『風の絨毯』プロデューサーの益田祐美子さんが「金太さんの祭屋台のドキュメンタリー作ろうと思うのよ。語りは三國(連太郎)さんにお願いしちゃお」と話すのを聞いたのは、いつだったか。「文化庁の助成金に申請したら取れちゃったわ。風じゅうのときもらえなかったけど、こっちでもらえてラッキー」と無邪気に言ってたかと思うと、「あれがね、文部科学省特選になっちゃった」と言ってのけ、あいかわらず魔女ぶりを発揮している。
その作品とは、ドキュメンタリー映画『平成職人の挑戦』。昨年11月の完成披露試写会を逃してしまったのだが、今夜ユニ通信主催の上映にお邪魔させてもらい、観ることができた。「お金と人を集めた益田です」の挨拶に続いて、67分の上映。『風の絨毯』の資料として祭屋台作りの記録ビデオを観たときの衝撃が蘇った。寿司屋のカウンターでも板前さんの動きから目が離せないわたしは、腕に誇りを持って仕事に打ち込む人を見ると惚れ惚れしてしまう。
職人たちが口にする言葉が、とてもいい。生き方を映しているような、脚本家が頭をいくらひねっても書けない、いい台詞を言う。「誰にもわからない道楽を2つ仕掛けておきました」と茶目っけたっぷりに話す鉄金具の職人、新名隆太郎さんは実にいい顔をしていた。工匠の八野明さんの背中を見て「親父がかっこいいと思った」と息子が弟子入りする場面では、涙がじわり。職人たちのこだわりと心意気に、「自分はどれだけ仕事にプライドを持っているだろうか」と問い返してしまう。三國連太郎さんは「役者もまた職人でなくては」とはじめてのナレーションに挑戦したとか。
15年にわたる様式バラバラの映像記録を紡ぎ直した乾弘明監督もまた職人。素材と素材を縫い合わせるように一本の流れに仕立てたナレーション原稿は、監督と長年お仕事されている釜沢安季子さんによるもの。丁寧に言葉を選んだ美しい日本語に感心した。東京では5月6日(金)19時・7日(土)と8日(日)の13時、新宿紀伊国屋ホール(TEL:03-3354-0141)にて上映。劇中に五重塔建立シーンで登場する世田谷の伝乗寺では、5月28日(土)午後、完成した塔を見ながらの上映を予定。
上映後は益田さんと監督への質疑応答タイム。20名を越える参加者の皆さんはほとんどが映画・映像関係者だとかで、かなり専門的な質問や指摘が飛び交うのだが、益田さんの回答はいつもの通り宇宙の彼方へ飛んだり戻ってきたり。「こんな素人全開のプロデューサーが作品を成立させたのか」という驚きが会場を包んだ。「今の、答えになってないよ」と突っ込む監督は、魔女田ペースにも慣れたもので、「名刺渡さないほうがいいですよ。大変なことに巻き込まれますから」と言って笑いを誘っていた。その益田さん、中田金太さんの半生を綴ったノンフィクションを執筆中。『平成職人の挑戦』東京公開にあわせてK.K.ロングセラーズより刊行予定。わたしは監修として参加。鉛筆一本買うために一日中鉄くず拾いをした貧しい少年時代に生きる知恵と力を身につけ、大金持ちとなった今は文化を遺すために数十億の私財を投じる。そんな金太さんの「お金も幸せも上手に太らせる生き方」が詰まった一冊、どうぞお楽しみに。
2004年02月17日(火) オーマイフィッシュ!