出産祝いにとCDが贈られてきた。宮本益光さんというバリトン歌手が歌う子守歌を集めた『おやすみ』。「どうして男の歌手が日本語で歌った子守歌のCDがないのだろう」とギモンに思ったジャーナリストの江川紹子さんが「子守歌は子どもが歌う最初の音楽。だから本物を」と美しい曲ときれいな日本語と最高の演奏にこだわり、企画を実現させたのだという。名前は存じ上げていたものの江川さんの著作にはまだ触れたことがなかったが、ジャーナリストに要求される粘り強さや度胸や行動力が一枚のCDに結実し、子どもを授かったわたしの元に美しい贈り物となって姿を現した。
18曲の子守歌のうち、松本隆さんが日本語詞をつけたものが8曲。吟味された言葉がシューベルトやブラームスやドヴォルザークの調べにしっくりとしっとりと寄り添い、耳に心地よい。けれど、子どもに合わせた甘い味付けにはなっていないのが松本隆流。「愛はいつでもさすらうもの 一人から また別の人に」(『おやすみ』 作曲:シューベルト)、「誘惑と戦ったの 死ぬほど苦しんで」(『夢』 作曲:トスティ)といった歌詞が子守歌には斬新。『ねむの木の子守歌』は「作詞:皇后陛下」とあり、「高校時代のお作詞」だという。宮本益光さんの伸びやかな歌声に身をまかせ、言葉のひとつひとつを味わっていると、とても気持ちがいい。メロディと言葉が響きあい、ゆっくりと指先まで体をあたためてくれる。
「子どもはもちろん、大人たちの一日の締めくくりにも、ぴったりだと思う」と江川さんは記されているが、眠りにつく前に聞いていると、疲れが癒され、いい夢が見られそうな気持ちになる。一日中寝たり起きたりが仕事の赤ちゃんよりも、安らかで穏やかな眠りを求めているのは、お母さんのほうだったりする。子守歌を耳元で囁いて労ってくれるような気のきいたダンナさんはなかなかいないから、そういう意味でも男の人が歌う子守歌CDは重宝がられるかもしれない。お母さんがゆったりした気持ちになって体と心を休めることができたら、おいしい母乳が出て、それを飲んだ赤ちゃんはすやすやと眠れて、そのおかげでお母さんも安心して眠れる。
2004年01月09日(金) ヨシミン(井野上豊)
2002年01月09日(水) 見えなかったB