるぐるまわっていては おなかがすくでしょう」と おやつをなげてくれるワニがいました。 ワニのきょうだいは おやつのとりあいでケンカをしていたので ケンカをするりゆうがなくなりました。 「おかあさん いもうとワニをなんとかしてよ」と おこっていたおにいさんワニも おなかがふくれて やさしいきもちになりました。
しゃしんかのワニが おもしろがって しゃしんをとりました。 「まわっているあなたはすてきですよ」と おかあさんワニをほめることもわすれませんでした。 おかあさんワニは すっかりきぶんがよくなって おとうさんワニと なんでケンカしていたのか わすれてしまいました。
しっぽにかみつくかわりに てをつないで ワニのかぞくは なかよく わになりました。 なかまのワニたちもくわわって おおきな わになりました。 「わになってうたおう わになっておどろう わにわに わにわに わになって」 ワニたちは しっぽをうちならし わになってあそびました。 |
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