un capodoglio d'avorio
passatol'indicefuturo


2003年03月01日(土) つか「熱海殺人事件 蛍が帰ってくる日」(BIG FACE)

キャスティング(BIG FACE;2/28 19時〜観劇)

木村伝兵衛部長刑事:川端博稔
熊田留吉刑事   :吉田学
水野朋子婦人警官 :金泰希
容疑者大山金太郎 :渡辺和徳
半蔵       :武智健二

昨日、東京に戻ってきてすぐに観に行った千円劇場、北区滝野川会館。「ほとんど」同じひとつの脚本に、現在21チームにシャッフルされた若手役者が挑むプロジェクト。どかが観るのはこのチーム"BIG FACE"で三つ目。まーおそらくこの三つ目の熱海で最後かな、どかの中ではこのシリーズ、だってあとはあんまし惹かれないもの。つまりひっくりかえせばどか的にどうしてもこのチームだけは外せなかった。理由はただひとつ、このチームにのみ特別に配された水野朋子婦人警官演じる、"BABY FACE"金泰希(キムテイ)!!

どかは去年の梅雨の新国立、オリザ演出の「その河をこえて、五月」で彼女を初めて観た。そのときに彼女が見せた「華」はどこからくるものなのか。それがずーっと気になっていて。彼女はかつて、つかの「二等兵物語」に出ていたらしく、後悔したんだよね(前述レビュー参照)。つか芝居で金泰希を観てみたい!どかのオリザ贔屓は有名だけれど、やっぱり役者芝居(対義語:脚本芝居)となるとつかこうへいの右に出る者は依然いないのだ、彼女の「華」の在りか、それが知りたい。

さて、でもね。水野役以外にもこのチーム、かなり出色のキャスティングで。たとえば熊田役にベテランの"POKER FACE"吉田学。うん、良かった。誠実で朴訥とした力強いコンプレックスの熊田を作っていた。あんまし目立たないけれど、さすがの経験。前に観た二人(川端・武智)よりもいいベターな熊田。弱者が開き直ったときの「凄み」はつかのテーマのひとつ、ちゃあんと背負ってたなー。

"BIG FACE"川端さんは伝兵衛。これが唯一の不安材料だったけど、頑張ってたなあ。熊田役で出たとき(哲とそのロッカーたち)にかましていた余裕は無く、いっぱいいっぱいに追いつめられていたのが、いい。でもね。狂気が足らない。前・木村役の二人、山本サンはぬめつくナルシシズム、赤塚クンは孤独な誠実さから、それぞれ狂気を目指したとすれば川端サンは全てを包む優しさでもって狂気を目指した。それぞれの役者にそれぞれの資質。川端サンの優しさは確かに、劇中、舞台上を包んでいくかのように思えた。でもねー。パピヨンの後、その自身の資質を爆発させて狂気にまでは持っていけなかったな。前の二人はそれが出来たのにね(そもそも優しさは爆発しない!)。それでも、健闘。「あの」水野朋子を前にしてよく腰を抜かさなかった。それだけで、評価などか。

大山金太郎役の"LONELY FACE"渡辺和徳。これも健闘。新人さんかなあ。にしては随分、上手い。そこそこつか節のせりふもこなすし、相手のせりふも受けられる。全体的なスケールがまだまだだけど、でも、チームの中で足をひっぱっていなかったから、評価などか。必死に振り切られないよう両手を離さなかった、偉いなー。

そして半蔵役の"SCAR FACE"武智健二。はまり役。鳥肌立った。赤塚クンチームではミスマッチの熊田役で暴れててそれがまた楽しかったけど、でも彼のフェロモンがあんな田舎臭い役に甘んじている訳がない。女たらしのスカしたゲス野郎、半蔵にこそあのフェロモンはふさわしい。もうね、あのアクションシーンと言い、最後のリサイタルシーンと言い、全てが色っぽくやらしい。いいなー、あのいやらしさ。ジャニーズのしみったれたガキの色気じゃなくてもっと、ちゃんと、オトコな色気。ハスキーボイスもステキ。普通なら、武智サンの半蔵がチームを牽引する圧倒的な「華」になってしまうところ。でも今回、そうはならず、チームの男性は拮抗した。なぜか。水野だ。今回の水野は、特別だったからっだ。

"BABY FACE"金泰希、もう姿形がどか好み。キゥ。謎。でもキゥ。そんな若くないけど(20代ではないらしい)若い無分別なフェロモンの代わりにちゃんと分別のある理知的な魅力が表に漂う。最初に出てきたときは、わりとはかなげな雰囲気、せりふ回しも韓国人にしては抜群にぺらぺらな日本語とはいえ、職業役者な他の連中と比べると少し違和感があって、まーそれも味かなと。でも途中から全然気になんなくなった。つか独特の機関銃のような早いせりふ回しも、ながーいひとりしゃべりも、がんがんこなす。身体を嬲られて悶える様子も堂に入っていて、それは渋谷亜紀のように「私ってキレイっしょ?」とゲヒて観客にこびるのではなくあくまで共演する相手との関係性において身体を張っているのだから、説得力が違う。あの美しい顔が歪むサマは壮観。

捜査が進むに連れて、水野のセリフも、身体も、表情も、全てにおいて説得力が段違い、圧倒的な輝きでもって舞台を染め上げていく。これ、演出、ぜったいつかが一枚かんでるよ。この「熱海」シリーズは演出が劇団員の嶋さんということになってんだけど、この金泰希バージョンに関しては絶対、御大自ら関わってるっていう確信のあるどか。役者によってちょくちょくセリフが書き換えられるのはいつものことだから、今回セリフの5分の1ほどが韓国語だったのはまだ納得もいくが、演出の全体が、金泰希を中心に回っているのは、もう絶対だもん。そりゃそうだ。このチームで一番リアリティがあるのが、金サンの美しさだもん。つかこうへいとは、ある意味実は一番どん欲なゲス野郎。これだけいい素材があったら、それを活かして自分好みに味わうためには何でもするよ、他の役者のセリフ削って、立ち位置入れ替えて、脚本のラストすら平気で書き換えるような人だよ、あの人は(そして実際、そうだった)。

終盤、実は伝兵衛の父親が水野を抱いていたという事実が大山の口から語られ「ロンゲストスプリング」の謎が解けるシーン。

 大山 いやじゃなかったのか。

 水野 いやでしたけど部長に似ている方でしたから。

 大山 ハハ。変わっているな女は。

 水野 おかしいですか。でも女なんてそんなもんですよ。

 大山 そんなもんだってよ(部長・熊田に向かって)。

 水野 指先とか笑い顔とか、やさしい心遣いとか。
    また部長は私なんか振り向いてくれない方だと思ってましたから。

 熊田 後悔してませんか。

 水野 いえ、後悔してません。

 熊田 なぜです。

 水野 女ですから。

 大山 女ですから。

 水野 そして、私なりにベストをつくしましたから。

 熊田 ベストを。

 水野 はい、ベストをつくしました・・・(つか「蛍が帰ってくる日」)

泣ける。このシーンは、確かに良いシーンだったけれど、今までの水野では泣けなかった。金泰希が「ベスト」と言うと、なぜだか、本気で切ない。それは簡単な話で、この水野は本当に精いっぱいつくしてきたんだろうなって納得出来るからだ。それはなぜか。彼女の目の誠実さ。セリフの真っ直ぐさだけではなく、それまでの捜査の中で、他の四人のセリフを全てきちんと受けきってきたという事実を観客が目の当たりにしているからだ。金泰希は、きちんと他人の芝居を受けることすらできる!しかし、どかはこのとき、震えるくらい感動していても、彼女の凄さをまだ、知らなかった・・・

そうして浜辺のシーンのアイ子としての狂いっぷりを足がかりに、パピヨンに突入。部長が水野の首を締め上げる大山を蹴り飛ばした瞬間から、水野の狂気が疾走をはじめる。恐ろしい目だ。全身総毛立つ。大山がアイ子を殺した事件、それは突き詰めると水野が抱く悲しみであり、部長が苦しむ痛さである。その悲しみや痛さが、水野の優しさや誠実さを狂気へと変換していく瞬間だ。伝兵衛から渡された花束で大山をめった打ちにするシーンは圧倒である。腰が据わっている。渋谷亜紀みたいく、ふらふらナヨっとしたたたき方ではなく、まさしく大阪風に言えば「しばいて」いる。花びらがパッと水野の周りの空間を染め上げ、その真ん中で鬼神のような顔で大山を見据える金泰希は、それまでで一番の美しさを極める。下半身は全くぶれず、上半身の筋肉の全てを使って打ち据える。完璧だ。もう、金縛りにあって動けないどか。

そしてその後、そのまま捜査室から立ち去る水野、追いかける水野。

 木村 待て!待て、水野!
    ・・・生まれてくる子供、医者はどっちだと言っていた?

 水野 男の子、だと(グッとこらえて、立ち去る)。

この花道上で伝兵衛をグッと見据える水野の凛々しさ。鬼気迫る狂気をもくぐり抜けた最後にたどり着いた表情。語弊があるかも知れないけれど、この表情を金泰希が獲得したこのシーンで、もう「ハッピーエンド」この芝居の幕は下ろしてもいいくらいだ。少なくともどかは、納得する。本当ならこのあと、伝兵衛が自身の狂気を開放して一気に舞台を収束させていくのだけれど、川端伝兵衛は狂気を持てなかった。いや、正確に言うと、すでに金泰希水野が舞台を全て持っていっちゃったのだから、何も、することが残っていなかったのか?この後、もう、ストーリーの整合性がめちゃくちゃだけど、チマチョゴリ姿で水野が再度、最後に舞台に上がり、伝兵衛とデュエットする。でもこれはおまけだ。確かにコスプレ好きのどかとしては、金泰希INチマチョゴリは、鼻血もので倒れそうだったけれど、多分それはつかこうへいも一緒で、芝居のストーリーとしては、もう完結している水野だけれど、自分のコスプレ観たさ願望のあまり、もう一度水野を無理矢理舞台に上げたのだろう。脚本を変えてまで。まったく・・・、でもうれしい♪

金泰希の「華」の在りか、それは結局良く分からなかった。でもこの人は、並はずれた孤独と、並はずれた悲哀を知っていて、それを自らの血肉にしている。その身体があるからこそ、役者の芝居を受けるときには、まったく芯がぶれずにスンッとそこにいられて、つか節を口にするときには、鋭すぎるその感触をセリフにたたえることができるから、相手を切って自らも切り刻むことができるのだ。

今回、水野以外の四人も、かなり健闘していた。水野を中心として、誰が彼女をゲットするのか、その人間としての力のぶつかり合いが、弾けるベクトルが、目に見えたような気がした。つかはもともと、役者の小技なんかよりも人間としてどこまでギリギリまで追いつめることができるのか、それが観たいと言っていて、今回、その理想がかなり明確にリアリティをもって見えたどか。それはきっと、真ん中に金泰希という稀代の女優がいて、全ての芝居を受けていく強靱な精神があって、それで周りの役者がギリギリまで舞台上で相手に肉迫していけたからだと思う。

今回の舞台は、正直に言ってどかの中で、去年の「モンテカルロイリュージョン」を越えた。つまり、今まで観たつかの中で、ベストだった。これはベストだ。もちろん、有名な役者は一人も出てないし、たかだか\1,000のチケットで、照明も安っぽいし、演出も荒削りでまとまりがない。多分ふつうの芝居マニアが観たら、そんな高い点はつかないだろう。でもね、どかにはそんなこと、関係ない。どれだけそこにリアリティがあって、どれだけそこに狂気があって、どれだけそこに「華」があるか、が問題。

にしてもびっくり。つか芝居は「女が不在」だとよく言われる。それはつかが描くヒロインがあまりにも弱くて、あまりにも強くて、その振幅の大きさについていける女優が現実にいなかったためだ。しかし、ついに、ここに、つか芝居のヒロインが降臨した。小西真奈美よりも、内田有紀よりも、ともさかりえよりも、渋谷亜紀よりも、そしてあの平栗あつみよりも醜く、美しい正真正銘のつかヒロインがここにいる。金泰希で、どかは「広島に原爆の落ちる日」が観たい。絶対、観たいのー!


おまけ。今回の「熱海」シリーズでベストと思われる役者をチョイスしてみたくなった。これでやってくんないかなー。

キャスティング(DOKA'S BEST;SOMEDAY・・・)

木村伝兵衛部長刑事:赤塚篤紀
熊田留吉刑事   :吉田学
水野朋子婦人警官 :金泰希
容疑者大山金太郎 :小川岳男
半蔵       :武智健二

このメンツなら、狂気の反発融合のすさまじさにメトロダウンが起こるはず。やってくんないかなー
(←メトロダウン直前の滝野川会館)。


どか |mailhomepage

My追加