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2004年02月23日(月) 野島伸司「プライド」(第7話)

急にチェンジするギア、跳ね上がる回転数。既にそのシートに身を埋めてしまっている視聴者は、ドアから飛び降りることもできず、襲いかかる強烈な縦Gによって逆に、シートに押しつけられて身動きできない。

野島伸司のドラマに共通するポイントはいくつもあるけれど、どかは、このふいに訪れる圧倒的なスピード感はそのひとつだと思う。名作「高校教師'93」や「未成年」しかり。「聖者の行進」や「リップスティック」しかり。これまで丁寧に織り上げてきたドラマを構成する要素のひとつ一つを破砕していくハリケーンは、視聴者のなかにある、常識やモラルに囚われた幻想すらも吹き飛ばす。その果てに残るのは、荒涼とした寒々しい、けれども同時にすがすがしさを感じるミニマムなムーア。

「プライド」における、シフトのチェンジポイントがこの7話だった。いや、だったはずなのだ。だって、唯一無二絶対的主人公・里中ハルの価値観が崩れ去り、そして自分の世界も、恋人との場所も、全てを失う回なんだもん。けれども、いまいちスピード感にかける。まるで、視聴者にショックを与えることを恐れるかのごとく。細心の注意を払ってクラッチを繋いでいるかのごとく。

ホッケーを取るか、亜樹を取るか。そんなシンプルな二者択一なんて馬鹿げているけれど、仮に構造としてそう見るとすれば、ハルは前回第6話で、ホッケーよりも亜樹をとることを選ぶ。だから、ハルの崩壊は既に始まっていたのだけれど、それが進んでいくと言うことだ。ホッケーのために総てを捨てて、自分の肉体を極限まで追い込んで「氷の女神」と出会ってみろ。そう、ハルに語る兵頭に対して、


 ハル でも最近のおれ、どうかしちゃったみたいで
    生身の、すげえ温かい女にはまっちゃったみたいで
    ほんとこんな自分全然想像できなかったんですけど、
    これが案外居心地がいいんです

 (野島伸司「プライド」第7話より)


鉄壁の自己完結度を誇り、究極のニヒリズムを見せてきたハルの世界が、完全に崩れたことを示すセリフである。もちろん「崩れた」というネガティブな言葉ではなく、成長とか、進化とか、そういう形容も可能なんだけれど。でも、これまでの自己完結を破棄する代償は小さくないんだなー。このセリフは兵頭がハルについて感じていた親近感を裏切るものであり、安西コーチ亡きあとのハルの指導者・兵頭から見限られる原因となる。ホッケーが、ハルにそっぽを向くのだ。

さらにあろうことか、亜樹はやっぱり、古き良き時代の女であり、ハルが見込んだ女だっただけに、夏夫のもとに去ってしまうんだなー。これで、ハルは、これまでの自己完結の安定を捨てて選ぼうとした新しい希望も失うこととなる。亜樹(アキ)はやっぱり夏夫(ナツ)とは繋がるけれどハル(ハル)とは繋がらないのだ。

さて、あっさり書くとこうなるけれど、でも実際はこのドラマの起承転結があるとすれば、転、しかも急転直下の転であるはずの第7話、しかし、スピードは上がらない。

映像から、それだけの悲しみが、切なさが、果たして伝わってきただろうか?だめ、どかは、ちょっと、だめでした。そりゃ、ジーンとは来る。でも、この重要なギアチェンジだったら、もっと破滅的な切なさが爆発してもいいのに、全然、おとなしい印象。何より、スピード感が、皆無なのが、どかは残念やら腹立たしいやら、まったくもう。演出のせいか?

それもある。でもでかいのはやっぱり、木村拓哉サンの演技だとどかは思う。フレームアップすれば、顔を大きく抜けば、そりゃ、それなりに細かい目線の上げ下げで間は持つだろう。でも、目線を上げ下げしようとしていると視聴者に読み取られちゃったら、いくら切ないシーンでも、だめじゃん。キムタク節とでも言うべき、あの特徴的なせりふ回しは、確かに印象的だけど、今回はあんまりセリフも多くなかった。だから、キムタク節にも頼れないで、ハルという役どころの切なさよりも、キムタクという役者の手詰まり感のみがクローズアップされてしまったのではないか。

まー、あれだな、どかは「プライド」というドラマを過去のキムタク主演のドラマと比較することはしないで、ひたすら過去の野島ドラマと比較して言いたいことを言ってるだけ。野島ファンとしては今回、ちょっと辛い思いをしなくちゃなわけだけど、木村ファンはどうなのだろう。

これからクライマックスに向けて、あと3話。野島ファンも、木村ファンも置き去りにしたまま、誰を納得させようというのか。それとも、どちらかのファンを拾うのだろうか。もしくは、パット見さわやかその実ボロボロ路線を突き進むのか。どかはフジテレビドラマ部の覚悟を見定めたいと思う。

あとはおまけ。依然、ハルは亜樹と結ばれないに1票。あと意外にも、容子が終盤の鍵を握っていると思われる。予言。


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