■電話をうっかり取ったら不動産屋だった。引っ越す予定はないと答えるが、見て欲しい家があるという。「行っても冷やかしにしかなりませんよ」と言うと、「見てくれるだけで仕事になるんです」。ノルマでもあるのかもしれない。家から歩いてすぐの物件だったので、散歩がてら行くことにする。断るのが下手で、顔も知らない相手に同情してしまう。騙されやすく付け入られやすいカモネギ型人間だが、本人は「いろんな人に会うのも芸の肥やし」と思っていたりする。■担当のSさんは高嶋政伸似の爽やかな兄ちゃんだった。「何でも聞いてください」と言ってくれたので、シナリオを書いていることを明かした上で、家のことと並行してお仕事について聞く。どんな風に営業し、契約を取るのか。何がうれしくて何が辛いのか。電柱に貼っているチラシは誰がいつ貼るのか。書き手としてではなく一個人として興味があるのは、人々が何をもって「この家を買おう!」と決めるのかということ。週末にドバッと折り込まれる不動産のチラシを見るにつけ、これだけの物件からひとつを選ぶ難しさを思ってしまう。しかも何千万という単位の買い物だ。「出会いですね」とSさん。「だから、いつか買われる日のために、たくさん見ておいたほうがいいですよ」。というわけで、建築済みの3件を内覧し、建築中の1件を見に行く。部屋を見て、そこで繰り広げられる暮らしを想像するのは楽しい。口八丁ではなく、Sさんは本当に見せるだけで売りつけてこなかった。会社の方針なのか、彼の性格なのか。わたしにとっては有意義な家めぐりだったが、彼はこれでよかったのだろうか。家を探している人がいたら、Sさんを紹介しようと思う。■夕方、ダンナとスポーツクラブへ。黙々とマシントレーニングをしているとブロイラーのような気分になる。ランニングマシーンを発明した人は、どうしても家を離れられない理由でもあったんだろか。走った距離にあわせて恐竜が育つとか、映画の続きが見られるとか、何か変化があれば楽しいのだが。キロ数と消費カロリーが刻々と増えていくだけで、面白みがない。退屈のあまり「このベルトコンベアーの上で転んだらどうなるか」などとバカげたことを考えてしまう。検品ではじかれる不良品みたいに、みじめに飛ばされるのだろうか。試してみる勇気はないけど。■ダンナの実家まで1時間歩く。やっぱり景色が変わるほうが楽しい。