■名古屋に住む行動派同級生・亜紀ちゃんが「学会で上京するときに観たいものがある」と誘ってくれたのが、『ビーシャビーシャ』。アルゼンチンから上陸した型破りパフォーマンスの評判は聞いていたので、早速チケットを取る。劇団四季のホームシアターだった赤坂ACTシアターが四季劇場移転のため取り壊されることになり、「最後だから何やってもいいよ」ということで呼んできたこの公演、それまでは日本では上演不可能と言われてきたとか。「天井から水が降る」「いや、人が降ってくる」「そうじゃなくて、客がさらわれて空を飛ぶ」といろんな噂が飛び交っていたが、とりあえずスカートは避けて会場へ行くと、ビーチサンダルの集団が。足元ビシャビシャに備えるのを忘れていた!開演までロビーで待っている間、床や壁に書き殴られたイラストやメッセージを見て楽しむ。取り壊し寸前なので落書きおOKらしい。「感動をありがとう」「忘れない」といった言葉にまじって、「一度ここの舞台に立ちたかった」「絶対女優になる」といった決意表明も。■会場に入ると、オールスタンディングの客はすし詰め状態。今日はとくに混んでいるのでご注意をとのアナウンス。でも、注意しろったって……。会場内は「何かが起こる」のを待ち受ける観客の興奮が渦巻き、巨大押し競饅頭をしているよう。ちょっとしたゆるみで将棋倒しが起きかねない状況で、期待感よりも不安が上回ってしまい、思わず亜紀ちゃんとギュッと手を握りあう。紙を張った天井を見上げること約10分。天井がスクリーンとなって影絵を映し出す感じ。猛スピードで横切る人影や転がってくる球体が見える。ライトがぐるぐる回り、幻想的。だが首が疲れる。後ろの男二人組は「引っ張りすぎ。早く始めようぜ」とブーブー。と、天井がプラネタリウム状態になったかと思うと、あちこちがビリビリと破け、パフォーマーが見え隠れする。そして天井が破け去り、命綱でぶらさがった男女の集団が頭の上を行ったり来たり、かと思うと、ミニスカートの女性二人が壁を全力疾走。この壁走りの力強さは、見ているこちらも力がみなぎるよう。鍛え上げた筋肉が弾丸のように駆け抜ける姿は重力を超越していて美しい。とにかくパフォーマーたちはあきれるぐらいエネルギッシュで全身ゴムまりのように弾み続ける。すぐそばをパフォーマーが通ったとき、その体は汗ぐっしょりだった。■遠吠えのような歌と太鼓、天井から水を降らせての足踏み鳴らしダンス、客をさらう空中闊歩男、壁をトランポリンに見立てて弾む男女……。あるときは壁、あるときは空中、あるときはバルコニー、あるときは移動式ステージが舞台になり、パフォーマンスが繰り広げられる。そのたびにスタッフが観客を強引に誘導し移動させるのだが、これでよく将棋倒しが起きないものだと感心するほど唐突で乱暴。「遠慮するとかえって危ないかもよ」と亜紀ちゃん。1時間ちょっとの上演時間はあっという間に終わり、後には破けた天井の紙が汚く溶けたビシャビシャの床が残った。その水たまりに点在する色とりどりのものは、プラスティック製の小さな飛行機やスパナ。これも天井から落ちていたらしい。床にかがんで拾い集める人たちの姿が目立ったが、ほとんどが踏み潰されてグシャグシャだった。
2002年09月12日(木) 広告マンになるには