un capodoglio d'avorio
2003年02月28日(金) |
野島伸司「高校教師('03)」第8話 |
第8話「許されない嘘」
第2話のラストシーンを見たヒトの誰しもが予想しえた展開。第8話のラストシーン、ついに風船が、はじけ飛んだ。そこに至るまでの郁巳が静かに毀れていく表情は、一方でただ汚らしく、でも一方ではひたすら美しかった。藤村先生への心情告白、
郁巳 彼女は、僕の友達でもあります 妹でも、そして恋人でも 母親ですらあるのかもしれない もはや・・・僕のすべてに
これはもはや、通常の意味では恋愛とは言えないだろう。依存。百合子は「依存には希望はない」と言った。「希望」とは未来。確かにすべてがここにあるという郁巳の感情には、今しかなく未来は感じられない。一方で普通の恋愛感情が薄っぺらく見えてしまうような、究極的な深度もここにあると感じられてしまうどか。
このセリフと似たモノが、野島伸司の二冊目の絵本「コオロギJr.の愛」にもあった。スワンレイクのほとりではただ流れる時間すらなく、未来もなく過去もなく、希望もなく悔恨もなく、何もない。その代わりにすべてがある、そのすべて。それがこの郁巳のセリフ。でもこのシーンの郁巳の顔、アップになるのだが、かなり痛い。もはやこの世の実際からかけ離れたところに行ってしまった毀れっぷり。繰り返すが、汚らしく、美しい表情。この表情を捉えられた、ディレクターは偉いと思う。・・・でも雛の郁巳のあいだの「悪魔の嘘」は真美と悠次の「快楽のライン」によって、ついに暴かれる。雛はいったんは抵抗し、郁巳を信じようと頑張ってはみるの。
雛 じゃあたしの一番のわがまま聞いて
郁巳 うん、いいよ
雛 あのね、一緒に死んでくれる?
郁巳 え・・・?
雛 一人じゃ怖いからって言ったら、そうしてくれる?
郁巳 ・・・ああ、・・・いいよ
雛 バカ、そんなこと言っちゃダメだよ 信じちゃうんだから 先生の言うことは信じちゃうんだから
郁巳 ・・・ごめんよ
美しくて、好きだなどかは、このシーン。でもおそらくこれがこのドラマの、最後の優しいシーンだった。このあと雛は病院で郁巳のカルテを見てしまい、ついに「郁巳の実験」は終わりを告げるから。郁巳がこの最後のセリフで「信じてもいいよ」という哀しいセリフは言えない・・・。そう、たったひとつのこと以外は、郁巳はいっさい、嘘をつかなかったのだ。どかはこの切ない誠実さ、郁巳のこの真面目さにグッときてしまう。けれども、彼が犯したたったひとつの大罪・嘘のゆえにこの小さな郁巳の良心は、断罪の大きな車輪に挽き潰されてしまう・・・
雛 どうして・・・ そんな嘘ついたの 何をしてもいいの? 自分が病気だったら 私が・・・どんなに怖くて哀しかったか分かるでしょう なのにどうしてそんな酷いこと
郁巳 すまない・・・ 雛 人間じゃないよ 先生は人間じゃない
郁巳 聞いてくれ、初めは・・・
雛 悪魔だよ
郁巳 あぁ・・・ そうかもしれないね
・・・絶句。はあ。あああああ。脱力。感傷。悲哀。はあああ。切ない。郁巳は「初めは・・・」のあと、何て言おうとしたんだろう?
「初めは、自分と同じ苦悩を持つ人間をただ、観察したかったんだ」と来て、 「でも今は違う、君はボクの全てであり(愛している)」かな。
最後に愛している、と言い切ったかどうかは不明だなあ。いずれにしても、その後の雛の「悪魔だよ」という一言で、郁巳のいっさいの希望は剥奪される。すべては手遅れであり、自分はまた、無明の闇に、永遠の孤独に突き落とされたのだと。はああああ。郁巳が雛に対して、普通の意味においての「恋愛」を越えた感情を持っていたことは明らかで。じゃあ雛が郁巳に対して抱いてた感情って?こんなにあっさり覆ってしまう感情だったのだから、それは単なる「依存」にしかなかったのだろうか。ん?「依存」は儚いのか?じゃあ、郁巳の感情は?
もし今、郁巳の脳腫瘍をキレイに取り除けるような、ノーベル賞もんの薬が出てきて、彼を完治させてしまったら、彼は雛を忘れるのだろうか。自分にとって「すべて」だとまで言い切った相手を?んー、分かんないね。「依存」でもなく「恋愛」でもなく、でもそのどちらでもあるような。そんな感情というのは、やっぱり「悪魔の実験(雛)」か「無敵の状態(郁巳)」を手に入れないと不可能なものなんだろうか。「コオロギJr.の愛」は所詮絵空事だったのだろうか?
冷静にこれまでのプロットを踏まえて、あり得るリアリティを考えると、その答えは「イエス、絵空事です」としかならない。雛が再び、郁巳に対して心を開いていく可能性というのは嘘ならば可能だろうという気がする。つまり、郁巳が自分に対して「悪魔の嘘」をついていたということを若干なりとも情状酌量して許すことができたという仮定の上で、さらに彼はもうすぐ死ぬんだからそれまで良い夢みさせてあげよう。って「悪魔の嘘」返しをするのならば、可能だろう。
でも、そんな「嘘」、ぼくの彩ピンがつくはずないもん(なんだそりゃ)!というわけで、次からラスト3話。いよいよ、クライマックスだあ。にしても「コオロギJr.の愛」を連想させられるとは思わんかった。あれ、いい話なんだよね。読ませたヒト、みんな、泣くもんな。
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