ダンナの実家で晩ごはんをごちそうになる。「たかべがあるんだけど、焼こうか?」とダンナ母に言われて、思わず、「幻の魚!」と口走った。あれは結婚したばかりの頃だっただろうか、「これ、たかべ。おいしいでしょ」とダンナ母が熱心にすすめる焼き魚に口をつけたが、その魚はいわしにそっくりな味がした。隣で同じ魚をつついているダンナ妹に「たかべっていわしのこと?」と小声で聞くと、ダンナ母は「あなたたちは、いわしよ」と言い放った。一匹しかないたかべはかわいい息子専用だったのである。わたしだけでなくダンナ妹も同じ扱いを受けたので、「嫁に食わすなってことですか!」と目くじら立てる事態にはならず、「お兄ちゃんは愛されてるね〜」と笑い話になった。そんな昔を振り返りながら、「これがたかべなんですね」としみじみ味わっていただく。
ダンナ母は頭の回転が早く、それに負けないぐらい舌の回転が早く、嫁のわたしを打ちのめす数々の名台詞を吐いている。会社員時代の上司は、「ダンナ母にやりこめられる今井の話」を聞くのが大好きだった。出産のお見舞いに来た元同僚たちには「ついに噂のおかあさまに会えた」と喜ばれた。この日記の「おきらくレシピ」に登場するダンナ母語録にもファンは多い。そういえば、以前日記に書こうとしたものの公表を控えたダンナ母ネタがあったっけ、とファイルを発掘。読み返してみると、ダンナ母、実にいいキャラ。敵対関係ではなく好敵手(とはいえ、わたしはやられっぱなしだけれど)のような嫁と姑の関係も、なかなか新鮮。脚本なのか、小説なのか、もう少し膨らませてみても面白いかもしれない。以下、掘り出し物。
姑VS嫁1 お見合い
会社の上司に聞かせて、何より喜ばれるのが「姑」の話。姑とは言いたいことを遠慮なく言い合える関係だが、息子にただならぬ愛情を注いでいる姑は、何があっても息子の味方。わたしがダンナのことを愚痴っても、「それはあなたが悪いのよ」と返されるのがオチ。ダンナが絨毯にお茶をこぼしたのも、わたしのせい。ダンナが太るのも風邪を引くのも、わたしのせい、となる。そのやりとりを職場で再現すると、拍手喝采。わがまま娘のわたしをギャフンと言わせる舌鋒が、とにかく痛快らしい。
ところが先日、姑と二人でお茶をすすっていたら、「あなたと結婚してなかったら、あの子、どうしていたかしら」と、いつになく殊勝な発言。ようやく嫁のありがたみをわかってもらえたかと思い、「あんなわがまま息子の相手できる人は、なかなかいませんよ」と強気に出ると、「お見合いだったかしらねえ」と、遠い目をしてしんみり言う。「そうでしょうね」と調子に乗って相槌を打つと、姑は遠い目のまま、「いっぱい来たでしょうね。いい条件のお見合い」。油断したわたしが甘かった。お義母さん、その目は逃した嫁を見ていたんですか……。ここで「ひどい!」となれば、お決まりの嫁VS姑バトルに突入となるのだが、わたしの場合、「なんて面白い台詞なんだ!」とネタ帳に書きつけるのに忙しく、喧嘩にならない。
姑と嫁の関係といえば、「いびり」か「猫可愛がり」の両極端、でなければ「疎遠」かと思っていたが、うちはそのどれにもあてはまらない。息子(ダンナ)をめぐるライバルであり、彼のために力を合わせる同志でもあり、未来に向かってネタを積み上げるコンビでもある。 |
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姑VS嫁2 顔で選べば
深夜、心静かに本など読んでダンナの帰りを待っていると、どこかの酔っ払いが呂律の回らぬ舌で何やらほざいている。耳を澄ましてみると、「ブサイクー」と言っているようだ。その声に覚えがあると思ったら、わがダンナの声ではないか。通りから明かりのついたわが家を見上げ、妻に呼びかけているのだった。やがて千鳥足で帰還したダンナは、あらためて「ブサイク!」とほざき、深夜番組の画面の中から手を振る美女たちとわたしをかわるがわる見て、「チェンジ!」を連呼し、こちらが怒る間もなく寝入ってしまった。
この話を聞いた同僚のT嬢は「花だってキレイキレイと言われてキレイに咲くのに、そんな言われ方したら、良くなるものも悪くなるよ!」と激励(?)してくれる。「こういうことは、断固許しちゃダメ!」と背中を押され、姑に「ひどいんですよ、あなたの息子」と訴えると、「んまあ、あの子、そんなこと言ったの?憎たらしい」と珍しく息子批判。これは嫁に追い風か。「お義母さんからもピシャリと言ってやってください!」ともうひと押しすると、姑はきっぱりと、「そんなに不満なら、顔で選べば良かったのに」。ええっ、そう来ますか!? 嫁、返す言葉なし、あっさりKO負け。悔しいことに、このネタ、誰に話しても受ける。会社の上司も大喜び。いちばん笑ったのは、ダンナだけど。 |
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