un capodoglio d'avorio
2003年04月07日(月) |
'03 Rd.1 JAPAN / Suzuka (加藤大治郎選手について) |
家に戻ってきたら、郵便受けにビデオテープが入ってた。 オーソリのミミ姉さんからだ。 わざわざ届けてくれたミミ姉さんには悪いけれど、 その白いテープのカバーに、言いようのない不吉さがまとわりついていた。 ・・・見たくないし、見る気ない。 と思ってたけど、やっぱり、見よう。 ちゃんと、自分の時間で、あの瞬間に立ち会おうと思った。 そしてその上で、9日午前二時現在も昏睡状態である大チャンに、 私は、エールを送るのだ。
3週目のシケイン。 その瞬間が来るとわかっていてそれを歯ぎしりしながらブラウン管を見るのは、 本当に、辛くてしんどい時間だった。 そしてその一瞬の映像。
一目見て、あまりにも救いのない不吉なシーンだった。 「死」のにおいがブラウン管から圧倒的に放射される。 コース上に横たわる青いライダースーツ、 それは「寝ている」のではなく「動かない」のだ。 そしてデジャビュ、私はこの映像の中に、 2人の世界チャンピオンを見たことがある。 1度目は、F1のアイルトン・セナだった。 2度目は、GP500のウェイン・レイニーだ。 私はどちらも、ほぼ、リアルタイムで見ていた。 セナはその「死」のにおいにまかれてしまった。 レイニーはかろうじてその空気から生還したが、 代償は下半身不随だった。
それでも。
それでも、レイニーは生還したのだ。
加藤大治郎は、天才である。 私は、このサイトで「天才」という言葉をあまりにたやすく使いすぎている。 それはもう、反省する。 反省するが、加藤大治郎というライダーを形容するのに、他の言葉があるだろうか。 原田哲也は250ccでチャンピオンになった。 坂田和人は125ccでチャンピオンになった。 そして最高クラスmoto-gpクラスでチャンピオンになれる可能性があるとしたら、 それは加藤大治郎だった。
加藤はGP年間最多勝記録を塗り替えて250ccのチャンピオンを獲り、 昨年からmoto-gpに挑んでいた。 現時点で誰も追いつくことのできないイタリアのスーパースター、 moto-gpをゼッケン1で走るヴァレンティーノ・ロッシが 今シーズン緒戦を迎えるに当たり「気になるライダーは?」 と聞かれて「katou」の名前を出していた。 そしてそれは、GPに携わる者ならば誰も驚くことではなかった。 実際、加藤大治郎の才能は、日本のジャーナリストよりも、 ヨーロッパのメディアで積極的に認められており、 イタリアに住居を移している加藤は、日本よりも、 イタリアでの知名度が圧倒的に高い。 ナカタやナカムラよりも、知名度は、高いのだ。 それほどに、彼は、速かった。
彼の速さは、原田哲也のそれとはまた違った印象がある。 原田はドッグファイトに無類の強さを発揮した。 競り合いになったときに、彼がマシントラブル以外で後塵を拝したシーンを、 どかはあまり覚えてない。 徹底的にコーナリングマシンを鬼のセッティングで仕上げて、 直線で抜かれてもコーナーで抜き返す、 相手の弱点を全速疾走のレースの最中、冷静に分析し、 レースを組み立て、point of no returnであっさり抜き去りそのままチェッカー。 それが原田の寒気がする速さだった。 大治郎は、競り合いすら、させない。 最初から、ペースの違いを見せ付け、器の違いを見せ付け、 どんどん差を広げてしまって、そのままゴール。 マシンのセッティングが決まりさえすれば、誰にも負けない。 本人は明らかにその自信を持っていたし、 周りもそれを認めた。 そして速いだけではなく、彼は、極端に転倒の少ないライダーだった。 私は、大治郎を見てると「偉大なチャンピオン」ミック・ドゥーハンや、 そしてそれよりも、あのドゥーハンがついに勝てなかった 「120%」ウェイン・レイニーを連想する。 憎らしいほど、速く、こけないで、レース自体がつまんなくなるほど。
でもレイニーと重ねるのは、大治郎の容態へのネガティブな連想ではない。 重ねて言う。 重ねて言うけれど、レイニーは生還したのだ。 私は、いま、現時点で、大治郎のレースへの復帰は望んではいない。 正確に言うと、大チャンのレースへの復帰の可能性は、考えたくない。 未来なんか、どうでもいい。 大事なのは、いま。 いま、この瞬間に大治郎は四日市の病院のICUの中で昏睡状態にあり、 そしてかれは必死に生きようとしていると言うことだけだ。 私たちに出来るのは、私たちと同じこの瞬間に戦い続けている大治郎に、 エールを送ることができるだけ。 レースに戻って、今度こそ、チャンプになって欲しい。 と、もちろん、私だって、思うさ、それは。 でもね、今までたくさんたくさん、大治郎にはピカピカ光る思い出をもらったから、 これ以上おねだりするのは、贅沢かも知れないって。
だからいまは、おねだりをするんじゃなくて、逆に私たちから贈り物をする番だって。
私は、心から、応援します。
神様、大チャンには第2子の女の子が生まれたばかりなんです。 奥さんは大チャンが希望していた「りんか」チャンと名付けることに決めたそうです。 大チャンは、まだりんかチャンを抱いていないんです。
お願いです、神様、大チャンをこちらに押し戻してください。 生まれたばかりの子供を、お父さんに会わせて上げてください。
大チャン、がんばれ。
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