下北沢・駅前劇場にてMCR公演『シナトラと猫』を観る。MCRが昨年実験的に行ったMCR-LABOという公演に招待され、そこでMCRという劇団を知ったのだが、これまでに観たどの劇団とも似ていない独特の空気とあまりに面白さに、一緒に観に行った観劇仲間のアサミちゃんと「今度は本公演を観に行こうね」と話していた。本公演も実験的で、同じ設定の物語の主人公を「椎名」「虎雄」「猫」と変えた3バージョンを一公演でやってのける。わたしたちが観た今宵は「椎名」の回。
MCR-LABO同様、役名は役者名をそのまま使っていて、ミカは黒岩三佳、ヒサヨは吉田久代。主人公の幼馴染の「虎雄」は根津茂尚、空地の「猫」は関村俊介で、こちらは『シナトラと猫』というタイトルを優先。役名は衣装である白いTシャツのおなか側にプリントされていて、背中側には主人公との関係が明記されている。「ヒサヨ・母」「ヒロ・父」「渡辺・先生」「江見・友人」といった具合。主人公のミカ本人は前が名字で「椎名・ミカ」。相関図の中心が変わる「虎雄」バージョン、「猫」バージョンでは、背中のプリントも変わるのだろう。
「椎名・ミカ」が「バブー」とのたまう赤ちゃん時代から数年刻みで成長していくごとにシーンが刻まれ、短い場面転換がある。コントのようなシーンをつなげて一本の芝居に仕立てるスタイルがLABOのときも新鮮だった。ありえない状況なのにリアルなセリフ、重いテーマなのに軽やか、そのギャップを自在に飛び越える構成とセリフのうまさに感心しながら観た。笑いながら考えさせられる作・演出の櫻井智也さんの匙加減はアッパレ。映像ならどんな表現をするのか興味がある。それで今井雅子に来る脚本の仕事が減ってしまうことになるとしても、観てみたい。
上演後は、MCR主宰でもある櫻井智也さん、創設時からのメンバーの北島広貴さん、プロデューサーの八田雄一郎さんによるアフタートーク。進行は杉浦理史さん。マッシュルームカットの風貌のこの人が舞台にいるのを見ると、なぜかうれしくなってしまう。こんな形でお目にかかれるとはトクした気分。櫻井さんはパチンコに明け暮れていた二十歳のときに「これじゃいかん」と思い立ってバンドを組もうとするが楽器ができず、書くことならできるので劇団を立ち上げたという。演劇のことが何もわからず、「動線」を「天井からぶら下がっている銅線」だと勘違いしたとか。MCRは現在14年目で、そのうち「苦節12年」。観客が一人ということもあったそうだが、今日は満員御礼。北島さんは台詞をしゃべっているときとは別人のようにガチガチ、カミカミになってしまい、八田プロデューサーの滑舌の良い軽やかなトークが際立った。劇団の資金繰りは映画制作以上に大変だろうと想像するが、このプロデューサーの口にかかれば、お金も人も集まりそう。
招待されることに慣れてしまうと、お金を払って観にいくことが億劫になってしまうのだけれど、気に入った劇団はチケットを買って応援していきたいと思う。MCRはまさにそんな劇団。
2007年03月14日(水) マタニティオレンジ93 マタニティビクスの恩師・菊地先生
2002年03月14日(木) 『風の絨毯』記者発表