2005年07月20日(水)  立て続けに泣く『砂の器』『フライ,ダディ,フライ』

立て続けにスクリーンで観た2本に、ハンカチ2枚分泣かされた。ひとつは、東劇で上映の『砂の器』デジタルリマスター版。テレビドラマ版の最終回だけを見て泣いてしまったのだが、松本清張の原作も未読で、あらすじはよくわかっていなかった。アルカトラス島刑務所(別名ROCK)脱走を描いた映画『ザ・ロック』を、途中まで音楽映画だと思い込んでいた経験があるので、2時間半の映画ではぐれては大変と心配したが、「○月○日、○○に到着」といった丁寧すぎるほどの細かなキャプションのおかげで、脱落することなく物語についていけた。

ハンセン氏病(劇中では「らい病」)で迫害された父とその息子が美しい日本の四季の中を彷徨う「過去」と、成長した息子が作曲した『宿命』を披露するコンサートの「現在」、そして彼の過去と犯した罪が明らかにされる捜査会議の「もうひとつの現在」。3つの場面が、心を揺さぶる『宿命』のメロディに乗せて交錯する後半、これでもかと涙を搾られた。罪は罪であるけれど、背負ったものが大きすぎるとき、人は自分を守るために鬼になり、恩人や家族さえも裏切ってしまうのではないか。追い詰められた主人公が自らの宿命を呪い、苦しんだ末に吐き出した曲というリアリティを感じさせる『宿命』の美しく悲しい旋律が、台詞以上に想像をかきたてた。

残念だったのは、長い上映時間のせいか、携帯電話で時間を確かめる人が目立ち、場内の蛍にときどき注意を奪われたこと。さらには後ろの席で通話をはじめた人がいて、涙は引き潮のごとく引いてしまった。

公開は1974年公開。丹波哲郎も森田健作も加藤剛も緒方拳も若い若い。それ以上に、捜査本部のある東京の街並みがこの30年でずいぶん様変わりしたように見え、今では探し回らなくては得られない地方の田園風景も、当時は当たり前のようにあったのかなあと思ったりする。その時代には、わたしと同い年ぐらいの戦争孤児も少なくなかったのだろうし、30年という時間は、世の中を大きく変えてしまう。劇中の捜査本部ではハンセン氏病への偏見と差別を過去のものとして語っているが、5年前、「今も苦しんでいる人がいるんです」とわたしにハンセン氏病関連の資料を貸し出してくれた医師の余語先生の話を聞いていると、この病気への理解は、時間の流れほどは進んでいないように思える。

もうひとつは、丸の内TOEIにて、『フライ,ダディ,フライ』。「ひさしぶりに、いい日本映画を観た」と打ち合わせの席でプロデューサーが絶賛していたので、観たい作品リストに急浮上。チケット売場横のポスターを見て、「堤真一と岡田准一が出てる」ことを知ったほど、ほぼ真っ白な状態で客席へ。それが良かったのか、劇場を出たときには誰かにこの感動を伝えたくて、すれ違った見知らぬおじさんに声をかけそうなほど興奮してしまった。

愛娘が「代議士の息子でボクシングチャンピオン」という男子高校生にボコボコにされた上、金で事を収めようとする男子の高校関係者の態度に怒り心頭の父親を演じるのが、堤真一。父親らしく娘を慰めてやれず、娘に拒絶されたこともあり、男子高校生の元に乗り込むが、間違えて隣の高校に。そこで出会った高校生グループ・ゾンビーズから、「喧嘩に強くなって、娘を殴った男子と対決する」という目標を提案され、ダメ親父の肉体改造と猛特訓が始まる。

この特訓を請け負う孤高の美少年を演じるのが岡田准一。バレエのような勝利の舞を披露する場面が何度かあるのだが、一歩間違うと滑稽、不自然になりかねないのをこんなに美しい名シーンにしてしまう力に感心。すごいスクリーン引力。マラソンで走っている人を見ているだけで泣けてくるほど、スポ根ものには涙腺が刺激されるのだが、特訓シーンには演技ではない真実味があり、走りこむほどに膝が上がり、体が締まっていく様子はドキュメンタリーを見ているよう。頬を膨らませて力いっぱい腕を振り、本気で走るスーツ姿のお父さんに涙を誘われつつ、いつの間にか心からガンバレーと声援を送りたくなるのだった。他の組み合わせは考えられない主演の二人をはじめ、ゾンビーズや「バス通勤のサラリーマン+運転手」の中年親父のキャスティングも心憎いほどはまっている。

パコダテ人』でまもる父ちゃん役の徳井優さんが中年サラリーマン役で、『ジェニファ 涙石の恋』の修行僧役の坂本真さんがゾンビーズの役で出演。『パコダテ人』『子ぎつねヘレン』の葛西誉仁さんが撮影助手で参加。ところで、この作品、原作も脚本も金城一紀さん。原作をご本人で脚色されたのかと思ったら、公式サイトを見ると、先に脚本を書かれ、ノべライズノしつつ映画化のタイミングを待ったのだとか。ゾンビーズは『レヴォリューションNo.3』からのスピンオフだそう。

監督は脚本家でもある成島出さん。シナリオ作家協会の集まりでちょこっと話しかけたとき、とても感じのいい方だったのだが、作品を見てますます次回作が楽しみになった。

2002年07月20日(土)  トルコ風結婚式
2000年07月20日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)

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