「1回観といたほうがいいよ!」と8回観たという同僚T嬢にすすめられ、マシュー・ボーン(Matthew Bourne)の『白鳥の湖(Swan Lake)』を観る。
去年に続いてのロングラン公演にもかかわらず、bunkamuraオーチャードホールはほぼ満席。引き算の美学のようなシンプルな舞台美術に、ロイヤルシェイクピア劇場で観た『Beauty and Beast』を思い出す。真っ白い壁に映る大きな影は影絵を見ているようだし、何もない舞台中央に置かれたベッドの使い方も巧み。
『白鳥の湖』といえば、子どもの頃に日本のバレエ団の公演を観たきりだが、白いチュチュの四羽の白鳥の舞が印象に残っている。CMでもよく使われているせいかもしれない。だが、マシュー・ボーン版では白鳥たちは男性で、力強い群舞で迫ってくる。四羽のダンスもまったく違った見え方になる。この白鳥たちは、王子が湖で出会うシーンと、終盤の王子の夢のシーンで登場するが、白いベッドに群がる白鳥たちの動きがだんだん本物の羽ばたきのように見えてくる。
人間の肉体、人間の動きってなんて美しくて面白いんだろう……と感極まったところで、幕。その途端に拍手と「ブラボー!」の嵐。日本の劇場で、あんなに大勢が「ブラボー!」と叫んでいるのを見たのは初めてだった。前のほうの客席は総立ちで拍手を贈り、カーテンコールが何度も沸き起こる。
カーテンコールというものにわたしは弱くて、興奮と熱気に呑まれているうちに涙が出てくる。力を出しきった人間を、心を尽くして人間が讃える。その惜しみないやりとりの中にいると、気持ちが満たされてあふれだすのかもしれない。CGでも合成でもなく、生身の人間の肉体芸術。もっとバレエを見たくなった。
「やっぱりナマってすごいね」とT嬢に言うと、「音楽もナマだと、もっといいよ」。今日を含め4月6日(水)〜 17日(日)の東京追加公演での演奏は録音テープだったのだが、 4月19日(火)〜27日(水)は東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏。T嬢は9回目を観に行くそう。
2002年04月14日(日) おさかな天国