un capodoglio d'avorio
2003年07月18日(金) |
ラヴァーズ・キス(映画)ー重なる視点ー |
先週、やっとレンタルに並んだ宮崎あおいの最新作。 ここんとこ忙しくて「さあ自分へのごほーびに見ましょう♪」とか 思ってたら、またプラス2つのレポートを一晩でやっつけなくちゃで、 それは自業自得なのだけれども、まあともかく、やっと、ごほーび♪
吉田秋生の同名の原作を映画化、監督は及川中。 6人の高校生が織りなす瑞々しい瞬間を綴った映画、 キャストはあおいたんの他に平山綾(いまは改名して平山あや、かな?)、 市川実日子、石垣祐磨、阿部進之介、そして成宮寛貴クン。 成宮クンはもちろんどかのレビューでもおなじみ、 上戸彩主演の「高校教師」で、キーとなる役所だったヒト。
この男3、女3の関係性のなかで完結していく、 「片思い」や「片思い」、そして「片思い」、 ちょっぴり「両思い」がテーマなわけだけど、 6人中、4人が同性のことを想ってるのがポイントね。 で、実際におつきあいできるのはそれ以外の2人なわけで。
まあここまででは普通に切ない、普通な映画かなあと思うわけだけど、 でも実はちょっと違う、違うのは構成、それは「視点」だ。
つまり、時間軸がいくつも錯綜するのが、特徴。 まず基本となる短編・平山サンと成宮クンのストーリーがまずあって、 その次にまた時間が戻って、いまさっきのストーリーにも出てきたひとり、 石垣クンを主人公にして石垣クンから見たストーリーが紡がれる。 さらにまたリセットしてこんどはあおいたんの視点で紡がれて・・・ 例えばね、中庭で平山サンが成宮クンのことをバチンと平手で打つシーン、 それを次のストーリーでは石垣クンと阿部クンは屋上から見ていて、 また次のストーリーではあおいたんが教室から見ていたり。
どかがこの手法で思い出したのは村上春樹の「アンダーグラウンド」。 あの一人称の語りを重ねていくことから、 ドキュメンタリーの手法ではたどり着けない、 「客観性」を越えた「リアリティ」へ挑戦したあの作品を思い出した。 特に村上春樹が発明したわけでも無いと思うし、 吉田秋生の発明でも無いと思うの、この手法、 それほど目新しさがあるわけじゃないし。 でも、やっぱり、時として、有り得ないほどすさまじいリアリティが、 グーッと発動する瞬間が生まれたりするのだ。
ひとつのストーリーでは拾えないけど、 捨ててしまうにはもったいないエピソード。 でもそもそも「捨ててしまっていい」エピソードなんかあるわけなくって、 事実はひとつかもしれないけれど、真実はひとつじゃない。 とくに恋愛に関してだけは特にそうだ、なんて当たり前のこと。 ひとつの両思いの影には4つの片思いが存在する、 そんなことさら言葉にしなくてもいいことを、 言葉にしなくてもいいように、映像でそっと拾ってくれる。 それが、いいんじゃない?
鎌倉というロケーションも、もはや反則だと思う。 「パコダテ人」のときの函館もそうだけど、鎌倉、きれいだもんねえ。 まだどかがマーチくんに乗ってたとき、 あんまり遠乗りはしなかったけど、鎌倉だけは、良く行ったもん。 第三京浜すっ飛ばしてさ、平日とか行くと気持ちよかったもん。 海もあって、山もあって、お寺もあって、紅葉もあって、町並みきれいで。
おいおい、これいじょお、ほかになにのぞむっちゅうねんっ。
ってつっこみたくなるよね?
でもね。
望むんだな、それが。
彼ら彼女らは、あのきれいな街で、さらに望むのだ。 それは何て、うつくしいことなのだろう。
それぞれが何かしらのトラウマを抱えていたりするところは、 少女マンガのいわゆる方程式を感じさせたりするのだけれど、 この「複眼」構成の説得力と、そしてこの6人の絶妙に切ない人間関係が、 既視感を打ち消してさらに新鮮なリアリティを呼び起こすほどの効果。 吉田秋生、どかはまだちゃんと読んでないんだよね。 「バナナフィッシュ」は、なぜだかあの絵柄に入っていけず、 一度、挫折したきり、「桜の園」は読んでみたいなと思いつつ。 でも、映画見て、原作を読みたくなった。 「複眼」構成のギミックに頼りっぱなしではなく、 実はその目新しさの下に、丹念に織り込まれた色鮮やかな網目模様のセンス。 とにかくこの6人の設定にはさりげなく圧倒的なセンスの良さを感じた。
・・・あ、でもひとつ。 あの「夏服のカップルの幽霊」は、必要だったのだろうか? ちょっと疑問、でも石垣クンの夢を見たあとの結末は、最高に笑った。
にしても・・・ いいなー、こういう世界・・・ ってか、こういうキス。 そうだよねー、キスってさあ、くちびるとくちびるにくる確率ってば、 すごいすごい小さいことなんだよねー、泣いちゃうくらい小さいよねー。 と、思わず過去を振り返って、月明かりの中、 片思いのときに片思いの相手にしたキスは、 たしかにとても、とても・・・うん・・・ It's something specialだと思ったり、する。
(続く)
|