2007年02月10日(土)  秘密のトンネル

当然そこにあるべきものが突然消えて、どんなに探しても見つからないとき、もしかしたら、どこかに異界へ通じる秘密のトンネルがあって、そこから向こうへ落っこちたんじゃないか、と思ってしまう。幼い頃のわたしはかなり本気でトンネルの存在を信じていて、忽然といなくなったおもちゃたちがあちら側で集まっている光景を思い浮かべたりしていた。この年になると、さすがにそんなおとぎ話めいた想像はしなくなったけれど、数日前、やはりどこかに抜け穴が……と疑いたくなる事件が起きた。お風呂に入る前にスイッチを入れたエアコンのリモコンが、お風呂から上がり、部屋があたたまったのでエアコンを切ろう、と思ったときには消えていた。着ていた服の一枚一枚を裏表ひっくり返して振っても出てこない。ティッシュの箱の中にも紛れ込んでいない。ベッドの下にもシーツの隙間にも、ない。まるで神隠しに遭ったようだ。

探し回るのに疲れて、向こうから現れるのを待つことにした。とりあえず、つきっ放しのエアコンはコンセントを抜いてオフにする。さして広くもないこの家のどこかにヤツが身を潜めているのは間違いない。開いた傘から鍵が転がり出てくるように、思いがけないところから手品みたいに姿を現すに違いない。しかし、夜が明け、再び夜が来ても登場の気配はない。リモコンがなくてはスイッチを入れることができないので、暖房なしの生活をしていたら、風邪を引いてしまった。

リモコンだけ買うことってできるんだろか、と心配し始めた矢先、事態はあっさり解決した。発見のきっかけになったのは、携帯電話。バイブレータをオンにしているので、着信メロディと同時にブルブルと身を震わせるのだが、夕方に部屋のどこかで着信したとき、「メロディはくぐもっているのに、振動音がやたら響く」という状態だった。音を頼りに居場所を突き止めると、携帯電話は壁とベッドの隙間にはさまってじたばたしていた。呼び出して返事をしてくれるモノは見つけやすくて便利だ。電話を取り出してから、待てよ、と再び隙間に手を差し込むと、確かな手ごたえ。こうしてリモコンは二日ぶりに救出され、秘密のトンネルを信じる根拠はなくなった。だけど、片っぽずつ姿を消す靴下やピアスは、どうやって、どこへ、消えていくんだろ。

2005年02月10日(木)  「香盤表」の由来
2002年02月10日(日)  ペンネーム

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