先週、世間を騒がせた胴体着陸。うちのたまの得意芸でもある。おなかを床につけ、両手を床と平行に広げて、飛行機ぶ〜ん。これをやっているときは、実に得意げな顔をしている。ところが厄介なのは、この飛行機、翼が前輪にもなり、突如駆動を始める。おなかは床につけたまま、足の押し出しと腕の引き上げを組み合わせて、じりじり、ずるずると、全身を引きずる。いわゆる「ズリバイ」。よほどの重労働と見えて、一回ずりっと移動しては休憩し、くたばっているのだが、獲物を見つけると、すごい勢いで瞬間移動する。とかげみたいだ。好きなものほど、遠くにあっても執念深く追いかける。一回ズリバイして手に届かなければ諦めることを「1ズリバイ」と単位づけるなら、ビニールが2ズリバイ、本・新聞が3ズリバイ、いちばん好きな携帯電話は4ズリバイといった具合。先日、異様な関心を見せたヴィックスヴェポラップのチューブも携帯に並ぶ。5ズリバイ以上すると、わが家では壁にぶち当たる。
おなかを中心にした回転技も加え、360度どこへでも自在に移動するので、目が離せない。ベッドの真ん中でおすわりして機嫌よく遊んでいたので安心していたら、突然、不穏な気配がして、見ると、いつの間にかハイハイでベッドの端まで進んだたまが、勢い余って次に伸ばした手が空を切り、40センチ下の床へ頭から転落する瞬間だった。あっと思って駆けつけたわたしの目の前で、たまは頭が床を打つより先に両手をついた。それでも手では支えきれずにおでこが床にめりこみ、反動でベッドから離れた足が、ベッドの正面に立つわたしのほうに倒れてきた。わずか半秒ほどの出来事だったと思うけれど、緊急事態には脳はめいっぱい仕事をして、ストロボ写真状態になる。器械体操部出身のわたしのDNAのなせるわざか、0歳児にしてハンドスプリング(前方回転)が決まった、などと感心する余裕はなく、倒立の格好になったたまを夢中でキャッチし、抱き上げた。咄嗟に両手が出たからよかったものの、首で体重を受け止めていたらと思うと、ぞっとする。生後7か月の記念日に悪夢を刻むところだった。
朝起きたら子どもがベッドから落ちてて慌てて医者へ行ったという先輩ママいわく、「赤ちゃんは、落ちても身を守れるようにできている」そうで、ベッドから落ちたという話はよくあるけれど、落ちて大事に至った話はあまりないのだという。それでも本当に焦った。赤ちゃんの動きはボンバル機以上に予測不可能と肝に銘じて、目を配らなくては。
2002年03月22日(金) 遺志