■2004年最初に読了したのは『剣客商売七 隠れ蓑』よりひと足早く、『ヨシミン』。年末に作者の井野上豊さんから送られてきた小説で、井野上さんは秋元紀子さん(FMシアター『アクアリウムの夜』に出演)の友人だそう。秋元さんと話をしていたら、井野上さんが『彼女たちの獣医学入門』を観たという話になり、じゃあ今井さんに本を読んでもらおう、となったらしい。こんなつながりで届いた『ヨシミン』の表紙を見ると、「あ、文芸社だ」。わたしが4月に出すはじめての小説『ブレーン・ストーミング・ティーン』も文芸社から。これも何かの縁と感じて読み始めた。■ヨシミンというのは主人公の男の子の名前。あんまり長く眠り過ぎた彼が目を覚ますと、目玉がなくなっていた、と物語は衝撃的に幕を開ける。目玉探しに出かけたヨシミンは、神社でケノケノ様を待ちつづけるうちに老女になってしまったマチコや、目が光る不思議少女ナミダや誰もを受け入れてしまうミルクミなど、ひとくせもふたくせもあるキャラクターたちに出会う。社会の味方であるはずの警官が暴走し、教師が生徒の敵になり、ヨシミンの理解者のように見えた教育実習生も問題を抱え、ずいぶん救いのない話ではあるのだけど、読後感は意外とからっとしている。マチコをはじめヨシミンと心を通わせる女性たちの存在に救われているのかもしれない。全体にシュールな雰囲気が漂う独特のヨシミンワールドを繰り広げていて、つげ義春の漫画や村上春樹の小説がよぎった。こんな話は自分の頭からは出てこない。書いたものは作者の内面を映すというけれど、この一冊には井野上さんの生きてきた何十年かがギュッと詰まっていて、井野上さんが言いたいことがヨシミンやマチコの台詞になっているんだろうなと想像する。■井野上さんに感想のメールを送ったら、「昔読んだつげ義春さんの『ねじ式』という漫画には、今でも強い印象があります。『メメクラゲ』とか。主人公の顔とか。村上春樹さんも、大人になってから読んだ日本人の作家ではたぶん一番好きな作家です。少年だった頃は太宰治が大好きでした。そのほかにもいろんな人の影響が今の僕をつくっているのだと思っています」と返事が来た。2冊目の著書『バカDAY』も贈呈してくださるとのこと。本を通して読者が作者を知ると関係が、『ブレーン・ストーミング・ティーン』では逆転する。わたしを知らない読者には、作者はどんな人に映るんだろう。
2002年01月09日(水) 見えなかったB