2004年12月04日(土)  『父と暮せば』@岩波ホール

■7月31日から神保町の岩波ホールで公開されている『父と暮せば』(黒木和雄監督)をようやく見る。週末はしばらく補助椅子を出しても入りきれない盛況を見せていたが、5か月近く経ち、ようやく座席にも余裕ができていた。とはいえ7割強の入り。見る前から作品の力を感じさせてくれる。すでに脚本を読み、涙していたが、映像になると、さらに感涙度はアップ。井上ひさしの原作の力を受け止め、より大きなエネルギーを発散させる父の原田芳雄、娘の宮沢りえの熱演に心を打たれる。他の配役は考えられないほどすばらしかった。■原田芳雄さんは、わたしがデビューする前の函館映画祭でご一緒して、一方的に記憶し、好感を持っている。赤ちゃんを抱いた若いお母さんに「かわいいですね、何ヶ月ですか」と気さくに声をかけるような人情味あふれる人だった。そのとき上映された『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督)の舞台挨拶で、「飛行機に乗れないので、東京から8時間かけて電車で来ました」と話されていたが、映画と鉄道を愛するご近所仲間のT氏によると「相当有名な鉄道通でいらっしゃいます」とのこと。■主人公父娘の葛藤をしっかり描きつつ、原爆投下という歴史の重さも痛いぐらいずっしりと伝える『父と暮せば』は、『TOMORROW/明日』『美しい夏キリシマ』とあわせて黒木監督の戦争レクイエム三部作となる。原爆といえば、わたしが子どもの頃は原爆記念日は登校日であり、家族で写真展を見に行く機会もあった。アメリカからの留学生・ブラッド君の滞在中に一緒に広島の原爆ドームを訪ねたりもした(ブラッド君の希望というよりは、アメリカの人に見ておいてほしいというわたしの母の意向だった気がする)。でも年々、原爆投下の歴史はわたしのまわりからもわたしの心の中からも存在を薄め、消しつつある。『父と暮せば』の父と娘の語る言葉の背景には何千人、何万人のヒバクシャの声があり、それらは決して創作ではなく、確かな事実だったのだ。この物語が気づかせてくれるものの意味は大きい。多くの人に届いてほしい作品だと思った。

2002年12月04日(水)  カブレラ

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