un capodoglio d'avorio
2004年02月09日(月) |
野島伸司「プライド」(第5話) |
野島伸司という脚本家の存在意義って何だろう。それはやっぱり「とことんまで突き詰める」ということだと思う。生活の実際を覆っている皮相的な局面を突き抜けて、ギリギリの本質を、まぬがれない対立を、露わにしていくスピードと鋭さにこそ、野島サンの脚本家としてのアイデンティティは求められるはずだ。
それはきっと「洗練」という形容ではなく、むしろ「朴訥」がふさわしい。「陽光に包まれた野原」という風景ではなく、むしろ「荒涼と寒々しいムーア」がふさわしい。そして、「温かい羽毛布団」のイメージではなく、「冷気漂う刀身の影」がふさわしい。これまでの彼の代表作を見てみても、いくら涙に濡れる感動シーンがあったとしても、それは心を締め付けるような残酷な事実が、単純に生きるの死ぬのを超えた、観念的レベルにおける残酷な事実が、観客の心に織り込まれているからこそ成立したのである。「とことん感」が野島ドラマの肝であり、「深度」こそがアイデンティティなのだ。
翻ってこの月9を見てみると、「とことん感」も「深度」も、ほとんど感じられない。はじめの2話ほどは、まだ仕方ないかなあと思いつつ見てきたけれど、ちょっとしんどいなあ。のっぺりした平板な現実世界に、ハーケンのような真実を打ち込むスピードや切れ味が、全く書けている。言葉の上滑りが止まらない。
木村拓哉の拙い(暴言多謝)セリフ術のせいだけでは、ないかも知れないもはや。TBSの「高校教師'03」は、野島ファンのあいだでも賛否両論あったけれど、どかは傑作だったと思う。野島サンの打ち込んだハーケンは、確かに余人の手の届かない高みにあるのかも知れないが、目をこらせばちゃんと視界に入るものだった。その絶望の岩壁に打ち込まれた、角度とシルエットは、視聴率には測れない美しさがあった。
でも、「プライド」は美しくない。美しい俳優と女優を集めていても、美しい特殊効果を入れても、美しくない。ハーケンが、刺さらないからだ。すべて、底知れぬ谷底へと、落ちていくばかりだからだ。セリフに込めた野島サンの志が、弱いからだ。かほどに月9の縛りは厳しいのか。フジから厳命された視聴率とは、そこまで絶対の至上命題なのか。
第5話は、おそらくこれまでで最もシリアスなテーマだったはず。故意ではないにせよヒトは罪人となること、それにどう向かい合うのか、生きる道は自己の内にあるのか、それを他人へと求めていくしかないのか。救いとは、何なのか。主観の欺瞞と客観の非情。そんな良い意味で野島的なテーマなのに、それを持ってくるときの設定があまりに突飛で、つまり坂口クン演じる大和の過去のエピソードが浮きすぎてちょっと、距離感がありすぎる。ドラマの脚本に関する最も初歩的なレベルで、これはお粗末とすら言えるのではないだろうか。
唯一、脚本家がこの回に煌めきを見せたのが、「プライド」というドラマの隔世感と、木村拓哉という俳優の演技の隔世感を、逆手にとってメタ的に上記テーマへとうっちゃりを決めた点だ。むかし自分がバイクではねて死なせた少年のことで苦しむ大和を、ハルはジョギングに誘い、最後に事故現場へ来る。取り乱し錯乱する大和に向かってハルは、それでいいんだよ、と言う。弱音吐けよ、人間ってそんなもんだろ、自分を生きろよ。このチープなストックフレーズは、しかし効果が無い。大和は「ダメだよ、ハルさん」と言いその場を立ち去る。うーん、ずるい。恥ずかしさを逆手に取るんだもんな。「ダメだよ、ハルさん」はまさに視聴者の心の声(そしてキムタクへのダメだしの声だ)。
その後、風間杜夫が登場!死んだ少年の父親役として出演、大和を許してやってくれと訪ねたハルの前で、未だわだかまりを持っている妻を諭すシーン。どかは、不覚にも泣いちゃったけど、敢えて、断言したい。私は野島サンの脚本に泣いたのではなく、かつての「つか十勇士」のひとり、木村伝兵衛や倉岡銀四郎を務めあげた、生粋のつか役者・風間さんの演技に泣いたのだ。
父 細かいことつべこべ言うつもりは無いし、 いままでもこいつにそんなこと言ったことはない だけどな、お前に一度だけ言っとく ゆるしてやりなさい 母 お父さん…
父 これは亭主として最初で最後の命令だ 古き良き時代の亭主としてのね 君の決めゼリフ、使っても良いかな?
ハル え…あ、どうぞ
父 めいびー!
ハル ... May be...
(野島伸司「プライド」第5話より)
ここは、確かに恥ずかしいのだけれど、でも風間サンの演技で奇跡的に救われていたとどかは思う。特に「ゆるしてやりなさい」の響かせ方は、本当にすごい。「めいびー!」も良かった。木村サン、あの風間サンと一緒に演技して何も思わないのかな。
第6話から、ようやく物語は動くらしい。ここまでの話は、いったいなんだったんだ、まったく…。あの野島サン特有のスピード感が、戻るのだろうか?不安のが大きいどかだった。
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