来るかもしれない地震に備えて、昨日は朝から大掃除。資料と衣料が地崩れを起こし、すでに地震後のようなわが家を地震前状態にしなくては。
「すて奥」作戦でワイングラスやら香水瓶やら家中のあらゆるガラスを花瓶にしてしまったので、倒れないよう箱に入れたり紙袋に入れたり、間にプチプチを詰めたり。牛乳パックはワイングラス梱包に便利と発見。テレビが凶器になると聞いたので、壁との隙間に座布団を詰め込む。
まあ気休めかもしれないが、「気休め」とはよく言ったもので、何かしていると、安全に近づいているような錯覚を起こし、気持ちが落ち着いてくる。
飲み水は買ったし、お風呂に水も張ったし、来るなら来い、となったところに沖縄出張からダンナ帰還。「おみやげ」と差し出されたのは、ガムテープをぐるぐる巻きにした道具箱。「何これ?」「ヤシガニ」「ヤシガニ?」「うん、生きてるよ」「生きてる!?」。なんでこんなときに面倒なもの買ってきたのとなじると、「酔っ払って、欲しくなっちゃった」とのこと。
大袈裟なカムテープをおそるおそるはがすと、中でガサゴソ。「うわ、ほんとに生きてる!」「ゆでて食うとうまいらしいけど、飼うっていう手もあるらしいよ」というので、『ヤッシー』と名づける。30センチ立方大のプラスティック衣装ケースに深さ3センチほど水を張り、放流。
ところが、ネットで育て方を調べたところ、「間違っても飼おうとは思ってはならぬ」と経験者からの忠告。想像を絶する怪力で金網さえも破るので、強固な小屋を作らなければ脱走されるとのこと。
「うちのヤッシーに限ってそんなことはないだろう」と勝手に決めつけたが、念のためダンボールとお盆2枚で蓋をした上に重しの電話帳を乗せ、ヤッシー小屋のあるダイニングのドアを閉めて寝る。
ヤッシーは一晩中ガサゴソ音を立てていたが、今朝ダイニングは不穏なほど静まり返っていた。「暴れまわって疲れたかな」と小屋をのぞきこむと、なんと、中はもぬけの殻。「ヤッシーが脱走した!」「ええっ」とわが家はパニックに。
ジュラシックパークの厨房シーンさながらの緊張が走る中、四方に目を光らせ、どこから飛び出すかわからないヤッシーに向かって投降を呼びかける。たかだか6畳ほどのダイニングの、どこに身を隠しているのか。沖縄ではゴミ箱を漁っているという噂なのでゴミ箱をひっくり返すが、いない。
と、棚の上にあったはずの箱が床に落ちている。椰子の木に登って実を食べることからヤシガニの名がついているので棚登りも楽勝なのかも、とのぞきこむと、棚の後ろのすき間にうずくまっていた。
決死のダイブをはかったのか。こうなったらゆでてやる、とバーベキュー用の火箸を構えるが、必死の抵抗に遭い、捕獲は難航。煮立った鍋まで持ち上げられず、鍋を床に下ろして、ひきずりこむ作戦に。命をいただくというのは戦いなのだと実感。
黒い猛獣と化していたヤッシーは、数分後、きれいに赤くゆであがり、おとなしくなった。すぐには食べる気になれず、冷蔵庫へ。「いつの間にか生き返ってさ、ドア開けたら襲ってきたりしないかな。冷蔵庫の中、食料いっぱいだし」とダンナはSF映画的空想を繰り広げる。
地震の恐怖は吹っ飛んでしまったけど、ヤシガニにはもう、うんざりがに!
2002年09月14日(土) 旅支度