un capodoglio d'avorio
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2004年09月26日(日) 逃亡者(〜最終話)

わたしはこのドラマを面白いと思った。それは単純に阿部寛扮する刑事・峰島がとても格好良かったから。野生のカンみたいなするどい洞察力で、江口洋介扮する永井の必死の逃亡を追いつめていく様にドキドキしたからだろう。そのふたりの対決の構図が、西部劇、最後の決闘のシーン、街を食い物にする狼藉者のリーダーと、その街に流れ着いた流浪の保安官。そのふたりの間に舞う砂ぼこり。一瞬視界が遮られたあとの緊張感。わたしがこのドラマに引き込まれたのはひとえに、ここだったのだと思う。


けれども中盤以降、このドラマの構図は大きく展開する。それまでの<峰島 vs 永井>という対決の構図が、<峰島&永井 vs 警視庁&大病院>というものになる。きわめてモダニスティックな、個人対組織という構図になった。組織的な陰謀に翻弄されてきた個人が、逆にその陰謀を暴いていくという流れは、サスペンスを仕立てていく上で極めて優等生的な回答。けれどもこの謎解きという要素は、あまりに強い吸引力を持ってしまう。だから序盤、あれだけブラウン管越しにきらめいて見えた、阿部チャンと江口サンの華がスパークする役者芝居は、少しずつ後退していくことになる。


まあサスペンス調を強めたこと自体を責めたいわけじゃない。その裏に、人情噺っぽいトピックや倫理観っぽいトピックなど、いくつもの争点を観客にほのめかしてきたことが、どかとしてはひっかかる。争点を多様に散らすことで「重層的な味わい深い余韻」を生み出すことを狙ったのかもしれないけれど、どかには、なんだかドラマの魅力がとっちらかってぼやけてしまったように思えたの。


例えば「自分の愛する者を殺した犯罪者を許すことは可能なのか」とか。


例えば「ふたりとも見殺しにするか、一方を犠牲にして他方を救うか」とか。


でも、単なる追いかけっこ、ふたりのスターさんの対決に心躍らせていたワタシは、いきなり生命倫理っぽい話をぶつけられても、困っちゃう。いや、困りはしないんだけど、そういうことに触れてくるのであれば、もっと突っ込んだ議論をしてくれないと、アガンベンや『白い巨塔』などを再通過してしまった21世紀に生きるヒトたちにたいして、請求力はどうしても不足するのではないかしら。モダニスティックな<個人 vs 組織>という対立軸でドラマを締めたかったのであれば、より緻密な議論を展開していかないと、鼻白む感を与えることはまぬがれないように思う。


本当の黒幕が、実は大病院の院長、殺された妻の実の父親であることを知った永井が、最終話のラスト、義父の首を締め上げていく。そこにかけつける、峰島と、水野美紀扮する尾崎。永井を止めようとする尾崎を、峰島は制止する。それは第七話あたりの、峰島と永井の会話に伏線がある。湾岸の倉庫で対決した峰島と永井の会話で、過去に、彼らが交わした会話がプレイバックされる。「お前なら自分の子供が殺されてもそいつを許せるのか」と問う峰島に対して「苦しむだろうが、わたしは許せる」と答える永井。そのエピソードのなかの言葉を信じて、峰島は尾崎を制止したのだ。つまり、必死の逃亡劇と追跡劇を通じて、峰島と永井のあいだには信頼感が醸成されていて、ギリギリの局面でも相手の言葉を信じられる間柄になったのだ。ということを、この最終話のシーンでさらっと演出は見せたかったのだろうが、いかんせん、弱い。どかは、もっとこのふたりの間柄、憎み合いつつ、醸成される信頼感というのをクローズアップしてほしかった。そして、21世紀にあっても、そういう若干「くさい」テーマでも、背負いきれるほどの役者だと思うのね、阿部寛は。


しかし、そうはならない。


サスペンス調が強まり、陰謀色がドラマ全体を覆い、使い古された倫理っぽい争点が乱立してしまったために、現場のキャラクターへのフォーカスが弱まったせいだ。あの、尾崎を制止する峰島の、あのシーンこそ、どかが好きな「逃亡者」を締めくくるのにもっともふさわしいシーンであったにもかかわらず、実際の「逃亡者」は以下のようなセリフで締めくくられる。


  誰だって本当は弱いの
  だから誰だって、一歩間違えれば犯罪に手をそめてしまう
  でもね、その弱さに負けてしまったら、終わりなのよ

  (TBSエンターテイメント『逃亡者』最終話より)


おもわず、脱力してしまった、どか。こんな月並みな(ああ、言い切ってしまうさわたしは、こんなの月並みな正論だ)セリフで締めくくっちゃうのか。がくー。


まあ、でも、TBSらしい真摯な作風で、見られるドラマだった。わたしも序盤はグッと引き込まれたし、だからこそ、こんなふうに辛口な見方になっちゃった。阿部チャンはやっぱり格好いいし、江口サンも終盤はいい顔してた。水野サンは、アクション、がんばってたしよく走ってたし。別所サンは、最終話、かっこよかったなあ。悪者はやっぱりこうでなくちゃ。ふてぶてしさ最高。原田芳雄サンも院長役、良かった。原田美枝子サンも色っぽくて良い。最低だったのは、極楽とんぼの加藤。だめだあれは。黒幕のひとりを背負うにはどうしたって力量不足。カメラワークで演技をサポートするのにも限界がある。ああ、もったいない。主題歌の松たか子の「時の舟」はかっこいい。なんだかコアーズっぽいよね、アイリッシュなストリングスの使い方が。


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